【レポート】

説明可能なAIと量子コンピューティグ技術の実用化で世界を牽引 - 富士通研 2017年度研究開発戦略

富士通研究所は9月20日、2017年度の研究開発戦略説明会を開催し、今後の研究開発戦略の方針ならびに、新開発の技術などを報告した。

富士通研究所の佐々木繁 代表取締役

富士通研の佐々木繁 代表取締役は、同研究所のミッションは「先端技術で富士通グループの成長を牽引すること」だとし、連結業績目標として、営業利益率10%以上増、海外売上比率を50%増を目指していくと説明した。またそのために、「未来観と世界観から洞察した社会課題を、先端技術により解決していく」という戦略を示し、現代におけるテクノロジーによる世界の変化と潮流を3つで捉え、同研究所ではICT分野で8つの先端技術トレンドでリードしていくと説明した。

テクノロジーによる世界の変化と潮流

富士通研がリードする8つの先端技術トレンド

「Human in the loop」によってシンギュラリティの考え方はなくなる

現在、ICTによる新たな産業革命が起きている。特にAIの普及速度が著しいが、ディープラーニングの出現がそれに拍車をかけたといえる。しかし、ディープラーニングにも課題は多い。中でも「精度の高い結論は出るものの、その結論に至った理由を説明できない」という問題がある。例えば、患者の命に関わる医療の分野でAIを用いた治療を行うとする。その後、予想とは異なる結果となってしまった場合に、患者およびその関係者に、「なぜそうなったか」を説明することができないこととなるという事態が起きかねなかった。

同氏は、AIを用いた今後のICT分野において「Human in the loop」という、AIとの理想的なヒトの付き合い方を説明した。それは、ヒトが意思決定を行い、その意思決定を迅速化させるためのツールとして、AIを用いるというもの。「これにより、シンギュラリティの考え方はなくなると考えている」と同氏。

「Human in the loop」のイメージ

また、この理想を実現するために同研究所では「説明できるAI」を開発している。つまり、これまで「結論」だけを提供していたAIに、「結論に至った経緯」を示させることで、これまで以上にさまざまな分野でのAIの活用を図っていく。

「デジタルアニーラ」で解けない社会課題を解く

次に「デジタルアニーラの研究開発戦略」と題し、量子コンピューティング技術を用いることで解けない社会課題を解くことを目的とする「デジタルアニーラ」に追加された新技術について、富士通研の堀江健志 取締役が説明を行った。

デジタルアニーラとは、同研究所が2016年10月に発表した、量子減少に着想を得たデジタル回路により、一般的なコンピュータでは解けない組み合わせ最適化問題を瞬時に解くことのできるアーキテクチャだ。2016年には実用問題適用に向けて1QBitとの協業を開始し、2017年8月よりクラウドにてトライアル提供を開始していた。こういった活動を通して、応用領域の明確化を進めていった結果、「金融」「化学・制約」「医療」などといった分野での活用が期待できることが分かってきたという。

従来、組み合わせ最適化を行うにあたっては、数万回以上の繰り返し計算を行う必要があり、場合によっては数週間以上期間がかかってしまうことが課題となっていた。今回、基本回路の並列動作を可能にすることや、回路のパラメータ制御を行うことによって、その時間を1日未満に短縮することを実現した。

組み合わせ最適化には数万回以上の繰り返し計算が必要であった

基本回路の並列動作や、回路のパラメータ制御によって、パラメータ探索を不要に。準備時間は大幅に短縮した

デジタルアニーラを用いることでなにができるか。例えば、構造特性の比較などから、求める特性の分子を探索することが可能だ。会場で行われたデモでは、「酢酸」に似た構造を持つ分子を探索すると、計算によっていくつかの候補が出される様子が見られた。ちなみに構造が近いものとして、「酢酸メチル」などが候補とされていた。ほかにも、インフルエンザの薬として知られる「リレンザ」(ザナミビル水和物)に似ている分子を探索すると、同じくインフルエンザの薬である「イナビル」(ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)が表示された。同技術は先に挙げた、同研究所がリードする先端技術トレンドの「マテリアルズ・インフォマティクス」の1つ。これにより、新素材開発や創薬への適用が期待される。

酢酸に構造特性の似ている分子を探索すると、酢酸メチルが候補として表示された

比較元分子を入力すると、認知材料のデータベースの中から、求める特性を持つ分子を探索することができる

さらにデジタルアニーラは、投資リスクを削減することも可能だという。担当者に聞くと、今後は証券会社などへの導入を考えられるとのこと。これを用いることにより、例えば、「リスクが高いが利益が大きい証券」など、リスクやリターンといった情報をデータ化し、視覚に訴えた提案ができるようになる。

500の銘柄の最適化を行い、資産を適切に分散するポートフォリオを構成する。金融危機の影響回避、資産の安定運用に適用などに期待できる

また、同研究所は、デジタルアニーラの応用分野をさらに開拓するため、トロント大学との戦略的パートナーシップを結び、新たな研究拠点を設立すると発表した。具体的に、医療分野でのがん治療、金融分野での信用リスクの計算によるリスク制御、交通分野での道路や交通量および気象状況を監視してリアルタイムに最適化するスマート交通などといった内容で研究を行うという。

なお、今回説明されたデジタルアニーラをはじめとする量子コンピューティング技術の動向と今後の可能性を幅広く理解できる場として、同社は2017年10月11日、カリフォルニアにてシンポジウムを開催する予定だという。

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