私たちを診察してくる医師は感染症にかかるの?

私たちは体の不調を感じたら病院やクリニックで診察をしてもらう。特にこれからの季節は、気温が下がって空気が乾燥してくるため風邪やインフルエンザなどの感染症が流行しやすくなる。ますますドクターのお世話になる機会が増えていくはずだ。

毎年のようにインフルエンザに悩まされている筆者は、「今年もまたあの憂鬱な季節がやってくるのか……。なんとかあの苦しみから逃れるすべはないものか……」と頭を抱えていた。そんな折、読者からある質問が届いた。

「インフルエンザやノロウイルスなどが流行しても、なぜ患者の診察をしている病院の先生には感染しないのか」

……確かに言われてみると、インフルエンザウイルスやノロウイルス、RSウイルスが猛威をふるっている時期でも病院やクリニックはいつも開いている。ということはすなわち、診察してくれる先生がいるということだ。ならば、先生たちはウイルスに感染していないのだろうか? もしかして、何か秘密のウイルス対策や特別なワクチン接種などをしているのかも!? 真相を探るべく、渡辺由紀子医師に話を聞いてみた。

――ズバリお聞きしますが、インフルエンザや風邪といった感染症患者が増えるシーズンは、医療従事者の人たちも感染するのでしょうか。

感染症患者が増えるシーズンというと、インフルエンザや寒さと乾燥による風邪が増える冬がまっさきに思い浮かびます。感染症はほかに感染性胃腸炎などもあり、同じく冬にはノロウイルスや乳幼児のロタウイルスによる胃腸炎が増えます。

冬以外にも、夏には夏風邪や冬と同様に感染性胃腸炎が流行します。夏風邪の中には、プール熱といわれるアデノウイルス感染、手足口病といわれるコクサッキーウイルス感染などがあります。これらの感染症は、特に免疫力のまだ低い乳幼児をはじめとした子どもに多く発症しますが、その親や保育士といった大人にも感染します。

お伝えしたように主に夏と冬など、感染症患者が増えるシーズンというのはありますが、その季節に医療従事者の感染も増えるのかと問われると、答えは「No」ではないでしょうか。

もちろん、医師や看護師、コメディカル、広義的には受付の事務職員も含めた医療従事者が全く風邪をひかないというわけはありません。また、季節を問わず、医療従事者が風邪や胃腸炎による下痢・吐き気に苦しむこともあります。それでも、私たちは一般の方より感染症に関する知識があり、普段の予防意識も高く、マスクや手洗いなどの予防行動も欠かしません。そのため、感染症への暴露機会の多さに比べ、実際に感染する比率はかなり低いと感じています。

ただし、インフルエンザのように感染力の高いものに関しては、通常の予防行動だけでは防ぎきれない部分があります。医療従事者が予防接種を受けている比率はかなり高いですが、全く感染しないというわけではありません。それでも、風邪やそのほかの感染症の場合と同じく、暴露機会の多さに対する感染比率は、一般の方よりはかなり低いはずです。

――感染はゼロではないものの、ウイルスの感染率および疾患の罹患率は医療従事者以外の人に比べて低いということですね。それでは、医療従事者がインフルエンザや風邪などの感染症になった場合、どのように治療や対処をしているのでしょうか。

治療は、一般の患者さんの場合とまったく同様です。まずは早期治療が肝要で、発症したら無理をせず初期のうちに対処することです。無理してこじらせると、治るまでにかえって時間がかかり、職場にもかえって迷惑をかけることになります。

職場への対処は重症度に応じる形になります。軽症でしたら服薬はせず、家庭でしっかり休養を取り、治ってから仕事に復帰する場合もあります。投薬が必要な場合には、受診をして適切な対症療法薬を処方してもらいます。インフルエンザなど、そのウイルスに効果的な抗ウイルス薬がある場合はその薬剤の処方を受け、内服したうえで休養します。

いずれの場合も、薬の内服以外に睡眠や十分な水分摂取、可能な場合は食事による栄養補給を含めた休養が回復に一番重要ですので、可能な限り仕事は休むように指導します。