3DCG制作ソフトの開発・販売などを行うオートデスクは、9月21日~22日にかけて製造、建築、土木、メディア&エンターテイメントなどの業界におけるさまざまな新技術の展示やセッションを行うイベント「Autodesk University Japan 2017」(AU JAPAN 2017)を開催した。

21日のブレイクアウトセッション『3DCG の夜明け~日本のフル CG アニメの未来を探る~』では、「楽園追放」の水島精二監督と東映アニメーションの野口光一プロデューサーが登壇し、日本のアニメ制作についてトークを行った。本稿ではその模様をお伝えしよう。

水島精二監督

東映アニメーション・野口光一プロデューサー

アニメ監督とはどんな仕事か、どうすればなれるのか

そもそも「アニメ監督」とはどのような仕事なのだろうか。

これまでに『機動戦士ガンダム00』や『鋼の錬金術師』、『楽園追放』など数多くのヒットアニメを手がけてきた水島監督は、自らの仕事を振り返りつつ「監督とは、アニメに関わる大勢のスタッフを統率して作品を形にする仕事」と説明する。

「それまでの作業の延長ではなく、自分に何が求められているのか、冷静に見ないといけません」(水島監督)

単純に絵を描くスキルが高ければなれるというものではなく、人をとりまとめるリーダーシップや高いコミュニケーション能力が求められる仕事なのだ。実際、野口Pも水島監督を「初めて会ったときからコミュニケーション能力の高い人だなと思った」と高く評価する。

監督になるためのルートは人それぞれ。水島監督の場合、「最初は何となく監督に選ばれた」のだという。

「作品についていろいろ言っていたら、監督やりませんか? っていわれて」(水島監督)

重要なことは「一緒に働く人を幻滅させないこと」だと水島監督は言う。

「長くスタジオにいると、監督をやってみないかって言われるかもしれません。そうなったときに自分に何ができるのかは日々考えておかないといけないんです」(水島監督)

一方で、「実は作家性はそんなにないんです」と告白。

「言われたことにはちゃんと応えるし、間違ったら訂正する。そうしないとアニメ制作は停滞してしまいます。そういう意味で作家性はそんなにないと思っています。ライターさんがやりたいことに僕も参加させてもらっているんです」(水島監督)

これに野口Pは「水島監督に作家性がないって言われても『えっ!?』って感じですけど……」と苦笑しつつ、「Pの立場としては数字が取れるかどうかが大事」と本音を漏らした。

また、CGクリエイターが監督になるパターンはまだ少ないとのことで、これについては「3DCGの人自体が監督候補として認識されていない状態」(水島監督)だという。「コミュニケーション能力も腕もあって、監督になれるんじゃないかって人はいる」(野口P)ということなので、今後CGクリエイター出身の監督も増えてくるのではないだろうか。

2Dと3D、それぞれに適したシーンとは

さて、水島監督と野口Pがコンビを組んで大成功した作品といえば『楽園追放』である。セッションでは、3DCGを駆使して制作された本作における制作の裏話も語られた。

「楽園追放ではCGアニメで食事シーンを入れたかった」と語るのは野口Pだ。

「おいしく食べるシーンが作れたら、CGアニメでもちゃんと見てくれるんじゃないかなと思ったんです。CGアニメで豪快に食べるシーンというのはまだできてないと感じますが」(野口P)

これに水島監督は「3Dと2Dでは得意不得意が違う。宮崎アニメのような食事シーンを3Dで再現することに意識が向いていない」と応じる。

『楽園追放』ではうどんをすするシーンが登場するが、たしかに2Dでの豪快にデフォルメされた食事シーンとは印象が異なる。この場面、水島監督はカット割りなどを工夫することで、背後のモブキャラクターにもドラマを感じさせることを狙ったのだという。

『楽園追放』の食事シーン

3DCGでの表現に適しているのは、どちらかといえばアクションシーンだ。

「アクションは作画とCGのハイブリッドがうまくいっている分野。CGだと動きは崩れないけど表情が弱かったり、作画だと表情はいいんだけど動きが崩れたりしますから。『楽園追放』でのアクションは作画に負けずうまくやれたと思います」(野口P)

2D作画と3DCGが抱える課題とアニメ業界の将来

セッション後半では、アニメ業界全体についての話題が語られた。

まず、「アニメ制作の課題」については「作品数が多くて、穴が開くこともあるくらい増えている」と野口Pが指摘。水島監督も「キャパオーバーするとクオリティを下げざるを得ない」と同意する。

この課題を解決するためのひとつの可能性がCGの活用である。セルルックと呼ばれる手法であれば従来の2D作画との違和感もそれほど生まれず、うまく融合できる可能性がある。

ただし、「2D(従来のアニメーターによる作画)の世界では、3Dアニメに対する理解はまだ進んでおらず、嫌っている部分もある」(水島監督)とのことで、野口Pも「ちょっとしたシーンでもCGにするか作画するかで言い合いがあったりする。まだまだ2Dと3Dの間には距離がある」と業界事情を説明する。

「(3Dの利点が生かせる局面でなければ)『作画でいいじゃん』と思ってしまうところもあります。そこを解決するのが今後の課題ですね」(水島監督)

海外展開は、まず日本市場でヒットさせてから

制作手法だけでなく、海外に向けた売り方を考えていくこともアニメ業界の課題のひとつだ。

今や日本のアニメは海外にも多くのファンを抱えるまでになり、たとえば東映アニメーションが制作を手掛けた『正解するカド』はアメリカでも公開された。

水島監督はこうした流れを歓迎しつつも、「まずは日本の市場を意識して日本でヒットさせることが大事」と持論を述べる。

「昔は合同企画で海外の人が望むものを作ろうとしたことがあったけど、ダメでした。たとえば『君の名は。』なんて、海外を意識して作ったわけじゃないですよね。『この世界の片隅に』なんかも、映画としての強度がめちゃくちゃ強い。ああいう作品はどこに行っても見てもらえるんです」(水島監督)

最後に水島監督からは、将来アニメーターやアニメ監督を目指す若者に向けてのメッセージが贈られた。

「熱意があって主張していればチャンスは回ってくるし、会社にいてダラダラするんじゃなく、能動的に動くこと。僕は監督になってからの方が情報をインプットする時間を作るようにしています。作品を作るためには豊かな経験をした方がいいですよ」

締めには野口Pから「『楽園追放』の続編は10年以内には作りたいですね」という言葉も。

アニメ業界の現状と、3DCGと2D作画の未来について理解の深まるトークセッションとなった。