Mozillaは2017年11月にFirefoxの次期アップグレードバージョンとなるFirefox 57の公開を予定している。これまでのリリースエンジニアリングに従えば、Firefox 57として公開されプレスリリースが発表されるのだが、今回に関しては特別だ。Mozillaは次のバージョンをFirefox 57として公開するにはあまりにも「すごすぎる」として「Firefox Quantum」という別名を付けてプロモーションを行っている。

今回、The Mozilla Foundation, Director of Product, Jeff Griffiths氏に話を聞く機会を得たので、Firefox Quantumの特徴とFirefoxの開発姿勢についてお届けしたい。

The Mozilla Foundation, Director of Product, Jeff Griffiths氏

本来の持ち味"速さ"が復活した「Firefox Quantum」

Firefox Quantum

Firefox Quantumの何がすごいかといえば、実行速度がとにかくアップしているのだ。Mozillaがこれまで取り組んできた高速化に関する技術開発が一気に取り込まれたバージョンとなっており、ユーザーが体感できるレベルで高速だ。すでにベータ版を使っているユーザーであれば感じていることだろう。筆者も確かにFirefox Quantumは速いと思う。

振り返ると、Firefoxは長きにわたりパフォーマンスにおいてGoogle Chromeの後塵を拝してきたところがある。最初からマルチコア/メニーコアでの利用を前提として設計されたGoogle Chromeと、シングルコア時代に設計されたコードをベースにしていたFirefoxとでは、マルチコアプロセッサの普及が進むにつれてパフォーマンスに差がついていった。

Mozillaはこうした状況を改善するため、マルチプロセス化のための研究開発プロジェクトElectrolysisなどの取り組みを行うが、一時凍結された時期があったり、いつまでたってもメインブランチにマージされなかったりと、ユーザの希望通りには進んでこなかった。

それが今回、Mozillaが進めてきたさまざまな高速化の技術がふんだんにマージされた「Firefox Quantum」の登場である。Mozillaがプロモーションを行うもの当然だろう。Mozillaがこれまでで最も優れたバージョンと説明するように、Firefox Quantumはそれに値するバージョンに仕上がっている。

Google ChromeとFirefoxの性能差が広がるにつれて、FirefoxからGoogle Chromeに乗り換えた人もいたと思うが、Firefox Quantumは今一度Firefoxを使ってみるよい機会になるだろう。Google Chromeに飽きてきたユーザにも一度は試してもらいたいバージョンだ。

速度以外のFirefox Quantumの特徴は?

では、Firefox Quantumには、速度のほか、どんな特徴があるのだろうか? 実際のところ、現在の主要ブラウザの特徴をブラウザごとに差別化して紹介するのはとても難しい。

もちろん、それぞれのブラウザに細かな違いはあるのだが、標準規約があり、それぞれのブラウザが高い割合でそれらに準拠している。UI/UXもますます似てきているし、新機能もリリースするごとにお互いに吸収し合う状況だ。昨日のAブラウザの発表が、明日のBブラウザの発表の内容とまったく同じ――そんな状況になってきている。

とはいえ、本稿執筆時点とはなるが、Firefox Quantumがほかの主要WebブラウザおよびこれまでのFirefoxと比較して突出している特徴を以下にまとめてみた。

  • マルチコア/メニーコアでの高いスケーラビリティ
  • レンダリングエンジンやスタイル関連処理の大幅な高速化
  • メモリ使用量の少なさ
  • 最も進んだプライバシー配慮済みの動作

Firefox Quantumの性能はこれまでのFirefoxと比較して確実に高いものになっている。使ってみれば、操作が軽快になっていることを体感できるはずだ。この高速性はGoogle Chromeと比較しても拮抗するレベルに到達している。もし、実行速度を理由にFirefoxからGoogle Chromeに移行したのであれば、Firefox Quantumは試してみるべきだ。

性能に関しては、Google ChromeもMicrosoft Edgeも日進月歩で進歩しているため、しばらくはイタチごっこの状態が続くだろうが、消費メモリにおいてはしばらくFirefoxが先行する状況が続くだろう。Mozillaが長期にわたって進めてきたメモリ使用量の削減はFirefox Quantumで大きく花開いている。この取り組みはほかの主要ブラウザがすぐに真似できるものではなく、消費メモリの少なさはFirefoxの強みであり続けるだろう。

インディペンデントであることのこだわり

Mozillaのプロダクト管理ディレクターを務めるJeff Griffiths氏は、ユーザーがFirefoxを選択する理由の1つについて「インディペンデント(独立性)」と語る。Chromeを開発するGoogleもEdgeを開発するMicrosoftも営利企業だ。Mozillaはこうした企業に比べると、ユーザーに対してニュートラルな立場であり、より公平とされている。こうした体制がFirefoxが選ばれる理由になっているというわけだ。

Google Chromeは性能がよい。さらに、GmailやGoogle Calendar、Google Driveをはじめ、さまざまなGoogleサービスとの相性もよい。人気の高いGoogleのサービスを使うために、Google Chromeを選択するというのはロジカルな選択だ。しかし、こうした状況をGoogleによる囲い込みであると受け止め、Google Chromeの利用を避けたいユーザーがいるもの事実だ。

そうしたGoogleに対し、Firefoxは長きにわたってユーザーの選択肢であり続けてきた。長らくFirefoxを使い続けてきたユーザーにとって、「Firefox Quantum」は誇らしいバージョンだ。

「Firefox Quantum」は2017年11月半ばにリリースが予定されている。しかし、すでに同バージョンはベータ版として提供されており、Firefox Quantum(https://www.mozilla.org/en-US/firefox/quantum/)からベータ版をダウンロードすれば利用できる。ほかの主要ブラウザでは提供されていない機能もあり、試し出すにはよいタイミングだ。先に試してみるのは悪くない選択肢だと思う。