島根県にある石見銀山は、2007年に『石見銀山遺跡とその文化的景観』として日本で14件目の世界遺産に登録されました。そう、2017年は登録から10周年という節目の年なのです。今回は、石見銀山の魅力を25項目の「行かなきゃ分からない石見銀山」と題して、現地からお伝えします!

石見銀山にあるスケールの大きな大久保間歩

そもそも世界遺産って?

ちなみに石見銀山と書いて、「いわみぎんざん」と読みます。現在日本に21件ある世界遺産の中でも、突出した地味感(失礼!)のある石見銀山。某所が発表した「行ってよかった日本の世界遺産ランキング」でも、下から2番目という不名誉な順位だったとか。

テレビ番組にも旅行雑誌にもよく取り上げられる「世界遺産」。それだけに風光明媚な観光地ばかりのイメージですが、実はそうではないんです。世界遺産はユネスコが「顕著な普遍的価値」を認めた遺産のことで、観光地であることは二の次、いや、三の次くらいのものです。とは言え、人類にとって顕著で普遍的な価値があるなら、それは観るに値するものであるのは明白です。全ての世界遺産は、「行ってよかった」になるはずなのです。

石見銀山の顔、龍現寺間歩の入り口

石見銀山も当然この「顕著な普遍的価値」をもっています。ただし、この価値がぱっと見で分からないところに玄人感があるのです。ゆえに、これから怒涛の25項目で、そうした価値を含めた石見銀山の魅力を紹介します。

(1)世界遺産センターがスゴイ

石見銀山へ行くなら最初に行くべきなのが、「石見銀山世界遺産センター」。建築そのものもいいのですが、何よりスタッフさんの説明が最高で必聴! プロのマシンガントークで、とらえどころのない『石見銀山遺跡とその文化的景観』の全体像が、ものの数十分で見えてきます。入館料だけでスタッフさんの説明も聴けるので、どんどんお願いしてみましょう。石見銀山こと初めは、まずここから。

石見銀山世界遺産センターはこの地の観光のまず最初に寄りたい

●information
石見銀山世界遺産センター
島根県大田市大森町イ1597-3

(2)温泉も、道も、港も世界遺産!

世界遺産センターで分かったのは、世界遺産に登録されている範囲は銀山だけでなく、鉱山街、銀を積み出した港と温泉街、そして、銀を運んだ道までもが含まれるということ。遺産名の「その文化的景観」とはこういうことなのです。総面積442.5ヘクタールは、東京ドームおよそ95個分という広さ。一回の訪問でバリエーション豊かな産業遺産を見ることができるんです。

銀山だけでなく、町や道、港までを含んでの世界遺産(石見銀山世界遺産センター模型)

(3)江戸時代の町並みが残る大森地区

石見銀山が大森銀山と呼ばれていたことからも分かるように、銀山の麓にある大森地区はかつて鉱山産業で栄えた町。歴史地区として江戸時代の趣が今日も保存されており、美しい町並みは散策にぴったり。銀山というと坑道探索が真っ先に思い浮かびますが、石見では町人文化の粋に触れることができるのです。そして単に小奇麗な観光地ではなく、血の通った生活に息づいた町だということが、歩いてみると分かります。

銀山の麓にある大森地区は大森銀山伝統的建造物群保存地区として昔ながらの町並みが残る

(4)世界遺産に住まう住民の歓迎の気持ちに触れる

10年前の2007年、石見銀山が世界遺産に登録されたことは、その経緯もあって日本中の大きな注目を集めました。そして翌2008年には観光客が大挙して押し寄せ、想像を絶する来訪に、大森地区では住民が普段の生活ができなくなる事態になったと言います。世界遺産登録が、そこに住む人々の暮らしを脅かしてしまったのです。それまで年に30万人ほどが訪れていた小村に、いきなり80万人が押し寄せたとあっては、その混乱ぶりも想像に難くありません。

いまこそ落ち着いているが、世界遺産登録の翌年には石見銀山に観光客がどっと押し寄せた

暮らしを激変させる世界遺産観光の是非に、住民内でも意見が分かれたそうです。しかし、大森地区の人たちのスゴイところは、自らの暮らしに誇りを持ち、訪れる観光客を歓迎する姿勢を毅然と示したことです。「石見銀山 大森町住民憲章」にはこうあります。

「このまちには暮らしがあります。/私たちの暮らしがあるからこそ/世界に誇れる良いまちなのです。/私たちはこのまちで暮らしながら/人との絆と石見銀山を未来に引き継ぎます。」

民家の軒先にはちょっとした飾りや一輪挿しなどの歓迎の気持ちを見ることができる

憲章に込められた思いを、実際に町を歩くことで見ることができます。大森地区の住宅の軒先には、ちょっとした一輪挿しや、遊び心のあるモニュメントなどの飾りが見られます。これは、この地を訪れる人々に少しでもこの町を気に入ってもらいたいという住民のみなさんの計らいなのです。

この町を歩いていると、驚くほど住民の方から「こんにちは」とさわやかに声をかけられます。むしろ、観光客である私たちが「お邪魔してます」と言わねばならぬところを、です。先の住民憲章の最後はこう締めくくられています。「おだやかさと賑わいを両立させます。」

(5)石見の暮らしを全国発信するショップ&カフェ

そんな大森地区には、散策の途中で立ち寄りたいショップがあります。石見銀山地域から発信する暮らし方や生活雑貨が全国的に支持を集める群言堂の本店は、大きな古民家を現代的に改築したショップ&カフェ。季節ごとに変わる入り口のディスプレイも見どころです。地域活性化のけん引役でもあるという同店は、注目のショップです。

都内にショップを持つ群言堂の本店は石見銀山のふもと、ここ大森地区にある

●information
群言堂本店
島根県大田市大森町ハ183

(6)重文・熊谷家では面白企画展が開催中

この地の有力商人であった熊谷家の住宅が、江戸後期の商人の生活や身分を伝える民家建築として重要文化財として大森地区で公開されています。大変に手入れの行き届いたお屋敷は、かつての暮らしを思わせる興味深いもの。合わせてこの10月からは特別展が2階で開催されています。

「パンと昭和」と題された展示には、昭和を生きた人なら涙が出ちゃう懐かしいものがたくさん。平成生まれの若者でもきっと、どこかノスタルジーを感じるはず。給食のパン、懐かしいですねぇ……。2019年3月まで開催予定。

重要文化財の熊谷家住宅

熊谷家住宅の2階で開催中の「パンと昭和」展(展示は2019年3月まで)

●information
熊谷家住宅
島根県大田市大森町ハ63

(7)「はんど」探しの散策も楽しい

まだ銀山にも入っていませんが、ふもとの大森地区には他にも見どころがたくさん。色と模様が特徴的な大きな水がめは「はんど」。この地で盛んな石見焼きでは、高温で焼くために堅牢で実用的なかめになるのだとか。

発色やグラデーションがキレイで、釉薬のかかり方も面白い。町中そこかしこにあるので、歩きながら探してみるのも楽しいです。小さなものは、お土産物屋さんや、(5)の群言堂さんでお求めいただけます。

剛健なつくりに特徴的な色合いの「はんど」を軒先に探しながら歩くのも楽しい

(8)大正時代の理容店はインスタ映えにも対応!?

今日では、インスタグラムで「いいね!」がつくかも旅の大事なポイント。フォトスポットはおさえておきましょう。大森地区にある大正時代創業の「理容店 アラタ」は、全国理容遺産第1号に認定された由緒正しい一軒。理容室での散髪が特別な時間であったことを物語る重厚なバーバー椅子は、座っての撮影もOK。シックなインスタ映えを約束します。

大正時代の理容室のたたずまい。「記念撮影スポット」の看板も出ている。ぜひ一枚撮っていこう

撮影例

●information
理容店 アラタ
島根県大田市大森町ハ79

(9)たったの500円! ガイドツアーがスゴイ

石見銀山は「行ってよかった世界遺産ランキング」の下位だと記事の冒頭に書きましたが、下位の他の遺産も「富岡製糸場」や「明治日本の産業遺産」など、揃いも揃って産業遺産。人類の産業活動を証する産業遺産では、派手な建物や感動する風景よりも、その背後にあるエピソードや営みに価値が認められます。そんなぱっと見ただけでは分かりにくい産業遺産を的確に、面白く伝えてくれるのが地元のガイドさんです。

石見銀山のガイドさんはピンクのシャツが目印。山から町まで、豊富な知識で飽きることのない解説を聞かせてくれる

石見銀山には「石見銀山ガイドの会」があり、2014年からはワンコインガイドを開始しました。ガイドを頼む、というと敷居が高いように思いますが、これなら大人500円(中学生以下無料)で2時間たっぷりガイドしてもらえます。

ガイドは銀山を歩く「龍源寺間歩コース」と、大森歴史地区を歩く「大森町並みコース」の2種類があります。素通りしてしまいそうなあれこれを、しっかり説明してもらえるガイドツアーはオススメです。1日に2~3回(時期により変動)、それぞれ定員15人までなので、電話で予約をしておくと確実です。

●information
石見銀山ガイドの会
島根県太田市大森町イ824-3

では次からは、いよいよ石見銀山そのものへと行ってみましょう。もちろん、ガイドさんに案内してもらいます。