DJIという会社をご存知だろうか? いわゆる「ドローン」の個人向け製品で世界シェアの約7割を握る企業で、中国・深センで2006年に創業した。当初は「フライトコントローラー」と呼ばれるドローンを安定航行させるための制御システムの開発に注力していたが、2011年にドローン「Phantom」を発売、あっという間に市場を席巻した。

「ただ単にドローンの機体を飛行させるだけであれば簡単。しかし、安全で簡単に、そして良質な映像を撮影できるドローンとなればそれは難しい。その3つの要素が揃っているから、DJIは支持されていると思う」

こう語るのは、DJIのコミュニケーショントップのKevin On氏。DJIは、創業時から「複雑な技術をなるべく簡単に使えるよう、簡素化して届けることをミッションにしてきた」(On氏)。プロのカメラマン、わかる人だけにわかる操作方法ではなく、誰にでも使えるようにしたことで、今日のDJIがあるというわけだ。

DJI コミュニケーション ディレクター Kevin On氏(画像提供 : DJI)

自社ですべてを作り出すDJI

On氏はDJIが他社とは違うユニークなコアが3つあると話す。それは「内製化」と「人材の資源」「同じことをやらない」ということ。

11年前に20名で始まった会社は、グローバルで1万1000名にまで成長した。全従業員のうち25%がエンジニアであり、日本や米シリコンバレーにも一部開発拠点を持つが、本拠地の深センにR&Dセンターから工場、営業部隊を一気通貫で管理できる本社がある。

「全従業員の25%がエンジニア」というのは一見少なく見えるかもしれない。しかし、日本の2015年度国勢調査によれば、製造業における専門的・技術的職業従事者は全従業員に対して約8.3%(e-Statのデータを引用、就業状態等基本集計より)であり、およそ3倍にも達する。もちろん、統計調査と1社単独の直接的な比較はできないが、それでもかなりのエンジニアを抱えていることには変わりない。

「イノベーションの活力は、深センという新しいことが急激なスピードで生まれている場所だからこそ、というものもある。だが、私たちは『イノベーションは人から生まれる』という考えのもとに仕事をしている。ドローンという新しい産業だからエンジニアを魅了できているのかもしれないが、とにかく『もっと何かできることがあるんじゃないか』という伸びしろを求めて開発に注力できている」(On氏)

技術を外部に依存することなく自社に蓄え、外部から来た人材との化学変化を期待する。「『こういう経験があります』『マネジメント経験はこうです』といった話ではなく、『新しいアイデアをこう実現したい』という人が多い。バックグラウンドは関係ない多様性に富んだ人材がいる」(On氏)というように、年齢やバックグラウンドではなく、どういうモチベーションでアイデアを実現するのか、そこにフォーカスするのがDJIの強みだというのだ。

また、最後の「同じことをやるな」では既存の枠組みだけでなく、常に新しいアイデアの模索を続けるべきということを経営幹部が常々口にしているそうだ。その一例が同社のスタビライザー付きカメラ「Osmo」だ。この機器は、もともとドローンでブレなく映像撮影するために開発したスタビライザーだった。

DJI Osmo(画像提供 : DJI)

しかし、これが手ブレにも高い適応性を示したことから機構を切り出してスピンアウト。カメラだけでなくスマートフォンや一眼カメラなどと組み合わせるカメラジンバルの「Ronin」にまで派生し、またたく間に市場で地位を高めた。

「R&Dから生産、販売までを深センですべて見ていることで、PDCAサイクルを非常に早く回せる。それは、ドローンが従来行っていたカメラ撮影だけでなく、農薬散布や人命救助、インフラ点検など、業界別ソリューションの開発にも繋がっている。Bootstrapping(ブートストラッピング、助力なしで自力で改善・改良する意味)によって高い技術力を維持できた。これこそが他社を引き離せた11年の成果だと思う」(On氏)