9月の終わりとともに、すべての夏ドラマが終了した。視聴率トップは全話平均14.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~』(フジテレビ系)。録画分を合わせた総合視聴率も24.2%を記録するなど、文句なしの結果を残したと言えるだろう。

その他は、在宅率の低い時期だけに、全般的に低迷。特にフジテレビは、『警視庁いきもの係』が6.5%、『僕たちがやりました』が6.1%、『セシルのもくろみ』が4.5%とプライム帯ドラマのワースト3を占めるなど、『コード・ブルー』との明暗がハッキリわかれた。

ここでは、「心理描写より展開重視のストーリー」「新作オリジナルで勝負した日本テレビ」という2つのポイントから夏ドラマを検証し、全20作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

『僕たちがやりました』

■ポイント1:心理描写より展開重視のストーリー

暴力やイジメ、学校の爆破、ベッドシーン、ホームレス生活、屋上から飛び降りなどの過激なシーンが続いた『僕たちがやりました』。主人公が銃で撃たれ、実母から冷酷な扱いを受け、ジャーナリストをボコボコにした『ごめん、愛してる』(TBS系)。庭に埋めた死体が掘り起こされ、脅迫メールが送られ、骨を送りつけられた『愛してたって、秘密はある。』(日本テレビ系)。ヒロインが夫に浮気され、息子を奪われ、会社ではリストラされた『カンナさーん!』(TBS系)。前シリーズ以上に医師たちがアクシデントに襲われ続けた『コード・ブルー』。ヒロインが銀行の金を横領して銀座のママとなり、恐喝でさらに大金を手にしたが、失ってしまった『黒革の手帖』(テレビ朝日系)。

今夏は「激しいシーンや急展開の連続で視聴者を引きつけよう」という作品が多かった。物語の中心は、事件や事故などの非日常的なアクシデント。「それらに翻弄される主人公たちを描く」というコンセプトで、「SNSの反応につながりやすい」という狙いもあっただろう。

なかでも『僕たちがやりました』『ごめん、愛してる』『愛してたって、秘密はある。』『コード・ブルー』は、「“命の重さ”というテーマを際立たせるために激しいシーンや急展開を続けた」と言えるが、視聴者はこのコンセプトに賛否両論。制作サイドも、ある程度の批判を覚悟した上で挑んでいたのは間違いない。

以前の夏ドラマはカラッと明るい作風が多かったが、今年はシリアスモードだった。相対的にヒロインの心理や成長をじっくり描いた『過保護のカホコ』(日本テレビ系)の評価が高くなりやすい状況だったとも言えるだろう。

『過保護のカホコ』で共演した高畑充希(左)と竹内涼真 撮影:蔦野裕

■ポイント2:新作オリジナルで勝負した日本テレビ

今夏は『コード・ブルー』『黒革の手帖』『刑事7人』(テレビ朝日系)、『遺留捜査』(テレビ朝日系)などの続編やリメイクが目立ち、平均視聴率はすべて2桁を超え、それぞれ1位(14.8%)、3位(11.45%)、4位(11.36%)、5位(11.0%)と上位を占めた。

上記以外は、ほとんどが漫画か小説のドラマ化であり、プライム帯で新作のオリジナルは『過保護のカホコ』『ウチの夫は仕事ができない』『愛してたって、秘密はある。』の3本のみ。いずれも日本テレビの制作だが、『過保護のカホコ』は視聴率2位の11.47%と、続編・リメイクの間に割って入る健闘を見せた。

日本テレビは10月スタートの秋ドラマでも『先に生まれただけの僕』『奥様は、取り扱い注意』の新作オリジナル2本を手がけるなど、最も意欲的な姿勢を見せている。オリジナルは「先が読めない」「ネタバレなし」だけに当たれば大きい。ドラマ人気を再燃させる上でも、日本テレビの挑戦に期待が集まっている。


上記を踏まえた上で、夏ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『僕たちがやりました』。前述したように、序盤から批判覚悟で暴力やセクシーなシーンを描いたが、すべては罪と向き合う終盤に向けた伏線だった。原作漫画とは異なる非情なラストシーンも評価されるべき。

その他では、企画そのものが語り継がれそうな『下北沢ダイハード』(テレビ東京系)、ほのぼのとした新境地の刑事ドラマ『警視庁いきもの係』、高畑充希&竹内涼真コンビが光った『過保護のカホコ』、ミュージカルに振り切って笑いを誘った『あいの結婚相談所』(テレビ朝日系)の4作。いずれもオリジナリティで他の作品を凌駕していた。

主演男優では窪田正孝と山崎育三郎、女優では高畑充希と武井咲。また、助演として 彼ら4人を輝かせた今野浩喜、高梨臨、竹内涼真、仲里依紗の演技も素晴らしかった。

最後に、深夜帯のため対象外としたが、『さぼリーマン甘太朗』(テレビ東京系)も素晴らしかった。『孤独のグルメ』に次ぐシリーズ化に期待したい。

左から山崎育三郎、高畑充希、窪田正孝、武井咲

【最優秀作品】『僕たちがやりました』 次点-『下北沢ダイハード』
【最優秀脚本】『下北沢ダイハード』 次点-『僕たちがやりました』
【最優秀演出】『ハロー張りネズミ』 次点-『警視庁いきもの係』
【最優秀主演男優】窪田正孝(『僕たちがやりました』) 次点-山崎育三郎(『あいの結婚相談所』)
【最優秀主演女優】高畑充希(『過保護のカホコ』) 次点-武井咲(『黒革の手帖』)
【最優秀助演男優】竹内涼真(『過保護のカホコ』) 次点-今野浩喜(『僕たちがやりました』)
【最優秀助演女優】仲里依紗(『黒革の手帖』) 次点-高梨臨(『あいの結婚相談所』)
【優秀若手俳優】コムアイ(『わにとかげぎす』) 横山だいすけ(『警視庁いきもの係』)