好き嫌いが多い。遊び食べをする。食が細い。よく噛まないで飲み込んでしまう……。乳幼児期の食の悩みは、お母さんにとって大きなストレスだ。「この時期の子どもの食事態度は大らかに構えてOK。まずは"食べる楽しさ"を知ってもらうことが味覚発達の第一歩です」というのは、乳幼児の食に詳しい管理栄養士で、大学講師も務める太田百合子先生。今回は、子どもの「味覚育て」のコツやポイントを教えてもらった。

子どもの味覚を育てるためのコツとは?

見た目や食事中の雰囲気も味のうち

せっかく手づくりした料理でも、ほとんど食べてくれなかったり、散らかし食いをする子どもにお母さんのイライラは募るばかり。「そうしたママの気持ちが伝わると、子どもは緊張し、食べること自体が苦痛になって食欲が減退してしまいます」と太田先生。さらに、調理の工夫だけではなく、盛り付けや食事中の雰囲気づくりも同じくらい大切だそうだ。

盛り付けは彩りの良さはもちろん、幼児期は野菜を型抜きしたり、ピックで刺したり、デコレーションで華やかにすると、子どもは好奇心をもって食べてくれる。また、パリパリ、ポリポリといった歯ざわりの良いもの、トロリとした舌ざわりの良いものなど、食感に変化をつけるのも効果的だという。

そもそも、食事とは文化的な行為。人間は栄養摂取だけが目的ではなく、食べることを通じていろいろなことを学んでいる。赤ちゃんでも見た目、香り、食感などの五感を刺激しながら、味覚と感性を磨いているのだ。栄養バランスがとれているからといって、カレーやおじやのような一皿完結の料理ばかりではNG。各器官が発達しにくいため、できれば主菜、副菜、汁物などバリエーションを付けるのが望ましい。

また、幼児期になると料理を手づかみで食べたり、食べ散らかすことも多いが、「これも自分で食べていくためには大事な行為です」と太田先生。子どもは手というセンサーを使って食べ物の硬さや温度を確かめており、目と手と口の感覚が連動すると、カトラリーをうまく使えるようになるという。時期がくれば自然とやめるようになるので安心してよいそうだ。

会話とお手伝いが食への関心を引き出す

さらに大切なのは食卓での"言葉かけ"だ。「これは今、旬のお野菜だからおいしいよ」、「これはおじいちゃんからもらったんだよ」。もしくは、子どもと一緒に買い物に行って「これはスーパーであなたが選んでくれたもの」といった話題を盛り込むと、食への興味を引き出すことができる。さらに、大人がおいしそうに食べている姿を見せたり、一緒に料理をすることは、好き嫌いをなくす助けになるという。

何が入っているかわからない料理に対して子どもは不安がり、躊躇するが、料理の内容がわかれば怖くなくなる。一緒に野菜を洗ったり、カボチャの種や絹さやのスジを取ったり、ハンバーグの生地を一緒にこねたり、できることから始めてみよう。

ピーマンなども「食べられないから小さくして混ぜちゃえ」というのでは、子どもが好き嫌いを克服したことにはならない。「いつまで経っても苦手意識が付きまとい、お母さんはいつも自分を騙している人、という疑心暗鬼をともなう親子関係になってしまいます」と太田先生は指摘する。

そして、何より必要なのは空腹感。「どんなにおいしそうな料理でも、空腹じゃなければ子どもは食べません。おやつの量や時間、生活のリズムを整えることが大切ですね」と太田先生はアドバイスしてくれた。

太田先生によると「乳幼児期は食べ方にムラがあって当然。好き嫌いも自己主張の表れで、成長の証」。栄養バランスや躾のことは3歳ごろまでいったん棚に上げておき、まずは"食べることは楽しいこと"だと子どもに感じさせることが大事だそうだ。

つまり味覚育ての第一歩とは、何を食べさせるかではなく、楽しみながら「食べ物に挑む力」をつけることなのだ。

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太田百合子先生 プロフィール

東洋大学、東京家政学院大学など非常勤講師・管理栄養士。「こどもの城」小児保健クリニックを経て、現在は大学などの非常勤講師、指導者や保護者向け講習会講師、NHK子育て番組出演や育児雑誌などの監修を務めている。主な役職は、日本小児保健協会栄養委員会、東京都小児保健協会理事、日本食育学会代議員など。監修した著書は「はじめての離乳食 前半5~8ヶ月ごろ」(学研プラス)、「初めての幼児食 最新版」(ベネッセコーポレーション)など多数。