HPのパソコンをはじめとした製品はオフィス利用の汎用機というイメージが強く、よく言えば質実剛健、悪く言ってしまえば没個性的、という印象のデザインが多かった。しかし昨今、そうした従来のデザインから一変し、所有欲を満たすような質感やフォルムの製品を、同社が展開するさまざまなカテゴリにおいて、幅広く展開するようになっている。

こうした変化の背景には、デザインチームの努力と方針の刷新があったという。今回は、日本HPが11月17日に開催したプレミアムPCの新製品発表会において、HP Inc. インダストリアルデザイン担当 バイスプレジデント ステイシー・ウルフ氏がその背景を解説したプレゼンテーションの様子をお届けする。

HPのデザインチームが、変革のためにしてきたこと

ウルフ氏は、プレゼンテーションの冒頭で、「過去に、私たちは平均的なデザインの製品を作ってきた」と、かつての製品デザインについて言及した上で、同氏率いるデザインチームが「ここ数年で何を達成したか」ということにフォーカスを当てて、プレゼンテーションを展開した。

「約4年間にわたる努力によって、HPのデザインに対する(外部からの)意見を変えることができた」と語ったステイシー・ウルフ氏

デザインチームには11カ国のスタッフが参画している

プレゼンテーションのスライドに、11カ国の国旗を並べて示したウルフ氏。今日のHPのデザインを実現するにあたり、デザインスタジオ内に「文化的多様性があること」が重要な要因となったと言及した。「グローバル市場のためのデザインをするのであれば、デザイナーはグローバルフットプリントを製品に反映できなくてはなりません」と、複数の国にスタジオを置き、さまざまな国籍の人がプロジェクトに参画する重要性を説いた。

スタジオ内には、工業デザイナーだけではなく、多様な専門性を持ったスタッフが在席しているという。CMF(色や素材、加工など表面の仕上がりを担当する)デザイナー、エンジニア、ヒューマンファクターの専門家など、製品に携わる専門家は多岐にわたる。

「製品は多くの側面を持っているのですから、ひとつの分野の専門家だけで、完璧な仕事をできるはずがありません」(ウルフ氏)

また、デザイナーの文化的多様性だけでなく、メンバー1人ひとりが、どういった遺産を持ち込んだかも大切な要素だという。過去の学歴や経歴の異なる人が、さまざまな考えをスタジオに持ち込むことで多くの新しいデザインを、特別なかたちで実現できるのだと語った。

デザインを支える3つの柱

デザイン変革のきっかけは、2014年に発表された同社の分社化だったという。現在、同社はPCとプリンティング事業を展開する「HP Inc.」と、エンタープライズ事業を手がける「Hewlett Packard Enterprise」の2社に分かれている。

分社化をきっかけに新たなミッションを課されたウルフ氏。新たなデザイン哲学を打ち立てるところから、デザイン面の変革を開始した

これを機に、エグゼクティブから「HPのデザインを変える」というミッションが与えられた。ウルフ氏は、「これまで私が担当した仕事の中で、おそらく最も難しいものだった」と振り替える。デザインチームを育成し、ひとつの哲学を生み出すために、同氏はこの4年という月日を使っていたのだと語った。

そして、改革を進めるにあたって掲げた「PHI(ファイ)」というキーワードを示した。黄金比という意味もあるが、これは同社のデザイン領域における挑戦を示す造語。ディオン・ウェイスラーCEOが示した、「私はリードしたい」、「私は一貫性が欲しい」「そして、クールなプロダクトが欲しい」という3つの要請をかみ砕いて作られた言葉で、「P」はprogerssive(革新的)、「H」はharmonious(調和)、「I」はiconic(象徴的)の頭文字だ。

こうしたデザイン哲学を形成した上で製品開発を行ったことで、同社の製品は著名なプロダクトデザイン賞である「レッド・ドット・デザイン賞」をはじめ、多くの賞を受けるに至った。また、受賞だけでなく、多くの製品において売り上げもアップしたという。

「これらは素晴らしいベンチマークですが、だからといってここで終わりではありません。最終的にわれわれがたどりつくべき解は、『HPの製品が欲しい』と思ってくださるお客様なのです」(ウルフ氏)

HPのデザイン、"劇的ビフォー・アフター"

ウルフ氏はプレゼンの終盤で、「劇的な変化を見ていただきたい」として、同社製品の"劇的ビフォー・アフター"的なスライドを披露した。

いずれも、左が「before」、右が「after」の製品。それぞれ製品種別は異なるが、大きく見ると丸みを帯び、メカらしいフォルムから、シャープなそれへと変化している

かつての製品を「Mee too製品」と評し、「単にパーツを組み立てたものにすぎない」と辛口のコメントを寄せた。その一方で、カーブスクリーンのモニタを有するオールインワンPC「HP EliteOne 1000 G1 All-in-One」を、「部屋のセンターピースにできる美しさ」を持ち、多様な使い方が行える、きわめて象徴的な製品として紹介した。

オールインワンPC「HP EliteOne 1000 G1 All-in-One」を、「部屋のセンターピースにできる美しさ」として利用イメージを提示した

このほかにも、製品デザインのビフォー・アフターを通して、変化を伝えたウルフ氏。約4年の変革推進における大きな成果として、デザインのリファレンス作業に用いていた資料に、同社の製品が「参照すべき例」として掲載されたことを挙げた。

デザイン考案のためのリファレンスに用いていた資料に、手本として掲載されるに至った

そのほか、今回発表された製品群におけるデザイン面での特筆すべき点、スペック上の工夫などを解説した。特に、新製品の中核をなすプレミアムタッチモバイルPC「HP Spectre 13」においては、キーカラーとしてセラミックホワイトとゴールドの2色を配し、ヒンジ部以外の開閉面を三面とも、砂時計からヒントを得たくさび形になるよう成形したことで、爪が長い人でも開けやすい設計としたことを語った。

「HP Spectre 13」は、上質な質感の塗装や開閉部の形状などに工夫がこめられている

閉会後、ウルフ氏に、同社の製品が一貫したデザインのトーンを担保してリリースされ続けている秘訣を聞いた。

「ひとつの成功がまた次の成功を生む、という側面はあります。ある成功を見た新たな才能を持つ人が(デザインチームに)参加してくれることで、さらによいプロダクトを生まれるというサイクルが生まれていると感じています。先ほども申し上げましたが、大切なのは、"デザインはデザイナーだけが行っていることではない"ということです。(製品開発は)設計者と共に行っていることです。さらに、CEOはじめエグゼクティブがデザインへの注力を後押ししてくれていることもあります。こうした環境だからこそ、今日のような製品デザインを推し進められていると考えています」(ウルフ氏)