【レポート】

「ベストな睡眠時間」や睡眠量の多寡が体に及ぼす影響を医師に聞く

睡眠時間は人によって異なる

私たちは基本的に毎日就寝することで、体と脳を休めている。健康的な日々を過ごすために睡眠は欠かせないが、人によって寝る時間は異なる。一日最低8時間は寝ないと体調が優れないという人もいれば、毎日4時間の睡眠でバリバリと仕事をこなす人もいる。

個人によって睡眠時間に極端な差がある場合、私たちの体調に何らかの影響を及ぼす可能性も懸念されるが、実際のところはどうなのだろうか。精神保健指定医の高木希奈医師にうかがってみた。

――人によって睡眠時間にかなりバラつきがありますが、睡眠量の多寡が体に及ぼす影響はあるのでしょうか。

睡眠不足になると糖尿病や肥満、心疾患などのリスクが増加することを示唆した研究がこれまでに報告されています。ただ、そういったデータを気にして厳密に「毎日何時間以上寝ないといけない」と感じると返ってストレスになりますし、睡眠以外の要因がそういった疾病へ与えている影響もあるため、そこまで過敏になる必要はないと思います。

――各々に見合った「理想の睡眠量」「ベストな睡眠時間」みたいなものはあるのでしょうか。

睡眠時間に関しては個人差が大きいため、「何時間寝るのが理想」とか「何時間寝ないと不眠になる」ということはありません。日中の眠気がひどくなければ大丈夫です。日中の眠気やだるさがひどく、日常生活や仕事に支障があるならば改善の必要性はありますが、そうでなければ大丈夫です。

つまるところ、長時間寝ればよいというものではなく、時間よりも質が大事です。「何時間寝ても疲れがとれない」「寝た気がしない」という睡眠を長時間とるよりも、短時間であっても、疲れもとれて頭も冴え、朝にすっきり起きられる質のよい睡眠のほうが効果的です。

――睡眠時間が多い分には健康上の問題は発生しないようなイメージがあるのですが、過眠は何らかの疾患と関連性があるのでしょうか。

過眠で考えられる精神疾患は、非定型うつ病や睡眠時無呼吸症候群などが挙げられます。質のよい睡眠がとれていないことが過眠の原因になるケースもあります。また、日中に突然の強烈な眠気が襲ってきて所かまわず寝てしまうような場合は、ナルコレプシーという病気の可能性も考えられます。

――続いて短時間睡眠についてですが、睡眠時間が短くなる理由としては過重労働や単なる夜更かしなどいろいろありますが、「不眠」もその一つに挙げられますよね。不眠に悩まされている人は少なくないと思いますが、その原因を教えてもらえますか。

不眠の理由や原因としては、昼間の活動量が少なかったり、寝室環境が悪かったりといった「生活習慣」、何かストレスがあったり、寝る前にいろいろ考えてしまったりして眠れない「神経症性不眠」、睡眠相後退症候群や非24時間睡眠覚醒症候群などの「原発性不眠(狭義の睡眠障害)」、睡眠中に10秒以上呼吸が止まる症状が一定時間内に一定回数以上起きる「睡眠時無呼吸症候群」などがあります。

さらに身体的・精神的疾患が不眠を引き起こしているケースもあります。前者はアトピー性皮膚炎や気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など)、逆流性食道炎、腰や頭などの疼痛、神経痛、頻尿などがあり、後者はうつ病双極性障害、統合失調症などがあります。睡眠時無呼吸症候群やそのほかの身体・精神疾患がある場合は、まずはそちらの治療を優先してもらうことになります。

一つ注意していただきたいのは、睡眠時間が2~3時間などの短時間でも、全く問題なくバリバリ動けるという場合は、双極性障害の軽躁~躁状態の可能性があります。

――不眠に陥ることなく、質のよい睡眠確保のためにした方がよいことはありますか。

まず大前提として、何かストレスや心配事、不安となっている要因がある場合には、その対処をすることが大切ですね。

具体的な方法としては、上昇した体温が下がってくる際に眠気が出てくるため、寝る少し前にぬるめの湯に浸かってリラックスするのがお勧めです。就寝直前に熱いお湯に浸かると返って眠りを妨げてしまうので注意が必要です。適度な運動も安眠につながりますが、夜に激しい運動をしてしまうと眠れなくなるため、運動は夕方までに終わらせて寝る前には軽いストレッチをしましょう。

そして、質のよい睡眠のためには生体リズムを整えることが大切です。寝る時間は多少前後しても構いませんが、起きる時間は毎日一定にして、朝起きたら太陽光などの明るい光を浴びるとよいですね。逆に夜、特に就寝前はスマートフォンやテレビなどから発せられる明るい光を避け、部屋の照明は暗めにしましょう。寝室はやわらかい光の間接照明にするのがよいと思います。

――食事面での注意点はいかがでしょうか。

寝る3時間前までには食事をすませ、コーヒーなどに含まれるカフェインは覚醒作用があるため、寝る数時間前から摂取しないようにしましょう。一方で寝る前にホットミルクを飲んだり、バナナを食べたりするのは有効です。

眠れないからといって寝酒をされる方もいるかもしれませんが、逆効果になります。アルコールを飲むと確かに寝つきはよくなりますが、眠りを浅くする効果もあるため、質のよい睡眠がとれません。夜中に何度も目が覚めたり、朝早くに目が覚めて寝ざめが悪くなったり、なかなか起きられなくなったりします。

また、お酒を飲み続けると、次第に適量では眠れなくなったり、摂取量が増えたりしてアルコール依存症に陥る危険性もあります。眠れないからといって、お酒に頼るのはやめてください。

――快眠のためにはハード面の充実も重要となってくると思いますが、何か工夫の余地はあるのでしょうか。

質のよい睡眠のためには、寝室の騒音や温度、湿度、明るさ、寝具なども重要となってきます。外の物音がうるさい場合は耳栓を使い、静かな環境で休みましょう。自分がリラックスできる音楽をかけるのも有効ですし、ラベンダーなどのリラックス効果のあるアロマオイルを垂らすのもいいですね。

温度・湿度に関してですが、身体が冷えていると寝つきが悪くなります。エアコンは有効ですが、部屋の空気が乾燥するので加湿器も一緒に使ってください。電気毛布は、身体の体温調節機能がうまく働かなくなるのでお勧めできません。どうしても寒い場合はぬるめの湯たんぽを用意し、温かい羽毛布団などを使用してください。低温やけどの可能性があるため、必ず湯たんぽはぬるめにしてください。

睡眠でお困りの方は一度、精神科や睡眠専門の医療機関を受診することをお勧めします。

※写真と本文は関係ありません


取材協力: 高木希奈(タカギ・キナ)

精神保健指定医、日本精神神経学会認定専門医、日本精神神経学会認定指導医、日本医師会認定産業医。
長野県出身。聖マリアンナ医科大学卒業。現在は、精神科単科の病院で精神科救急を中心に急性期治療にあたっている。また、産業医として企業にも勤務している。
著書に『間取りの恋愛心理学』(三五館)、『あなたの周りの身近な狂気』(セブン&アイ出版)、『精神科女医が本気で考えた 心と体を満足させるセックス』(徳間書店)、電子書籍『女医が教える飽きないエッチ』(App Store、Kindle)など。趣味は、海外旅行とスキューバダイビング。オフィシャルブログはこちら。
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