最大の狙いは「eSIM」と法人ビジネスの拡大

だがフルMVNOになるには、高い通信技術と開発コストが必要だという。そのためコストを削って格安な通信サービスを提供している、「格安SIM」などと呼ばれるMVNOにとって手を出しにくいものであり、IIJの後に続いてフルMVNOを目指す動きは、現状ほとんど見ることができない。

しかも、IIJがフルMVNOとなったのはあくまでデータ通信の部分のみで、音声通話は含まれていない。「IIJmio」などIIJが個人向けに提供している安価なモバイル通信サービスには、音声通話の提供が欠かせないことから、今回のフルMVNO化がそれらのサービスに直接何らかの影響を及ぼす可能性はないと考えられる。

なのであれば一体、なぜIIJはそれだけのリソースをかけてフルMVNOになる決意をしたのか。その最大の狙いは法人向けビジネスの拡大にある。

中でもIIJが重視しているのはeSIMへの対応だ。多くの人はSIMと聞くと、スマートフォンなどに挿入して使う、プラスチックの小さなICチップをイメージするだろう。だが現在はそうした従来型のSIMだけでなく、「eSIM」と呼ばれる機器に直接内蔵する組み込み型のSIMも存在するのだ。eSIMが搭載されている機器の多くは、建設機械など法人向けの機器が主だが、コンシューマー向けでも、アップルの「iPad Pro」の9.7インチモデルや、「Apple Watch Series 3」など、一部の機器でeSIMが採用されている。

さまざまな機械に組み込んで使用される、超小型チップサイズの「eSIM」。これらに通信サービスを提供するには、自身でSIMを発行できるフルMVNOになることが不可欠だ

だがネットワークを提供する側がeSIMに対応しなければ、eSIM搭載機器にサービスを提供できない。従来のように、キャリアからSIMを借りている立場ではeSIMに対応できないことから、特に法人向けを主体としたeSIM搭載機器向けサービスを提供するには、フルMVNOになることが必要不可欠だったわけだ。

そもそもIIJのMVNOは、元々法人向けサービスとして立ち上がり、その後個人向けのサービスへと拡大していった経緯がある。しかも価格競争が激しく不安定要素が多い個人向けサービスと比べ、法人向けサービスは安定的でより高い収益を見込みやすい。それだけに、IIJは従来型のSIMだけでなくeSIMへと対象を広げ、法人向けのモバイル通信サービスの充実度を高めるべく、フルMVNOになったといえそうだ。