人気シリーズ最終章『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』でVFXスーパーバイザーを務めた「WETAデジタル」のダン・レモン氏が来日し26日、東京・TOHO シネマズ 六本木ヒルズでプレゼンテーションを実施。合わせて、『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督や、同作でVFXスーパーバイザー及び編集を務めた佐藤敦紀氏とともに、トークショーを行った。

左から、樋口真嗣監督、ダン・レモン氏、佐藤敦紀氏

これまでに、『アバター』を始めとする数多くの作品に関わってきたダン・レモン氏。『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(2011年)、『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(2014年)の両作品で、アカデミー賞視覚効果賞にノミネートされ、『ジャングル・ブック』(2016年)でついに同賞を受賞。まさにVFX界を代表するトップクリエイターの1人だ。

役者の動きをコンピューターに取り込む「パフォーマンス・キャプチャー」の手法により、リアルな猿の表情を実現し、高い評価を得ている本作だが、「水が跳ねるシーンもすべてCGで作り、猿の毛や皮膚にも雨の水滴を加えている」というから驚く。

レモン氏は、雪の上を猿が転げまわるシーンの難しさについて、製作過程を完成した映画のワンシーンと比較しながら丁寧に解説。「ニット帽やジャケットなど、猿が身に付けるコスチュームの質感を表現するのにも苦労した」と振り返った。

また、本シリーズ初登場となるキャラクター「バッド・エイプ」を引き合いに、「新しい猿のキャラクターを生み出すときは、イメージどおりの特徴を兼ね備えた猿の顔写真を捜し出し、そこからディテールを作り込んでいく」と語ったレモン氏。製作にあたっては「地元の動物園の協力も得ている」と言い、「実際のチンパンジーの脳のMRIデータを基に、体内の3Dモデルを作成し、骨格から筋肉、脂肪の付き方までをも研究。さらには、1本1本描き込んだものをコピー&ペーストすることで、自然な毛並みを再現している」ことなど、舞台裏を披露した。

『ロード・オブ・ザ・リング』三部作にも携わるなど、大作を多く手がけているダン・レモン氏

「人間と猿の構造を深く理解した上で、人間から猿へと変換させるためには、大いなるスキルと経験が必要。それがあるからこそ、生き生きとした猿の演技を見せることができる」と語り、「真に才能のある人たちの、大きなコラボレーションと尽力の賜物」と、スクリーンを埋め尽くす500名以上のスタッフクレジットを前に、その功績を称えた。

その後のトークショーでは、「パフォーマンス・キャプチャー」を導入するにあたり、「役者をどうやって説得したのか」、「女性らしい猿の動きのこだわりは?」など、樋口監督がレモン氏に矢継ぎ早に質問を投げかけ、佐藤氏は「ニット帽をCGモデルで作るなんて考えられない!」、「スパゲッティと毛糸モノは、大変だからやめてくれ! と言われる。よくやりましたね」と驚嘆。日米を代表するクリエイター同士のVFX談義は、大いに盛り上がりを見せた。

テクノロジーを使った表現技術の革新について、「ある意味、予算次第というところもある」とリアルなコメントも挟みながら、「とにかくいろんなツールを集めて、どのツールが一番ハマるかを考えることが一番大切。時にはミニチュアやフィギュアの方がCGよりいい場合もある」と持論を述べたレモン氏。さらに「フィルムメーカーは、どんなテクノロジーが必要かわからない時ほど燃える」と、トップクリエイターならではのやりがいも笑顔で語った。

レモン氏の仕事ぶりに樋口監督と佐藤氏は驚きを隠せない

また「スターとしての才能を感じる」と樋口監督も絶賛する、主人公・シーザーを演じたアンディ・サーキスについて、レモン氏も「アンディは、どんな役柄でも演じ分けられるし、役柄に信ぴょう性をもたらしてくれる存在だ。アカデミー賞の審査員も、彼の演技が映画に貢献していることをもっと評価してほしい」とコメント。

「演技を通じて、キャラクターの感情がしっかりと伝わることが大切」だと力説していたレモン氏は、「今後ますますVFXが発達したら、将来役者は必要なくなるか?」という会場からの問いにも、「どんなにテクノロジーが発達しても、役者は必須」と即答した。

樋口監督も「こちらが思った以上のことをやってくれるのが、生身の役者のいいところ。最終的にデジタルで作られた映像だとしても、伝える手段としての人間のパフォーマンスはすごく重要」だと語り、佐藤氏も「役者だけではないし、CGアニメーターだけでもない。彼らのコラボレーションによって、これほどハイクオリティな作品が作られていることを理解してほしい。僕らもそういう仕事がしたいですね」と意気込んだ。『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』は10月13日より全国公開。