Xilinxの日本法人であるザイリンクスは10月17日、東京にてソフトウェアアプリケーション開発者やエンベデッドソフトウェア開発者、ハードウェア開発者が、同社開発チームやパートナー、ユーザーコミュニティと直接交流することを提供する場「ザイリンクス開発者フォーラム 2017(XDF 2017)」を開催した。

XDFは、Xilinxが掲げる「5年以内にポテンシャルユーザーを5倍にする」という事業の拡大の一環として、日本では初めて今年開催されたイベント。このポテンシャルユーザーと位置づけられているのが、従来のプロトタイピングなどを行うFPGAエンジニアから、すそ野を広げた「エンベデッドシステム」のSoC/FPGAエンジニアであったり、さらにアプリケーション開発を担当するソフトウェアやアプリケーションエンジニアであり、この数年、同社はそうした環境整備に対する投資を着実に行ってきた。

Xilinxの事業展開の流れ。もともとは下段のコンポーネント開発向け(エンジニアの数はグローバルで5万人程度と推定)にFPGAを提供してきたが、そこから5年以内に、ポテンシャルユーザー(FPGAにアクセスできるエンジニア)の数を5倍にする、ということを数年前に掲げ、これまで、その環境整備を推進。組み込みシステムを皮切りに、ソフトウェアやアプリケーションのエンジニア(推定25万人以上)に対するリーチが可能となる状況を築き上げてきた

Xilinxシニアディレクター、ソフトウェアIPプロダクトのRamine Roane氏

Xilinxシニアディレクター、ソフトウェアIPプロダクトのRamine Roane氏は、「FPGAが、従来のハードウェアのユーザーから、ソフトウェアのユーザーがアクセラレータとして活用する流れが強まってきており、そうしたソフトウェアの人たちにFPGAがもたらす新たな価値を知ってもらうために開催することを決定した」と、今回のイベントの開催意図を説明。Xilinxとしても、従来のFPGAエンジニアを核に、新たなユーザーを取り込んでいくという方向にビジネスモデルが変化していることを強調した。

環境の整備、という点では、新たなデザインスイート「Vivado」の改良に加え、エッジデバイスの開発者に向けて高位合成ツール「SDSoC」を、クラウドサービスの開発者向けに「SDAccel」の提供をそれぞれ開始。さらに、ソフトウェアエンジニアがアプリケーションの開発を容易にできるようにする組み込み向けコンピュータビジョン機械学習アプリケーションソフトウェアスタック「reVISION Stack」や、クラウドアプリケーション向け「Reconfigurable Acceleration Stack」の提供、各種ライブラリの拡充といったソフトウェアエンジニアがFPGAをFPGAとして気にしないでアプリケーションの開発を可能とする環境を構築してきた。

Xilinxが進めてきたエッジ/クラウドに向けたソフトウェア関係の整備のイメージ。各種ライブラリの拡充やフレームワークのサポートなども進められている

こうした取り組みの行き着いた先が、AmazonのAWSで提供されるEC2 F1インスタンスといったクラウド上でFPGA(AWSではVirtex UltraScale+ VU9Pを採用)を使って、演算処理を加速させる、といったサービスの登場である。クラウドサービスを提供するハイパースケールデータセンター事業者、いわゆる「スーパー7」と呼ばれるAmazon.com、Facebook、Google、Microsoft、Alibaba(阿里巴巴)、Baidu(百度)、Tencent(騰訊控股)の7社の多くがFPGAを採用しており、ユーザーがFPGAの機能を時間単位で活用することができるようになっている。その際、ユーザーはFPGAを身構えることなく、ましてFPGAを使っていることを気にせずサービスを活用することで、処理の高速化を実現できることとなっている。

この仕組みを簡単に説明すると、FPGAを活用してサービスのコアとなるエンジンの開発を行う「FaaS(FPGA as a Service」の上に、そのエンジンを活用するアプリケーションの開発を行う「AssS(Application as a Service)」の提供者がおり、さらにその上にそれをマーケットにSaaSとして提供するサービス企業、そしてそのサービスを実際に活用するユーザー、という4つの階層で構築され、その枠組みがAWSなどで提供される、といったものとなる。

これにより、例えば遺伝子解析のEdico Genomeでは、従来提供してきた規模ゲノム解析と臨床シーケンス解析サービス向けマルチプロセッサ(解析システム)で33時間かかっていた処理が、データ処理をクラウド上で行えるようしたことで20分で実現できるようになったとするほか、ビデオストリーミングのライブイベント配信などを可能にするビデオーコーディングソリューションを提供するNGCodecでは、視聴者数や閲覧デバイスの解像度などに応じて柔軟に構成をダイナミックに変化させることをクラウド上で可能にしつつ、CPUのみのサーバでは10台が必要であったこのソリューションを1台のFPGA搭載サーバで可能にしたという。

FPGAによるクラウドアクセラレーションの例と、AWSを用いたEdico Genomeのゲノム解析高速化の枠組み

また、Ryftが開発しているElasticsearch拡張のビッグデータ解析エンジンをF1インスタンスで活用することで、データ分析時間が90倍高速化する、といったことも実現されたとする。

クラウド上でFPGAを活用できるようになり、それをサービスとして利用できるようになった現状についてRoane氏は、「FPGAを活用する1社が提供したコアテクノロジーがを元に、10社以上のアプリ開発企業がアプリを開発、それをSaaSベンダがより多くのエンドユーザーに提供することで、最終的にそのコアテクノロジーをFPGAと意識せずに活用する人は1000人単位となる」とし、すでにそうした世界は構築されており、今後のそうした市場は、データ処理が必要とされるすべての分野へと広がることが見込まれるため、その礎となるマシンラーニングに関する機能強化も含めた機能や性能の向上などを図っていくとしていた。

なお、ザイリンクスの代表取締役社長を務めるサム・ローガン氏は、「半導体のプロセス微細化に伴う開発費高騰により、ASICの開発は困難となっている現在、FPGAは使ってみたいが、使いこなせないという人も多い。そんな人にこそ、クラウドでFPGAが提供する性能を活用してもらいたい」とし、日本法人としても、そうしたユーザーを強力に支援していくことを強調。また、「Xilinxは最初はFPGAベンダだった、次にARMコアを入れたSoCベンダに、そして今は、(FPGA上で動作するアプリケーションの使い勝手の向上を目指す)ソフトウェア企業へと変貌を遂げている」ともし、半導体のプロセス微細化に伴う性能向上はもとより、その性能を最大限に、最大公約数のユーザーが活用できるソフトウェアまで含めた枠組み作りを今後も推進していくとしていた。

XDF2017会場で展示されていたレグラスのZynqシリーズを用いた組み込みビジョンシステムのデモ。reVISONスタックをサポートし、4K60Pの組み込みビジョンを監視カメラやFA検査、ドローン、建機、車載などの用途で実現することを可能とする

XDF2017会場で展示されていた東京工業大学(東工大) 中原啓貴 准教授のChainerフレームワークをサポートしたFPGA向けディープラーニング統合開発環境「GUINNESS~A GUI based neural network synthesizer~」による歩行者認識デモ。左がZynq-7020採用のデモ。右がNVIDIAのJetson TX2によるデモ。Jetsonでは1fps程度のところ、Zynq-7020では10fpsだせ、かつ電力も抑えることができることが示されていた。ちなみにGUINNESS統合開発環境はアヴネットが問い合わせになっているほか、中原 准教授によると、これ以外にもさまざまな研究も進めているとのことであった