9月21日に発表された新VAIO Sシリーズ

2017年6月15日付けでVAIOの社長に吉田秀俊氏が就任して、最初の3カ月が経過した。

2014年7月に、VAIO株式会社として独立して、4年目に突入。主力のPC事業に加えて、ロボットの受託生産を中心とするEMS事業での実績もあがりはじめ、海外展開や新たな第3のコア事業への取り組みも加速することになる。

9月21日には、LTE通信機能を搭載した13.3型ノートPC「VAIO S13」をはじめとする新製品を投入。今後もVAIOならではの製品の創出に挑む。VAIOの今後の成長戦略に、吉田社長の長年のエレクトロニクス業界での経験はどう生かされるのか。そして、今後のVAIOはどう成長するのか。吉田社長に話を聞いた。

VAIO代表取締役 吉田秀俊氏

――2017年6月15日に、VAIOの社長に就任してから、すでに3カ前を経過しました。外から見たVAIOと、中に入って見えたVAIOに、なにか違いはありましたか。

吉田氏:私は、2014年にVAIOが独立した時から注目していました。縮小するPC市場のなかで、どうやって独り立ちするのかという点については、とても関心がありました。正直、「これは、大変だろうなぁ」(笑)というのが当時の感想です。そのVAIOが、その後、着実に復活の道を歩みはじめたことには、陰ながら拍手を送っていましたよ。これは、みなさんと同じ感覚だったのではないでしょうか。

一方で、VAIOの親会社である日本産業パートナーズのことは知っていましたし、前任の大田義実氏も以前からの知人です。一緒にお酒を飲んだこともあるんですよ(笑)。

また、2015年後半には、社長を務めていた会社で、安曇野工場に、基板の商談でお邪魔したこともあります(※1)。そこで製造工程をみせていただき、一流の会社による構築された管理体系を維持した、素晴らしい工場だと感じました。工場に併設されているショールームのセンスも素晴らしい。さすがVAIOだと思いましたよ。

※1……吉田氏の前身は、プリント回路など電子部品を手がけるエルナー株式会社代表取締役。

安曇野本社に併設されているショールームには歴代のVAIOが並ぶ

実際にVAIOのなかに入ってみると、黒字になった理由がわかりますし、それに向けたこの3年間の苦労は、大変だっただろうということもわかります。実は、VAIOに入ってみて、もしかしたら社員がかなり疲弊しているのではないかと思ったのですが、それはまったく感じませんでした。自発的に活動していますし、ソニーから完全に独立したという意識が予想以上に強い。

VAIOになっても、ソニーの顔をした社員がいるのではないかと思っていたのですが、それはまったくないですね。VAIOという会社を成長させようという気概、熱意を1人ひとりの社員から感じました。就任時、約240人の社員と、グループ面談したのですが、社員はとても元気だというのが、面談後の印象ですね。

――前任の大田前社長が商社出身であるのに対して、吉田社長はエレクトロニクス業界で30年以上の経験があります。この経験はどう生きますか。

吉田氏:確かに、家電メーカー出身であり、エレクトロニクス業界の長年の経験は、VAIOの経営にはプラス要素になるでしょう。また、その間の半分ぐらいは海外事業を担当していましたから、VAIOが展開している海外企業へのライセンスビジネスなどでも、なにをしたらいいのか、なにをしてはいけないのかがわかります。

そして、VAIOは、もともと事業運営であったものが独立し、会社運営になっています。会社運営上のリスクはなにか、どこを加速させなくてはけいけないかといったことを、経営という観点で運営する知見もあります。これまでにも数社の会社経営をしてきた経験がそこに生きると思っています。家を1軒建ててもわからないが、2軒、3軒建てるとコツがわかるというじゃないですか。それと同じですよ(笑)。

――ちなみに、VAIOブランドのPCは使ったことはあるのですか?

吉田氏:私は日本ビクター時代にビデオを担当していたこともあり、もともとソニーは買わない主義なんです(笑)(※2)。それに、PCは自作するタイプで、自分で10台以上作っていますから、私自身、VAIOを買ったことはありませんでした。ただ、1台だけ、妻にVAIOを買ったことがあります。これは、妻がVAIOを欲しいということで買ったもので、いまも使っていますよ。

※2……1970年台後半、家庭用ビデオ市場は日本ビクターの「VHS規格」と、ソニーの「ベータ規格」の2大規格がシェア争いでしのぎを削っていた(1980年代頃からVHS規格が標準化していった)。

――ソニーの流れを汲むVAIOの社屋に入った時は、「敵陣」に入るような感覚でしたか(笑)。

吉田氏:いやそれはありません。私は、すでに4社目ですし、もはや、そういう感覚は薄れていますからね。