こう肌寒い季節になると、肩を並べて飲みながら「温泉でも行こう」なんていつも話している人、多いのでは? 「落ち着いたら仲間で行こう」なんて思っている人、多いのでは? 今、温泉旅行に行くなら、新施設のオープンやアートイベントの実施など大いに盛り上がっている「道後温泉」をオススメしたい。

「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉」には、本館にない露天風呂もある

3,000年の歴史を有し"日本最古の温泉"と伝えられている愛媛県「道後温泉」。"道後"と言えば、やはり重厚な和風建築の「道後温泉本館」を思い浮かべることだろう。しかし今年、道後には新たな名所が誕生。それが、道後温泉本館の別館として9月26日に完成したばかりの「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)」である。さらに、これを祝うかのように街全体を舞台に壮大なアートイベントも開催中。

飛鳥時代の建物を彷彿とさせる外観

今、もっとも注目の温泉地ともいえる「道後温泉」に、さっそく足を運んできたのでリポートをお届けしていこう。

豪華絢爛な建築にうっとり

今回は、オープン前にピッカピカの施設内を見学させてもらえるということで、道後に到着するやいなや「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉」に直行。しかし当日はあいにくの雨、しかもまだ周囲は工事中だったこともあり、バタバタと慌ただしく館内に入ると……思わず「ハッ!」とした。

豪華で優雅なエントランスは、まるで竜宮城のよう

なんだ、この豪華さは……! 年季の入った道後温泉本館とは趣が異なり、モダンとクラシックが融合した実に華やかな空間となっている。

日本三大かすり「伊予かすり」を使用した暖簾

エントランスに配されている巨大な湯玉のオブジェは、世界遺産・薬師寺西塔の再建でも使われた「千年の釘(和釘)」を用いたもの。天井からゆらゆらと吊るされた山門風のシェードは、空気を浄化する「ゼオライト和紙」製のもの。さらに暖簾は日本三大かすり「伊予かすり」を使用したもの……と、このエントランスだけでもこだわりをあげていけばキリがない。

巨大な湯玉のオブジェは、インパクト大

施設全体は"太古の道後"がテーマになっており、同地にまつわる伝説や物語などが愛媛の伝統工芸と最先端アートによって演出されている。施設の隅々まで、今昔の職人の業が結集されており、眺めていてまったく飽きがこない。

太古から愛される湯を、和モダンな空間で

続いては暖簾をくぐって浴室へ。真っ先に目に飛び込んでくるのが、伝統工芸品の「砥部焼」を使用した陶板壁画だ。そこに描かれているのは、道後温泉にまつわる和歌の風景で、男子浴室は山部赤人の歌をテーマにした伊予の高峰・霊峰石鎚山、女子浴室は額田王の歌をテーマに瀬戸内の海が表現されている。

浴室の壁には、プロジェクションマッピングの陶板壁画

この壁画、ただ美しいだけではない。なんと、プロジェクションマッピングの技術が用いられており、絵の中の小鳥や木々が動き、季節が移り変わっていくのだ。これは見もの。眺めているとつい長湯してしまうに違いない。

また、道後温泉本館にはない露天風呂も完備。壁面には県内産の媛ひのきのデコラパネルや菊間瓦の行燈が配されており、これまた優雅な空間に仕上がっている。

モダンな雰囲気の露天風呂

道後温泉本館には、"皇室専用浴室"なるものがあるのをご存じだろうか。その名の通り、皇室以外の一般の人は入れない特別な浴室なのだが、この飛鳥乃温泉では、その皇室専用浴室「又新殿(ゆうしんでん)」が一般の人でも利用できる「特別浴室」として再現されている。

皇室専用浴室「又新殿」を再現した「特別浴室」

浴室と休憩室が隣り合わせのつくり。ここでもレースカーテンのような御簾、道後を訪れた天皇ゆかりの文様の天井画など、細部までこだわり抜かれた空間演出に注目してほしい。

浴室の真上には天井画が配されている

レースカーテンのような御簾

浴室と隣り合わせの休憩室

浴室を巡っていても、つい豪華な空間にばかり注目してしまいそうになるが、肝心の温泉は道後温泉本館と同じ。全国的にも珍しい加温も加水もしていない源泉かけ流しの"美人の湯"を堪能できる。

特別浴室では、道後湯帳という浴衣が用意されており、着たまま入浴が楽しめる

休憩室で至福のひとときを

道後温泉本館の大きな特徴のひとつと言えば、個室や広間など休憩室が設けられていること。そこでの湯上りの一服を楽しみにしているファンも多いだろう。この飛鳥乃温泉も約60畳の大広間、5つの個室と休憩室が設けられている。

約60畳の広さを誇る大広間休憩室

まず、60畳の大広間こと「大広間休憩室」は、「寿国」をテーマに聖徳太子が道後温泉を表現した雅な世界観で統一。聖徳太子が編み方を伝授したと伝わる「やちゃら編み」が特徴の伊予竹細工、伝統工芸品「大洲和紙」とギルディング(金属箔)を組み合わせた「ギルディング和紙」などが配され、贅を尽くした空間となっている。

華やかなギルディング和紙の装飾

聖徳太子ゆかりの伊予竹細工

飛鳥乃湯泉が描かれた「振動後温泉絵図」

また5つの個室は、それぞれ「白鷺の間」「玉之石の間」「椿の間」「行宮の間」「湯桁の間」と、部屋によってテーマが異なる。同地に馴染み深い伝説や神話がテーマになっており、その世界観が表現されているのだ。休憩室では、特製のお茶や茶菓子が味わえるのも嬉しい。

湯桁の間

行宮の間

椿の間

玉之石の間

白鷺の間

休憩室で味わえる茶菓子は、道後温泉の伝説がモチーフになっている

4年ぶりの一大アートイベント開催中

圧巻の湯屋を思う存分に堪能したあとは、温泉街の中に点在しているアート作品の鑑賞もお忘れなく。今、道後温泉では4年ぶりとなるアートの大祭「道後オンセナート2018」がプレオープン中。

梅 佳代「坊っちゃんたち」

「オマージュ」「賛歌」をキーワードに、約20名ものアーティストの作品が街を彩るイベントとなっている。参加アーティストは、蜷川実花、梅 佳代、イチハラヒロコ、大宮エリー、祖父江 慎など、そうそうたる顔ぶれ。グランドオープンが2018年4月14日、フィナーレが2019年2月28日と長く楽しめるイベントとなっているので、ぜひ開催期間中に足を運びたい。

三沢厚彦「Animal 2017-01-B2(クマ)」

愛媛へのアクセスは飛行機で

今や、全国的には人気が下火になりつつある温泉街も少なくない。しかし、この道後温泉は、土産物を物色するご婦人、浴衣で街歩きを楽しむ女子学生、熱心に街並みを撮影するカメラ小僧、地ビールで乾杯するお父さんたち……街は、老若男女で常に賑わっている。それも、皆が自分なりの楽しみ方を見つけて過ごしているように感じられる。この受け皿の広さこそが、今も昔も人を惹きつける"道後"の魅力なのだろう。

「飛鳥乃湯泉」の屋根上にも、本館と同じく塔屋がつくられている

四国の愛媛県と聞くと、「ちょっと遠いな……」なんて思っている人もいるかもしれないが、飛行機に乗れば東京~愛媛間はわずか1時間30分。正直、サクッと温泉に浸りたいだけなら日帰りだって夢じゃない。1泊2日のスケジュールを組めば、ゆっくりと名湯に浸かって日頃の疲れを癒せるはず。肌寒い季節になるといつも話題に上がる「温泉でも行こう」という話は、ぜひ道後温泉で叶えてほしい。