11月8日、Amazonがスマートスピーカーの本命と目される「Amazon Echo」の日本での提供開始を発表した。LINEやGoogleはすでに日本でのビジネスをスタートしており、Amazonは最後発になるが、これで主なプラットフォームが出そろったことになる。海外に遅れること1年以上、日本でもようやくスマートスピーカーと、それにともなう「音声アシスタント家電」の市場が始まろうとしている。

Alexaに対応した「Amazon Echo」シリーズ

だが、ひとつ気になることがある。

新聞やテレビなど、多くのメディア(特に一般向けのメディア)では、「スマートスピーカー」ではなく「AIスピーカー」という用語が使われている。日本ではすでに「AIスピーカー」の呼称が支配的になりつつあり、ネット検索の量を可視化する「Googleトレンド」で調べてみると、「AIスピーカー」が「スマートスピーカー」を凌駕している(図1)。

図1:Googleトレンドでの検索量をみると、すでに日本では「AIスピーカー」が定着しつつあるが……

特に気にも止めない方も多いかもしれないが、筆者はこの傾向を強く憂慮している。現在のスマートスピーカーを「AIスピーカー」と呼称するのは適切ではないと思うからだ。このまま定着すると、禍根を残す可能性がある。

なぜそう思うのか、筆者の考えを解説してみたい。

「AIスピーカー」は日本でしか通じない言葉

スマートスピーカーが何かは、そろそろみなさんもご存知のことかと思う。ネットに接続され、音声アシスタントを介して人とコミュニケーションをとりながら動く機器のことだ。これが「AIスピーカー」と呼ばれるのは、音声アシスタントが声を聞き取り、その内容を解釈して答えるためだろう。「AIが答えてくれるスピーカーだから、AIスピーカー」という発想によるものと思われる。

これは一見妥当に見えるが、かなり問題が多いと筆者は考える。理由は主に2つある。シンプルな理由から説明しよう。

そもそも「AIスピーカー」という言葉は、世界的に見ればほとんど使われていない言葉だ。なにしろ、各社とも発表時のプレスリリースでは、そろって「スマートスピーカー」という言葉を使っており、「AIスピーカー」という呼称は使っていない。

プレスリリースの表現に従えば、「スマートスピーカー『Clova WAVE』、本日より正式発売」(LINE 10月5日付プレスリリースより)、「Google Home は、Google アシスタントを搭載し、音声で動作するスマートスピーカーです」(Google 10月5日付プレスリリースより)となっている。Amazonはプレスリリース中では「スマートスピーカー」という表記を使っていないものの、同社製品ページ中では「音声だけでリモート操作できるスマートスピーカーです」と表記している。

もう少し傍証を挙げよう。

図2は、Googleトレンドで、過去12カ月の間に、「AI Speaker」と「Smart Speaker」が検索された量を比べてみた図だ。英単語にしているのはもちろん、日本語以外での傾向を見るためである。結果は日本のものとはまったく違う。「AIスピーカー」は完全に少数派であり、「スマートスピーカー」が主流である。

図2:Googleトレンドで、全世界における過去12カ月の「AI Speaker」と「Smart Speaker」の検索量をチェック。日本と違い「Smart Speaker」が圧倒的に多い

これが、スマートスピーカー市場の中心であるアメリカになると、もっとはっきりする(図3)。実のところ、筆者もアメリカ取材中に「スマートスピーカー」という言葉は日常的に耳にするが、「AIスピーカー」という言葉はほとんど聞いたことがない。

M図3:@アメリカに限定して「AI Speaker」と「Smart Speaker」の検索量をチェック。「AI Speaker」という言葉はほとんど使われていない

海外で定着した言葉があり、メーカー側もあまり使っていない言葉が勝手に広まり、日本独自の一般名詞として定着するのはいいことなのだろうか? 「スマートスピーカー」という言葉がとても難しく、日本では定着し得ない言葉ならばしょうがないと思うが、決してそうではあるまい。