今年6月、日本オラクルのCEOに就任したFrank Obermeier氏がクラウドカンパニーへの転身に向けてギアをシフトさせつつあるようだ。米Oracleが10月5日まで米サンフランシスコで開催した年次イベント「Oracle Open World 2017」で日本のプレス向けのインタビューの席で、Obermeier氏は米国本社のAmazon Web Services(AWS)に対抗する動きに合わせて、日本でも「AWSと激しく戦う」と宣言した。

日本オラクルCEOのFrank Obermeier氏。日本の感想として「食事は予想以上に美味しかった」と笑う

顧客、パートナー、社員、それぞれに向けた取り組みを

ドイツ出身のObermeier氏は今年6月の就任会見において、3つの課題として、「顧客を知る」「クラウドエキスパートの企業になる」「働きがいのある会社」を掲げた。まずは、それぞれの進捗を報告した。

「顧客を知る」については、この4カ月約30社の幹部と会って話をしたという。「どこもデジタル化を進めている過程にある点で共通している。だが、どの段階にあるのかは異なる」とObermeier氏。本社と比べると売上全体に占めるクラウドの比率は低いが、日本企業のクラウドの受け入れについては「ドイツより1年遅れているが、それほど遅れていない」と評価した。

「クラウドエキスパートの企業になる」については、営業やオペレーション担当にOracleと競合のクラウド技術について学んでもらっているとのこと。「2500人に個別にトレーニングしている」という。

パートナーに対しても、オラクルのクラウド製品に関する理解を呼びかける必要がある。「例えば、オラクルのAIはすべての製品に組み込まれた形で提供する。これは重要な差別化のポイントだが、パートナー各社にもきちんと知ってもらう必要がある」とObermeier氏は述べた。

「働きがいのある会社」に関しては、日本では働き方改革や女性活用が注目を集める中、Obermeier氏は「ジェンダー(性)ダイバーシティ」を最初に挙げた。「女性をリーダーのポジションにつけることにフォーカスする」という。子育て世代の社員に配慮して、本社内あるいは近隣に託児所を用意するなども考えているとのことだ。

「女性、高齢者や若者など、多様な人に働きやすい環境を用意する。これは日本オラクルの責任でもある」とObermeier氏。ドイツ出身らしく、企業の社会責任を重視する姿勢をのぞかせた。

また、Oracleが全世界で進めている「Oracle Digital Hub」についても日本で展開するという。本社内に2フロア分のスペースを用意し、2018年中旬にオープンしたいと述べる。Oracle Digital HubはSMB市場にフォーカスしたチームで、まずは200人体制でスタート、毎年倍増させていく計画だという。

AWSはライバルながら、助けられている

最優先課題であるクラウドについては、「顧客の多くが何かしらクラウドを導入している。中には、Oracleではないクラウドもある」と認める。だが、挽回可能だと見ている。

Obermeier氏は、Open Worldで発表された最新のデータベース「Oracle Database 18c」や「Oracle Autonomous Database Cloud」や「Oracle Blockchain Cloud Service」など、SaaSやPaaSの新製品により「性能、コストなどの面で、競合に対して優位に戦うことができる」と自信を見せた。

とはいえ、クラウド市場の競争は激しい。特にIaaSにおいてはAWSの人気が高く、Microsoft、Googleも苦戦している。「AWSの成功をどう分析している? 学ぶことはあるか?」と聞いてみたところ、「AWSは素晴らしいことを行った」とObermeier氏は認めた。

「セキュリティに懸念を抱いていた企業が、パブリック環境のクラウドを使うようになった。オラクル、そしてSalesforce.comなどのパブリッククラウド事業者はすべて助けられた」とObermeier氏。インフラをサービスとして使うという考え方と体験を広めるという素地づくりに大きく貢献したと評価した。

では、どうやって戦うのか? オラクルのアプローチは「IaaS、PaaS、SaaSの統合型」だ。Obermeier氏は、「われわれはインフラだけでなく、プラットフォーム、アプリケーションレベルまできちんと統合できる。これはAWSを使っている顧客に対する大きな差別化だ」と強調する。そして、次のように述べた。

「日本でもAWSに積極的に戦いを挑んでいく。Open Worldで発表されたパブリッククラウドサービスを顧客のところに持っていき、性能とコストをAWSと比較すると、オラクルが選ばれるはずだ」

実際、顧客と会ってみて要望として多く上がるのが「コストを下げ、価値を上げてほしい」であり、オラクルのアプローチはこれを満たすことができる、と見る。

日本でのデータセンター設置については、特に要望としてあがっていないとのこと。「日本企業は、世界(国外)にある高性能なデータセンターを使うことに問題を感じていない」。今後、基幹系など重要なシステムをクラウドで動かす段階になると要望として出てくる可能性はあるだろうと続けた。

Open Worldで発表されたAutonomous Databaseは日本でも12月に提供を開始する。「自律機能がついたデータベースはIT市場を大きく変えることになる」と期待を見せた。