2017年10月10日のGTC Europe 2017の基調講演で、NVIDIAのJensen Huang CEOが自動運転車の開発プラットフォームを発表した。

発表の目玉は、Pegasusと呼ぶ自動車に搭載する新しいAIコンピュータと、自動運転車の開発全体を支えるNVIDIA DRIVEと呼ぶ開発システムである。

NVIDIAは、これまでDrive PX、Drive PX2と呼ぶ車に搭載する自動運転用のボードコンピュータ作ってきたが、今回発表されたPegasusはRobotaxi Drive PXという名前が付けられている。

Pegasusを発表するNVIDIAのJensen Huang CEO。Pegasusは320Topsという非常に高い性能をもっている (出典:特に記述がない画像は、GTC Europe 2017での基調講演のストリーミングビデオから切り出したものである)

Drive PX2のディープラーニング性能は24Topsであったが、Robotaxi Drive PXの計算エンジンであるPegasusの性能は320Topsと13.3倍の性能になっている。この性能なら、自動運転のロボタクシーが実現できるというNVIDIAの自信を示す命名と思われる。

消費電力は500Wと多めではあるが、電気自動車のモーターと比べれば1/100の電力であり問題にはならないと思われる。

NVIDIAは第1四半期(Q1)の遅い時期にPegasusのアーリーアクセスプログラムを開始するとしている。なお、NVIDIAのQ1は2018年の2月1日から4月30日を意味しており、遅い時期というので来年4月頃を指すものと思われる。

なお、Pegasusのディープラーニング性能は320Topsと書かれており、Volta V100の120TFlopsとは異なり、浮動小数点演算ではなく、より少ないトランジスタ数で作れる整数演算を使っているものと推測される。その場合、入力は8bit~16bitの整数で、積の加算はその2倍のビット数の16bit~32bitで行っていると思われる。

もう1つの発表の目玉は、NVIDIA DRIVEである。図の文字が小さくて読めないが、5組の写真の下には、左から、Data Factory、Training on DGX、3D Sim on DGX、Drive AV on DPX(Drive PX)、Re-Sim on DGXと書かれている。

NVIDIA DRIVEはデータファクトリとDGXスパコンを使って、自動運転の学習、バーチャル走行シミュレーションを行い、その結果をDrive PXに入れて車を走らせる。また、全米の全道路をバーチャル走行させるRe-Simでパラメタに問題が無いかを確認するという開発システムである

NVIDIAは、全米の舗装道路の20%のデータをすでに集めているという。このデータを使って、GPUスパコンであるNVIDIAのDGX Saturn Vを使ってディープラーニングの学習を実行する。さらに、DGXを使って走行のシミュレーションを行い、その結果が満足できるものであれば、学習したパラメタをDrive PXに入れて自動運転車を走らせる。

新しいパラメタを入れた車が、テストコースでうまく走ったとしても、特別な条件が重なった場合に望ましくない動作をしてしまうかも知れないという心配は残る。このため、NVIDIAでは、新しいパラメタを使う自動運転車を全米の全部の道路を走行させて、安全を確認すべきであるという。もちろん、本当に走らせるのではなく、全米の道路データのデータベースを使って、バーチャルな走行を行わせるのである。NVIDIAは5日間のシミュレーションで全米の道路を走破することができるという。

路面の状態や周囲の車の状況にもよるので、一度走ればそれでよいとは言えないとしても、このようなシミュレーションによるバーチャル走行は、自動運転の信頼度を確保するには重要なツールになるものと思われる。

なお、NVIDIA DRIVEの5組の写真のうちの3組に写っているDGX GPUスパコンであるが、今回、初めて本物の写真が公開された。22本のキャビネットにそれぞれ6台のDGXを搭載している。キャビネットごとに載せ方がばらばらであるが、なぜであるかは分からない。

8台のDGXを使えば300,000マイルの走行のRe-Simは5時間で実行できる。全米の舗装道路の走破も2日でできるという。右下の写真は本物のDGX Saturn Vスパコンと考えられる

これまでNVIDIAは、DGX-1が整然と並んでいる次のような画像を公開していた。筆者は、このような配置になることはあり得ず、これはCGで作られた偽物であり、誤解を招くと指摘してきた。今回、本当の写真が公開されたことは喜ばしい。

これまで公開されてきたDGX Saturn Vの画像 (出典:https://blogs.nvidia.com/blog/2016/11/14/dgx-saturnv/)

Pegasusも他社を大きくリードする製品であるが、NVIDIA DRIVEも他社の追随を許さないシステムである。NVIDIAが自動運転の実用化のリーダーであることを強く印象づけるものである。

NVIDIAの株は、2015年の中頃まで20ドル付近で推移していたが、自動運転でリーダー的な企業となりそうな目が出てきたからは大幅に値上がりし、この記事を書いている時点では188.93ドルである。このところ、4月のGTC 2017、10月のGTC Europe 2017とJensen Huang CEOが基調講演を行うと、株価がステップファンクションで10ドルくらい上昇するということが続いている。基調講演1回で企業価値が5億ドルあがれば大儲けである。

5年間のNVIDIAの株価の動き。最近の値上がりが著しい (出典:ロイター MSNマネー)

株価は期待先行的な面もあるが、これからもNVIDIAの自動運転関係の開発からは目が離せない。