10月10日、衆院議員選挙が公示された(投開票日22日)。安倍首相は「国難突破解散」と命名し、衆院解散理由として少子高齢化や北朝鮮(安全保障)問題を挙げた。ただ、安倍首相が、野党のスキャンダルや準備不足を利用して、政権基盤を固めようとしていることは間違いない。2014年の総選挙でも一部で囁かれた「今のうち解散」というのが本音だろう。

もっとも、「今のうち解散」の失敗例が身近にある。今年6月8日に実施された英国の総選挙だ。

英国の総選挙は2020年、すなわちブレグジット(英国のEU離脱)後に行われる予定だった。ところが、今年4月にメイ首相は突如、解散・総選挙を決断した。メイ首相の狙いは、(1) 過半数をわずかに上回る保守党の議席に上積みして、政権基盤を強化する、(2) そのうえでEU離脱交渉を進める、(3) そして自身の政権を長期化する、だった。当時の世論調査で、与党保守党が最大野党の労働党に対して、支持率で20%以上の大差をつけていたことが背景にあった。

英総選挙投開票日の直前には世論調査における支持率差は10%前後まで縮まっていたが、それでも保守党の圧勝が予想されていた。

しかし、蓋を開けてみると、保守党は第1党の座を維持したものの過半数割れとなり、「惨敗」といえる結果となった。そして、メイ首相は弱小の民主統一党(DUP)との連立により辛うじて政権を維持した。移民制限の裁量を確保するためEU市場からも離脱する「ハード・ブレグジット」を早くから主張していたメイ首相の強引な進め方、驕りと呼んでも良い姿勢が裏目に出た格好だった。

果たして日本の衆院選は、安倍首相の思惑通りの結果となるだろうか。「希望の党」というワイルドカードの出現、民進党からの合流や分裂、そして公示早々の「希望の党」の失速など、情勢は大きく変化してきた。安倍首相が勝敗ラインを与党による過半数維持とかなり低いところに設定したのは、そうした情勢の不透明感が背景にあるだろう。

安倍首相は解散総選挙を決断する前に、英総選挙の結果を「対岸の火事」ではなく「他山の石」とすべきだったのかもしれない。もちろん、選挙は水物であり、まだ結果は出ていない。メイ首相は少なくとも政権を維持することはできたが……。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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