iFREE JAPANは9月22日、200以上の国や地域で利用できる「MOGO S SIMカード」を発表した。世界各国に展開する600以上の通信事業者と契約しており、その国において最も安定しているネットワークで通信できることをアピール。加えて、海外にある6,000万カ所のWi-Fiスポットも利用できるという。

iFREE JAPANは、海外渡航者に向けた「MOGO S SIMカード」を提供する。どのようなサービスなのだろうか?

接続されるネットワーク事業者の選択基準は?

iFREE Groupは、香港に本社を置くグローバル企業。MOGO S SIMカードは標準SIM、micro SIM、nano SIMの3タイプにマルチカットできる仕様で、SIMフリースマートフォンやWi-Fiルータに挿入して利用する。では、競合するサービスとは何が違うのだろうか。

ひとつは、LINEのようなUIのメッセージングアプリ「MOGO Nアプリ」が利用できること。これにより、海外旅行中でもメッセージのやり取り、写真や動画の送受信、お互いの現在地の把握などが簡単に行える。この「MOGO Nアプリ」は9月22日に提供を開始している。現在は英語版のみだが、10月末には日本語化する見込みだ。

MOGO Nアプリでは、LINEのようなメッセージのやり取りが可能(左)。ローミング費用は不要で、対応エリアも拡大中(右)。ちなみにMOGOとは、モバイルオンザゴーの略だ

iFREE Groupのパートナー企業と連携できるのも大きな強みになっている。ホテルの部屋を閲覧・比較・予約したり、フライトやクルーズを予約したり、レンタカーを借りたり、旅行保険をかけたり、デジタルウォレットで旅行代金を支払ったり、Uberやタクシーを呼んだりと、海外旅行にともなう各種サービスをシームレスに利用できる。

気になる料金は、10月下旬のサービス開始に向けて「スターターパック」「7日プラン」「3日プラン」など、いくつかのプランが用意される予定。スターターパックのアジア向け(オーストラリア、韓国、シンガポール、タイ、台湾、中国、日本、香港、マカオ、マレーシア、ラオス)なら2,800円で10日間(300MB/日)、かつ最大100分の無料国際電話が付いてくる見込みだ。

iFREE Groupリミテッド(香港)でCTOを務めるソゥ・ウェイ・ホン氏

質疑応答の場で、iFREE GroupリミテッドCTOのソゥ・ウェイ・ホン氏に話を聞いた。まず、海外における通信事業者の選択基準はあるのだろうか。ソゥ氏は「選択基準は色々あるが、その中でもネットワークの安定性を最重要視している。SLA(Service Level Agreement)を定めており、その通信事業者のネットワークに問題が見つかった場合は、15分以内に、その国で展開する別の通信事業者のサービスに切り替える」と説明した。

200以上の国や地域に展開する600以上の通信事業者と契約。ネットワークの安定性を最重要視しているという

ビジネスモデルについても聞いた。すでにサービスを先行する香港では空港、駅、ホテル、銀行など、旅行者の目に触れやすい箇所にブースを増やしているという。「旅行会社、航空会社とのタイアップも検討中で、制限付きのSIMカードを無料で提供するなどのキャンペーンも展開する」(ソゥ氏)。すでにタイ航空や香港エアウェイズと話が進んでいるとのこと。搭乗者に無料でSIMカードを配ったうえで、課金により有効期限が伸びるほか、無料通話時間(フリートークミニッツ)も定期的にもらえる、そんなサービスで継続利用を促していくようだ。

最後に、ソゥ氏は「日本市場では、まずSIMフリーのスマートフォンを使うことが前提になる。グローバルとは事情が違う部分もあるとは思うが、広く意見を聞いて進めていきたい。Amazonなど、オンラインでの発売がすでに決まっている」と話していた。

日本市場でどう展開?

海外で利用できる簡単で便利な通信サービスが登場したことを、いち消費者として喜びたい。説明によれば、iFREEグループの中核を担うという目的で日本法人が立ち上がったのが2017年1月のこと。設立から間もないこともあり、今後、乗り越えるべき課題は少なくなさそうだ。日本市場で、どう展開していくべきか考えた。

アイフリージャパン 代表取締役社長の豊福淳氏

MOGO S SIMカードの最大のメリットは、1枚のSIMカードで様々な国の通信サービスを利用できること。これは国境が陸続きで、外国を簡単に行き来できる海外に住んでいる人には非常に有意義だ。しかし海に囲まれた日本では市場のニーズが異なる。海外渡航者向けのサービスとなると数社が先行しており、その差別化も迫られる。例えば旅行会社と連携して「欧州7カ国周遊ツアー」のような、いくつもの国をまたがって旅行する消費者に向けてアピールするなら、需要も喚起できそうだ。

海外出張の多い法人での需要増も期待したいところ。現在は、国際電話の通話品質を重視してドコモ、KDDI、ソフトバンクといった大手キャリアが提供するローミングサービスを利用する企業も少なくないと思われる。そこで200を超える国と地域から、固定電話と携帯電話宛に音声発信できる、iFREEが提供する「iVOICE」をアピールする。この通話品質が良ければ、大手キャリアのサービスにも対抗できるのではないだろうか。

追い風となるのは、ここ最近の格安SIMサービスの流行によって、SIMフリー端末を用意して、SIMカードを入れ替えて使う……という行為が、消費者レベルで普及してきたこと。もっとも、あらかじめiFREEのSIMカードを組み込んだWi-Fiルータを提供すれば、ユーザー側で難しい設定をする必要がなくなり、またSIMフリーのスマートフォンを持っていない(大手キャリアと契約を結んでいる)人にも気軽に利用できるようになる。

同社によれば、日本の海外旅行客は前年比で約4%増加しているという。団塊の世代が定年を迎えたこともあり、しばらくはこのアウトバウンド需要が続きそうな気配だ。この機会をいかに捉えるかが、事業の拡大と安定化に向けた鍵になるだろう。