視聴率は初回10.1%、2話7.5%、3話10.5%(ビデオリサーチ、関東地区)を記録するなど一進一退の状況にある『先に生まれただけの僕』(日本テレビ系・毎週土曜22:00~)。事前の期待値から見ると成功しているとは言い難いが、作品としての質に悲観すべきところはなく、SNSでのコメントや識者のコラムなどを見る限り、徐々に賞賛の声があがりつつある。

私自身、先日アップしたコラムで今秋のおすすめ1位に選ばせてもらったのだが(「2017年秋ドラマ」18作を視聴&ガチ採点秋ドラマの傾向を分析)、同作のどこが優れているのか、解説していく。

左から高嶋政伸、多部未華子、平山浩行

福田靖×水田伸生の強力コンビ

同作最大の魅力は、『HERO』(フジテレビ系)、『DOCTORS~最強の名医~』『グッドパートナー 無敵の弁護士』(テレビ朝日系)などを手がけた職業エンタメの名手・福田靖と、『Mother』『Woman』『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)などでドキュメントタッチの映像美を作り上げた水田伸生の脚本・演出。両者が見事な化学反応を見せている。

人事異動で校長になった商社マン・鳴海涼介(櫻井翔)の目線から描く、学校と民間企業、教師とサラリーマンの比較は面白く、これまで見たことがなかった学園ドラマであるのは間違いない。

各話のテーマも現代的かつ挑戦的だ。1話では奨学金の返納、2話ではスクールカーストと塾でバイトする教師、3話ではデジタル万引きとアクティブラーニングを取り上げていた。

そこでクローズアップされたのは、若年層の思考的な貧困。1話では生徒が奨学金の問題から逃げ出してしまう、2話では恋人に振られた女子生徒が「もう(恋人のいない子を)イジメません」と嘆き、3話では「何のために勉強するのかわからない」と授業をボイコットするようなシーンがあった。このような思考の貧困さと、そこから抜け出すための方法こそ、今作が描きたいところなのだろう。

いずれのテーマもキレイごとで終わらせず、予定調和を許さない結末は、いかにも福田靖の脚本。1つ1つの教育問題が過去の学園ドラマで扱われたようなステレオタイプなものではなく、確実にアップデートされている。

左からから井川遥、蒼井優、木下ほうか

211人の生徒役も有名若手俳優はゼロ

驚かされたのは、生徒役の若手俳優たち。番組公式サイトには、1年生54人、2年生88人、3年生69人、計211人もの若手俳優が顔写真つきで紹介されている。しかし、学園ドラマはつきものの演技経験豊富な若手俳優は一人もいない。その名前がメディアに露出しているのも、駒井蓮、松風理咲、長谷川ニイナ、小倉優香くらいのものだ。

これこそ当作が従来の学園ドラマとは異なる理由。初回で鳴海が「一番の問題は先生方です」と語りかけるシーンがあったように、やはりメインは教師たちなのだろう。同作は、事務所期待の若手俳優を売り出すために、特定の生徒を目立たせるのではなく、生徒役は“イマドキの高校生像”という役割であることがわかる。

ここまでの3話はそれぞれ見どころがあったが、第4話の見どころも多彩。アクティブラーニングをめぐる上級生の戸惑い、変化を嫌う教師たちの反発、加賀谷専務(高嶋政伸)からの叱責、恋人・聡子(多部未華子)との結婚話など、鳴海にさまざまなベクトルから難題が降りかかる。

こうした人物相関図が明確でわかりやすいのも、福田靖脚本の特徴。たとえば、『DOCTORS』は、相良(沢村一樹)を敵対視する森山卓(高嶋政伸)、思いを寄せ認められようと奮闘する宮部佐知(比嘉愛未)、うとましく思いながらも手のひらで転がされてしまう堂山たまき(野際陽子さん)など、一度見ればキャラクターや関係性が分かり、間口の広い作品となっていた。

今作も高嶋政伸が主人公を敵対視する役で出演しているが、鳴海は商社だけでなく学校でも四面楚歌の状態。3年生の担任役に起用された池田鉄洋、荒川良々、秋山菜津子の曲者俳優たちが毒気を吐く中、まずは1・2年生の担任役である蒼井優、瀬戸康史、木南晴夏、森川葵ら若い教師たちを取り込めるかが鍵を握るのではないか。

左から木南晴夏、瀬戸康史、森川葵

現代の子どもに何を教えられるのか

これまで水田伸生監督は、『Mother』で児童虐待、『Woman』でシングルマザーの貧困、『ゆとりですがなにか』でゆとり世代の現実など、さまざまな社会問題に斬り込んできたが、今作でもそのスタンスは変わらない。

情報にまみれ、希望を失いつつある現代の子どもたちに、大人たちは何を教えられるのか、何を教えなければいけないのか。その演出は、「熱血教師が生徒たちに必死で問いかける」ような使い古されたものではなく、「鳴海の行動を通して視聴者に気づきをうながす」ようなものになるだろう。

エンタメ+社会派で引き込まれる上に、オリジナル作なのだから見ない手はない。何気に深みがありそうなタイトルの意味も楽しみだ。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。