構想から3年、日本の飛行機の故郷・愛知県に11月30日、「あいち航空ミュージアム」が誕生する。実機展示として「零式艦上戦闘機(零戦)」や「YS-11」など6機が、そして、日本の航空史に名を残した「名機100選」がずらりと並ぶほか、さまざまな体験を通じて学び遊べる空間が広がっている。

「あいち航空ミュージアム」には、「零式艦上戦闘機(零戦)」や「YS-11」など、愛知ゆかりの飛行機たちも集結

愛知を疑似飛行など体験施設も充実

「あいち航空ミュージアム」は県営名古屋空港内にあり、名古屋駅からなら、本数も多いあおい交通が便利。ミュージアム前にバス停があり、片道約20分で大人運賃は700円となる。バス停にはマーシャルの標識もあり、ちょっとテンションが上がってくる。なお、同日の30日にオープンする「MRJミュージアム」の受付は、あいち航空ミュージアムの2階となる。

名古屋駅からあいち航空ミュージアムへは、あおい交通で約20分

マーシャルさんたちがバスを誘導

あいち航空ミュージアムの入口は2階となる

ミュージアムは地上2階と屋上階で構成されており、入口は2階に設けられている。ミュージアム内には「シアター」が2種類あるほか、「サイエンスラボ」「職業体験」「フライングボックス」などという、最新技術を用いた無料の展示・体験施設もある。これらは予約制のものもあるので、受付時に時間を指定するようにしよう。

入口でも、飛行機たちがお出迎え

展示はまず2階から

ひとつめのシアターは「オリエンテーションシアター」で、3Dで飛行機の歴史を紹介するというもの。布張り木製の複葉機(主翼が2枚以上の飛行機)が主流だった飛行機が、金属材料を用いることで単葉機の時代に移行したこと、そして、戦後にはYS-11が空を飛び、今、MRJが新たな挑戦を始めたことなどが、分かりやすく紹介されている。もうひとつのシアターは、エンジンの形をしたスクリーンにプロジェクションマッピングを投影するもので、なぜ飛行機が飛ぶのかをエンジンの構造とともに教えてくれる。

2階の「オリエンテーションシアター」は時間指定で案内

エンジンの仕組みを紹介する1階のシアターは、随時案内している

ぜひ体験してもらいたいのが、「フライングボックス」というアトラクション。映像と上下左右に揺れるシートで、愛知の空を疑似飛行するというものだ。都心の上空からビーチや山脈まで、さまざまな風景が楽しめる。建造物ギリギリの高さを飛んでいるような感覚が味わえ、追い越す際にシートが揺れる感覚もなんだかリアル。ときおり吹いてくる風も気持ちがいい。もちろん、愛知が誇る名古屋城も登場する。

1階の「フライングボックス」は、身長110cm未満や心臓に持病がある人などは体験できない

「サイエンスラボ」では、飛行機の仕組みを風船などを用いて体験しながら学べるほか、実際に飛行機を一緒につくる工作教室も展開する。開業時には無料で参加できる内容を想定しているが、今後は内容によっては有料の教室もできればと構想している。

2階「サイエンスラボ」では、飛行機教室と工作教室の2種類を予定

「職業体験」は専用のスクリーンを通じて体験するもので、開館時にはパイロット体験を展開しているが、今後、整備士体験も加えていくという。1回の体験は50分程度なので、ぜひ時間の調整をしておこう。

1階「職業体験」は開館時、パイロット体験を展開する

名機100選を通じて知る航空の歩み

展示エリアに入ると、吹き抜け式になった2階から1階の実機展示を見下ろすことができる。実機展示で一番目立つのが「YS-11」なのだが、まずは2階の展示を楽しんでから1階をめぐろう。入口側で待ち構えているモニュメントは、レオナルド・ダ・ヴィンチが構想したヘリコプターのスケッチを模型にしたもの。飛行機の原点をここで感じてほしい、という想いが込められている。

レオナルド・ダ・ヴィンチが構想したヘリコプターのモニュメント

2階にずらりと並ぶ名機100選は、日本大学名誉教授だった木村秀政氏が選出し、それを田中祥一氏が一つひとつ作り上げたものだ。これだけの展示が一堂に集まるのは、このミュージアムだけとなる。

「名機100選」は、国営時に展開していた航空宇宙館ゆかりの品々

これらの展示は、名古屋空港が国営だった時代、ターミナル内にあった航空宇宙館に展示していたものが元になっている。ターミナルが開業した昭和55(1980)年に同館も開業。開業時はすでに100選の内、31機が完成していたという。その後、全100機が完成。100機完成までには約20年かかったそうだ。

「アンリ・ファルマン1910年式複葉機」

同館は県営化とともに平成5(1993)年に閉館となったが、このミュージアムで模型たちは再び展示されることになった。今回ミュージアムで展示するにあたり、模型一つひとつを清掃や補強するなどの作業が必要になったという。

「ルンプラー・タウベ単葉機」

どの模型も1/25サイズとなっており、100機を見比べてみると、それぞれの大きさの違いもよく分かる。また、模型はとても精巧にできており、その素材感を表現するためにストッキングを使用しているところもあるんだとか。

「三菱雁型"神風"キ-15」

最大の大きさになる「ボーイング767-300 輸送機」の側には座席も展示されているが、実は見えないだけで、飛行機の中にもぎっしり座席が並んでいる。「本当はそうしたところも楽しんでいただきたいんですが、お見せできなくて残念です」とスタッフも言う。

「航空研究所試作長距離機」

模型展示は、明治43(1919)年に徳川大尉がフランスから購入した飛行機「アンリ・ファルマン1910年式複葉機」から始まる。その後、大正3(1914)年にドイツから購入した「ルンプラー・タウベ単葉機」などと、複葉機から単葉機へと時代の変化も見てとれる。

「零式艦上戦闘機 A6M1~8」

ほかにも、南回りで東京=ロンドン間1万5,357kmを97時間17分56秒で飛んでFAI公認都市間連絡飛行の国際記録を樹立した「三菱雁型"神風"キ-15」や、周回航続距離1,165万1,011kmの世界記録を樹立した「航空研究所試作長距離機」、"ゼロファイター"の名で世界にその存在を知らしめた「零式艦上戦闘機 A6M1~8」、日本初の双発ターボプロップ輸送機「YS-11 輸送機」、そして、日本もイタリアと共に共同開発に参画した「ボーイング767-300 輸送機」が100機目として展示されている。木村氏が現在も生きていたなら、767以降にどのような飛行機を選んでいたのだろうか、とつい想像したくなる。

「YS-11 輸送機」

「ボーイング767-300 輸送機」

展示の側には、レオナルド・ダ・ヴィンチから始まる飛行機の歴史が年表で記されている。年表中のナンバーは模型のナンバーになっており、時代の流れと共に飛行機の歴史を理解できる仕組みになっている。年表を見ていると昭和頃がボリュームゾーンになっており、この時代に日本での飛行機開発が盛んであったことがよく分かる。年表は現在、MRJやホンダジェットなどが記された2012年までになっているが、今後、延長する予定だ。

年表はレオナルド・ダ・ヴィンチから

年表は模型展示と共に楽しめるようになっている

愛知に里帰りした実機たち

今度は1階の実機展示エリアへ。展示実機は「YS-11」「零戦」「名市工フライヤー」「MU2」「MU300」「MH2000」(解体展示用にもう1機)の全6機ある。これらは全て、愛知でつくられたり、ここ、名古屋空港から飛び立ったものだったりと、愛知が故郷の飛行機たちだ。YS-11と零戦に関しては、ミュージアムに搬送される様子が一般公開され、YS-11の時には約250人が、零戦の時には約400人が、その姿を見に訪れたという。

1階の実機展示で一番目立つのがYS-11

YS-11は、日本が敗戦によってGHQから解体・解散を命じられた航空産業の技術を再び結集し、昭和40(1965)年から運用された日本初の中型旅客機。展示されているYS-11は航空自衛隊所有機で、2017年5月、美保基地から小牧基地へのラストフライトを飾った。

通常の座席の他、対面式やボックス式の座席も

昭和40年の初飛行から52年間にもおよぶ飛行を終えて、生まれ故郷である小牧に帰ってきた機体、今回、特別に中へ入らせてもらった。座席にはカーテン付きの窓があったり、対面式の座席があったりと、どこか優雅さを感じさせてくれる内装だった。

1965年の初飛行から2017年までの52年間、お疲れさまでした

零戦を展示しているのは、「飛行機の工房」という特別な空間。周りにバッグや量り等が展示されているが、机などを除き、これらの展示も零戦が製造されていた際に使われたものだという。この展示は零戦も含め、飛行機が生まれる現場を感じられる展示となっている。解説の側には、零戦設計者である堀越二郎氏のコラムも記されており、展示を通じて改めて平和や戦争について考えるきっかけになれば、という想いが込められている。

展示しているのは「零式艦上戦闘機五十二型 甲」の復元機

展示されている零戦は、最も多く生産された五十二型の中でも、武装・装甲を強化した「五十二型 甲」の復元機。機体は昭和58(1983)年にミクロネシア諸島のヤップ島で発見され、約2年かけて復元された。

零戦の周りには、「飛行機の工房」を感じられる実物展示も

そのほか、「MU2」は三菱重工業が開発・製造した戦後初の国産双発ターボプロップの多目的小型ビジネスジェット、「MU300」は三菱重工と米国現地法人三菱アメリカ・インダストリー社が製造した双発のビジネスジェット、「MH2000」は三菱重工が製造した多目的ヘリコプター、そして、「名市工フライヤー」は名古屋市立工業高校の生徒が制作した機体であり、2017年1月に有人飛行を成功させた。今後、展示の数を増やしていくことを構想している。

「MU2」

「MU300」

「MH2000」

「MH2000」の解体展示

「名市工フライヤー」

「MH2000」の解体展示の側には、機体の部品、コックピッチ、客室、着陸装置の展示も

出口側にはミュージアムショップが設けられている。このミュージアム限定で、「YS-11 ファイナルフライト152号」(2,592円)と「零式艦上戦闘機五二型」(価格未定)も販売している。また、ボーイング関連のグッズもたくさん取りそろえているので、自分のコレクションに、友人へのお土産にぜひどうぞ。

ミュージアムショップにはここだけの限定品も

ミュージアムショップも眺めが楽しい

できれば、トイレにもぜひ立ち寄っていただきたい。パイロットと客室乗務員の標識の先に飛行機が続いており、個室の中はYS-11のコックピットになっている。また、施設内の所々には、実際に機内で使われていた座席が配置されているが、これは自由に休憩可能な座席だ。ぜひここで小休止を。

トイレの中もYS-11

ちょっと疲れたら座席へどうぞ

2階にはドリンクやお菓子などを販売するカフェがあり、その側には名古屋空港の滑走路も一望できる席が設けられている。もっと見晴らしがほしいなら、屋上階の展望デッキへ。ハンモックに寝そべりながら、航空機の離発着を眺めることができる。

2階にはカフェがある。無料Wi-Fiはないのでご注意を

展望デッキではハンモックに寝そべりながら

「あいち航空ミュージアム」単独の入場料は、大人1,000円、高・大学生は800円、小・中学生は500円となる。また同時オープンの「MRJ ミュージアム」単独の入場料は、大人1,000円、高・大学生は800円、小・中学生は500円となる(未就学児は入場不可)。セット入場券は、大人1,500円、高・大学生は1,200円、小・中学生は750円となる。

「MRJ ミュージアム」も同じ県立名古屋空港の敷地内にある

●information
あいち航空ミュージアム
住所: 愛知県西春日井郡豊山町大字豊場
アクセス: あおい交通なら名古屋駅/JR勝川駅から約20分、名鉄バスなら名鉄西春駅から約15分 開館時間: 10:00~19:00(予定)
定休日: 火曜日(予定)

●information
MRJ ミュージアム
住所: 愛知県西春日井郡豊山町大字豊場
アクセス: あおい交通なら名古屋駅/JR勝川駅から約20分、名鉄バスなら名鉄西春駅から約15分 開館時間: 10:00~17:40(最終入館16:10)
定休日: 毎週火曜日(土日祝日、ゴールデンウィーク・お盆は開館。年末年始休館)
※見学の申し込みはウェブサイトからの完全事前予約制

※価格は税込