エアバス・ジャパン 代表取締役社長 ステファン・ジヌー氏

仏エアバスは11月14日、説明会を開催し、日本航空(JAL)、JAL エンジニアリングとの協力により、「Microsoft HoloLens」による複合現実(MR:Mixed Reality)技術を利用した訓練アプリケーションのプロトタイプ開発を発表し、デモを披露した。

同アプリはA350 XWB 向けのもので、Microsoft HoloLensを装着することで、ディスプレーを通して3Dのコックピット空間などを作り出し、実機がなくても実際の訓練と同様の訓練内容の実施を可能にする。

説明会では、初めにエアバス・ジャパン 代表取締役社長のステファン・ジヌー氏が、「訓練アプリケーションの開発により、利用可能な技術の幅が広がった。また、HoloLensはビジネス全域に新たな価値をもたらし、データ活用の変革をもたらす。われわれは航空技術における重要な技術の研究開発に取り組んでいるが、その1つがMR。MRは航空機の運転や訓練にとどまらず、設計など意思決定を迅速に行う上でも役に立つと考えている」と述べた。

JALエンジニアリング人財開発部長 海老名巌氏

続いて、JALエンジニアリング人財開発部長の海老名巌氏がエアバスに協力した経緯を説明した。

昨今、航空機には新たな技術が取り入れられており、整備士はより多くの知識と技術が求められている一方、技術の進化により航空機の故障が減り、保守の機会も少なくなったという。

海老名氏は、こうした状況は「経済的な観点では、歓迎すべきことだが、整備士の教育という観点からは不都合がある」と述べた。なぜなら、整備士は故障への対応を通じて、技量が増えるからだ。

そこで、JALでは整備士の教育の機会の減少を解決するため、MRを活用したアプリケーションの開発に取り組んだという。

JALは2016年にマイクロソフトとともに、HoloLensを用いた訓練アプリケーションのコンセプトモデルを作成したが、海老名氏はその際に「実用化に向けては2つの課題があることがわかった」と話した。

課題の1つは、リアルな航空機を再現するには、メーカーの3Dデータが不可欠であるということだ。もう1つの課題として、進化が目覚ましい技術をキャッチアップできるITエンジニアを自社で抱えることに限界を感じたことである。

これら2つの課題を解決するため、今回、エアバスの訓練アプリケーションの開発に参画したという。

A350に触れたことがない整備士がエアバスの訓練アプリケーションのプロトタイプを利用したところ、短時間でA350について理解することができたという。

海老名氏は「今回開発した訓練アプリケーションがあれば、訓練用の実機がなくても、いつでもどこでも何度でも訓練が行って、技術を血肉化できる」と、訓練アプリケーションのメリットを強調した。

なお、今回開発したアプリケーションはプロトタイプということで、現時点で、JALにおける正式な利用時期は決定していないという。

エンジンの運転とドアの開閉をトレーニング

エアバス アレクサンドル・ゴダン氏

エアバスではMRを「戦略的デジタル化を実現するもの」と位置づけ、2015年から研究開発を進めてきた。同社の技術担当のアレクサンドル・ゴダン氏は同社では「3つのステップの下、MRの開発プログラムを進めている」と説明した。

3つのステップとは、「パートナーと共にプロジェクト実行」「実行フレームワーク(社内で技術の展開と吸収を促進すること)」「ホログラフィック・アカデミー(MRを発展させ、教え、実行可能にする)」だ。

「第2ステップで、社内にMRを取り込んで、操作の安定を確保するとともに、データの接続などのセキュリティを確立する。第3ステップのホログラフィック・アカデミーでは、コアコンセプトを開発して、トレーニングを行い、会社全体に伝えていく」

同社ではこれまでに250件のMRの活用ケースがあり、今後は、MRを業界のスタンダードにしていくことを目標としているという。

訓練アプリケーションについては、エアバスのトレーニング担当のマチュー・ブティノー氏が説明した。

エアバス マチュー・ブティノー氏

ブティノー氏によると、エアバスの訓練は4つのステップに分けることができるそうだ。第1ステップはコンピュータを用いた学習、第2ステップは航空機の仮想環境を活用したトレーング、第3ステップはトレーナーのインタラクションを伴うコックピットでのトレーニング、第4ステップはフルフライトシミュレーターを用いたトレーニングとなる。

今回開発した訓練アプリケーションは、コックピットでのエンジン運転とドアの開閉を行うものだ。あらゆる角度から航空機を見て、航空機の特定の作業をバーチャルで体験することができる。HoloLensとマイクロソフトの没入型ヘッドセットを利用することで、「まるで航空機の中にいるような感覚を得ることができる」とブティノー氏。

JALでは、同アプリケーションを実際の環境でテストを行い、実機でその成果を評価したところ、訓練の効率性を実証できたそうだ。

JALの整備士が訓練アプリケーションを利用している様子

説明会では、コックピットでのエンジンの運転とドアの開閉のデモンストレーションが行われた。

コックピットでのエンジンの運転のデモの様子

ドアの開閉のデモの様子