慶応義塾大学(慶大)は、身体感覚を伝送可能な双腕型ロボット「General Purpose Arm」の開発成功に合わせ、9月28日、報道陣向けの説明会を行った。高度な自動操縦および遠隔操縦が行える同製品は現在約30の企業と実用化に向けた取り組みを開始しており、医療や介護、産業などさまざまな分野への応用が期待される。

身体感覚を伝送可能な双腕型ロボット「General Purpose Arm」。画像手前はロボットの説明を行った同大理工学部システムデザイン工学科の野崎貴裕 助教

近年、少子高齢化を背景に、若年労働力の減少や介護負担の増加、熟練技術の喪失などといったさまざまな問題が生じている。こういった問題の解決策の1つとしてロボットの応用が挙げられるが、従来のロボットは、人間のように触覚によって力加減を調節してさまざまな作業を柔軟にこなすことができず、対象物を壊したり傷つけてしまうことも多く、応用できる分野が限られていた。

直接触ったかのように感じる触覚技術

今回、同大では高精度な力触覚技術を活用することで、人間同様の動作を実現可能な双椀型ロボットを開発することに成功した。力触覚技術とは、ロボットが物体に触った感覚を人間に伝送し、あたかも直接触ったかのように感じさせる技術のこと。視覚には高精度力触覚(リアルハブティクス)技術、聴覚にはHMDとステレオカメラからなるビジョンシステム、移動感覚には筋収縮システムを用いて感覚を伝送する。

ロボット操縦の様子

筋収縮測定システムにより足の筋肉の収縮を測定し、それに合わせてロボットが移動する

同ロボットは、操作用のシステムであるマスターと作業用のシステムであるスレーブで構成される。ビジョンシステムにより、操作者はスレーブシステムの視野を共有することができ、あたかもその場にいるような視覚情報を得ることができるという。

また、スレーブには移動機構も備わっており、マスターに備わっている筋収縮測定システムに連動して移動を行うことが可能だ。具体的には、進みたい方向に合わせて足に力を入れると、足元においてある装置の内部に詰まれたモータに抵抗が加わり、そのデータをロボットに伝えることで、望んだ方向へ移動する、という仕組みだ。

デモンストレーションでは、ロボットを操縦してコップへ水を注ぐ一連の動きが行なわれた。柔らかいプラスチックコップを潰れない力加減で握ることができていた

これにより、これまで困難であった人間の力加減の情報を測定できるとともに、測定した情報を用いた力制御も可能であり、人間の動作を再現することもできるという。説明を行った同大理工学部システムデザイン工学科助教である野崎貴裕氏は、「異なるデータと組み合わせるような編集も可能。早送りや巻き戻しといったこともできる」とした。

簡単にロボットに作業を覚えさせることも可能で、例えば、たった3秒で「ねじを緩める作業」をロボットに覚えさせる、といったこともできる。このデータを巻き戻せば、緩める作業は締める作業に変化し、早送りを行えば、短時間でのねじを外すことも可能だ。

さまざまな分野でのロボット活用が期待

また、このロボットの登場によって今後、人間ではできなかった場所(もしくはこれまで危険だった場所)での稼働が期待される。具体的には、放射線環境下や深海中、高所など。加えて、エンタテイメントの世界で言えば、遠隔で楽器を奏でることも可能だ。そのほか、介護・福祉の世界では高齢で歩行が困難な状況においても、外出や買い物の体験をするといったことも夢でなくなるという。

ロボットのさまざまな応用展開

なお、これらの技術をさまざまな業界に応用するために、2017年8月21日には大学発ベンチャー「MOTION LIB」を設立している。今回のロボットの制御を実現したICチップ「ABC-CORE」を発売しており、同製品1つにつき、2つの関節を動かすことができるという。現在、約30の企業と共同研究開発を推進しているという。すでに製品化段階まで進んでいる開発もあるといい、今後も多くの画期的な製品が誕生していくだろう。