神奈川県の中学校で問題となった、大量の給食の食べ残し。「まずい給食」が話題となっている。そんな中、公立学校で提供する給食に並々ならぬこだわりを見せる自治体があった。兵庫県芦屋市だ。そのあまりのおいしさから、給食のレシピ本が発売されるなど、全国から注目を集めている。

"セレブな街"というイメージを持つ人も多いかもしれないが、給食費の一食単価は全国でも平均的な250円(小学校)。限られた予算の中で、どのような工夫がなされているのだろうか。その秘密を探った。

芦屋市の人気イタリアン・ラッフィナート小阪シェフとのコラボ給食。献立は、カチャトーラ、ブロッコリーとポテトのアーリオオーリオ、具だくさんミネストローネ、フォカッチャ、パンナコッタ(芦屋市広報国際交流課提供)

「残食ゼロありきではない」でも、おいしい

魔女のピラフ、コーンスープ、かぼちゃのサラダに魔法のスイーツ……。10月の終わり、芦屋市立精道小学校で出していただいた給食のメニューは「ハロウィン」がテーマだった。「スープは鶏がらをとって作っていて、薄味だけど、素材の味を生かしています」と語るのは、献立を手掛けた栄養教諭の奥瑞恵さん。一見素朴なメニューだが、ピラフには紫穀米を使い、デザートは紫いもで手作りするなど、随所にこだわりがあふれている。細かく刻まれた食材は華やかに食卓を彩り、かめばかむほどうま味が増す。

「ハロウィン」をテーマにした給食。献立作りの際は、季節性も大事にしているそうだ

芦屋市の給食は決して「残食ゼロありきではない」という。「子どもたちに食べてほしい、知ってほしい食材を使っています。例えば1年生で苦手だと感じる食材・メニューがあっても、6年間食べ続ければ好きになる。食べにくいかもしれないけれど、あえて骨付きの魚を出すこともあります」(栄養教諭、奥瑞恵さん)。

子どもたちの好きなもの、食べたいものだけに迎合することなく、さまざまな食材をいかに食べてもらうか、追求しているのだ。

学校専属・栄養士の力

小学校全8校、中学校1校で学校給食を提供している芦屋市。おいしい給食の背景には、各校に1人ずつ配置されている専属の栄養士、そして学校内で調理を行う調理師の存在がある。

化学調味料、保存料の入ったものは極力使わず"手作り"にこだわっていて、例えばソースやジャムなど、既製品の活用が多くなりがちなメニューも一から作るという徹底ぶり。子どもたちとの距離が近いので、食べた後の反応を献立に生かせる点も大きなメリットになっているという。

芦屋市立精道小学校の栄養教諭 奥瑞恵さん

また食材の仕入れ方法も独特だ。学校給食を実施している自治体では、全校一緒の献立を作り、仕入れ先は入札を行って一括して選ぶのが一般的。しかし芦屋市では、食材の発注を各校の栄養士が自ら行っている。献立も各校オリジナルだ。

「例えば"実えんどう"を取り入れた献立を予定していた時期、たまたま取れ高が悪ければ、別の食材を取り入れた献立に柔軟に変えられる」(栄養教諭、奥瑞恵さん)。食材の取れ高や旬に合わせて柔軟に献立を変えることができるので、新鮮で安くおいしい食材が手に入る。

有名料理店のシェフによる味覚の授業を展開

なぜ、ここまでするのか。それは芦屋市が給食を学校教育の一環として位置づけ、食育に力を入れているからだ。えんどう豆のさやむきやいちごのジャム作りなど、子どもたちが給食で使う材料の仕込みを経験する機会も提供。旬・行事食・伝統料理を継承していこうと、お正月や節分、桃の節句や端午の節句などに合わせた献立作りも大切にしているという。

また大人でもわくわくしてしまいそうなのが、市内にある有名料理店のシェフたちとコラボした「味覚の授業」。年に1回、各校で行われている。ミネストローネの材料をみんなで下ごしらえしたり、チーズにさまざまな調味料をかけて試食し、味の違いを確かめてみたり……。一流シェフが直々に、食への興味をかきたててくれる。

ミシュラン2つ星を獲得した「京料理 たか木」、高木シェフとのコラボ給食。献立は、ごはん、にんじんのきんぴら、とりにくのあられあげ、わかめと大根とえのきのすまし汁、里芋とほうれん草と菊花の煮びたし(芦屋市広報国際交流課提供)

授業では、学校とシェフがタッグを組んだコラボ給食も提供。子どもたちがさまざまな料理を知る機会になるとともに、栄養士や調理師が、一流シェフの調理技術やアイデアを学ぶ機会にもなりそうだ。

今回の取材を通して感じたのは、子どもたちにおいしい給食を食べてもらいたい、さまざまな食材や料理を知ってもらいたいという芦屋市の人たちの思い。関わる人、一人ひとりの思いやこだわりが重なって、学校給食はおいしくなるのかもしれない。