1日1便就航が可能な市場

リース氏: 現在のところまだありません。というのも、ドバイ本社にはネットワークの計画を考えるチームがあり、そのチームの中で毎年そのアイデアは出ています。例えば、ホノルル向けだったりアメリカ西海岸向けだったりというものですが、いまだに現実に至るまでの話になっていません。チームの間では100カ所くらい候補地が上がっており、どこが一番利益率が高そうかという話をしていますが、今のところまだ、日本以遠の路線がこのリストの中のトップの話題にはなっていないというのが現状です。

武藤氏: 日本での就航地に関してですが、現行の3カ所(成田・羽田・関空)を維持するという方向というお考えだと思っていますが、これ以外に国内の就航地を増やすということに対してはどのようにお考えでしょうか。

エミレーツはデイリー運航をフィロソフィーとしている

リース氏: 私たちが就航したい地域はいろいろあります。自治体から熱烈なアプローチもありますが、ただ、実際にそれを実行するとなると大きな課題があります。我々が保有する機体は大型機のみで、ボーイング777でも座席数が約360席になります。

エミレーツは、就航するのであればデイリー運航で飛ばすことを方針としています。そのため、地域にも就航するとして、デイリー便を全て埋めるということは難しいでしょう。この2~3年は現行の3カ所に絞って展開し、それ以外の日本国内を結び便については、JALとの関係を生かしていくことになります。

武藤氏: 日本政府が空港の民営化を進めていますが、先に民営化された関空においては何か変化がありましたか。

リース氏: 空港会社はかなり野心的に運営を変更していきたいと考えていると思われますが、エアラインとしては戦略的な見地から検討が必要だと考えています。ですが、民営化はプラスのことだと捉えています。すでに世界各国での空港経営を行っている会社なので、やはりベストプラクティスを取り入れていくことになるでしょうから。プラスになると言ったものの、同時に懸念材料としては、この運営費が増えることで我々が空港を使う利用料が高くなってしまうことを懸念してはいます。


―対談を終えて(武藤氏)―

中東の中で一人勝ちのエミレーツ

ここ数年、原油価格の低位安定による国家財政の引き締めという環境下で、中東エアライン各社の成長の勢いが少し停滞気味ではないかとの見方がなされてきた。

また、2017年に入りカタールはイスラム諸国間とのイラン、ISをめぐる軋轢が激化した末に、6月にサウジアラビア、UAE、エジプトなどの各国と国交を断絶、上空通過もできない状況となり、カタール航空の中東路線、運航経路に大きな影響が出た。エティハド航空は資本投下して経営支援してきたアリタリア航空が5月に、エア・ベルリンが8月に、相次いで経営破綻し、M&A政策に大きな綻びが出るとともに、アブダビ首長国からの経営改善命令によりブラジル撤退を含む路線の見直しを余儀なくされた。

こんな中で、中東はエミレーツの一人勝ちの様相かとも見られたが、リース日本支社長によると、ここ2年は厳しい状況にあったとのこと。しかし、中東他社より「安売りをしない」エミレーツ航空は、他社の不測事態でサウジやエジプト等の邦人プラントビジネス需要を摘み取るなど、需給の好転に本社が強気に転じたというところだろうか。

最も、日本線以外を見るとA380の導入計画を後ろ倒しするなど、慎重な機材計画の見直しも行っており、カンタス航空の「ドバイ離れ」も相まって、まだ事業計画が成長路線で固まるには不透明要素も消えていない。UAEでしのぎを削るエティハド航空がルフトハンザドイツ航空との競争関係から、ワンワールドに属するエア・ベルリン救済を機に提携路線に転じており、これがエミレーツに対抗してどのような攻勢に出てくるのかも注視が必要と言えよう。

「ホワイトスポット」にJAL・ANAはどう攻めるか

また、今後の日本の大手2社とUAE2社との提携関係が今後どのような方向に向かうのかも興味深い。ANAはエティハドと日本、UAE路線でコードシェアを行ってはいるが、日本~欧州間の旅客(特にビジネス需要)が中東経由にシフトすることにはナーバスになっていた。当初は8時間以上も余計にかかる中東経由を日欧のビジネスマンは選ばないと決め込み、中東諸国やアフリカ路線を見据えた提携関係であった。

日本人ビジネス客も中東経由便を利用する傾向が増えてきた今、JAL・ANAも新たな戦略が必要になってきている

しかし、イタリアやスペイン、中央アジアなどに向かう日本人ビジネス客の流動に中東経由が見られるようになり、ルフトハンザとのジョイントベンチャー(JV)を第一に考えるANAとしては、エティハドへの日本人ビジネス旅客の流出を警戒するようになった。この辺りの距離感は、JALとエミレーツにおいても同様であろう。

中東は、日本の大手2社にとっては「ホワイトスポット」と言われ、自社と利害が相反しない「無難な地域」、そして、日本のエアラインが自社便を就航させるにはあまりに特異な市場として認識されてきた。しかし、中東勢が路線ネットワーク拡充によって日本~欧州、アフリカそして南米線の受け皿としての存在感を増すに従って、欧米のグローバルアライアンス同盟エアラインとの競合が出始め、JV路線においては日系社が直接競合するケースもある。

このような背景から、JAL・ANA、エミレーツ・エティハドとの提携関係の深化にはある意味限界があり、日系両社がUAE以遠の路線に第五の自由を駆使してまでコードシェアを行わない事情が垣間見える。JALはカタールとも、2013年にカタールがスターアライアンスからワンワールドに移籍した後にコードシェアを開始しているが、現在でもJALがカタール便にコードを張っているのは日本=ドーハ線のみである。なお、カタールは接続できるJAL国内線にコードを張っている。

他方旅行会社、OTA、メタサーチ(比較サイト)における中東経由のプロダクトは、安価な欧州旅行を中心に存在感を増しており、今後、JAL・ANA両社が中東勢とどのような提携関係を築いていくのか注視しておきたい。