「次の10年」のためのスマートフォン、iPhone X

そして発表会の最後、久々の「One more thing…」の後に発表されたのが、こちらも噂に上がっていた上級モデル「iPhone X」(Xはローマ数字の10で、読み方も「テン」)だ。これまでiPhoneのアイデンティティだったホームボタンを廃止して、全面フルスクリーンの5.8型OLED「Super Retina HD Display」を搭載。解像度は2436×1125ピクセル、ピクセル密度は458ppiとなる。これはiPhone史上最高の数値だ。

ホームボタンが廃止されたため、スリープ解除は画面タップ、ホーム画面への移動やアプリ切り替えは画面の下から上へのスワイプで代用する。アプリによっては誤作動がやや気にかかるところだ

指紋認証の「Touch ID」は廃止され、代わりにフロントカメラ部の「TrueDepth」カメラシステムを使った「Face ID」顔認証システムに置き換わった。Face IDは赤外線も併用し、顔を3万個以上の点を使って深度情報まで含めた3Dデータとして認識し、このデータを用いて顔を認証するシステム。深度情報を使うため、写真だと平面なので認識されない。また、双子などよく似ている顔でも微妙な違いを見分けてくれる。髪型が変わったり、帽子やメガネを着ける、髭を生やすなどしても、本人だと認識するという。顔認証システムはMicrosoftの「Windows Hello」も同様に3Dカメラを使って実現しているが、基本的な仕組みは同様だと考えていいだろう。

顔を3万以上の点で分解し、深度情報を持ったまま特徴を数値化することで認証している模様。特徴点だけを利用するため、顔の一部がメガネなどで変わっても認識率に影響しにくい

スマートフォンでは、眼球の虹彩を使った虹彩認証を採用する機種が富士通やサムスンから登場しているが、こちらは深度情報まで使わないため、印刷した顔写真を軽くいじるだけで突破できてしまうという欠点が指摘されている。その点、Face IDは写真だと認識しないので安心できる。また、寝ている間に寝顔で認証を突破したり、3Dで型取りしたお面を使ったりすれば……という懸念もあるようだが、Face IDは目が開いた状態でカメラか画面を見ている (視線が合っている)と認識されなければ作動しないので、勝手にロックを解かれる可能性も低い。指紋認証と同じく、顔のデータは暗号化されてシステムからもアクセスできない領域に保存されるため、セキュリティ面でも堅牢だ。

顔認証についてはA11 Bionicだけでなく、さらに顔認識などに特化した「A11 Bionic Neural Engine」チップを搭載することで高精度を実現しているという。誤認識率はTouch IDの5万分の1に対し、Face IDでは100万分の1と、圧倒的だ。Touch IDは濡れた手では認識されないという弱点もあったが、Face IDならシャワー上がりのままでも認証できるだろう (まだ試してはいないが……)。

TrueDepthシステムについては、顔とシンクロさせて絵文字の表情を変えられる「Animoji」など、ほかのアプリからも利用できるようだ。CGのアバターにリアルな表情を与えてチャットするといった応用が考えられる。いずれTrueDepthは他のiPhoneにも搭載されるだろうが、今から将来性が非常に楽しみな機能だ。

キャラクターの顔がユーザーの表情に合わせて動く、アニメーション絵文字=アニ文字。アニメやゲームのキャラクターをAnimoji対応させたら大ヒットするのではないだろうか

フロントカメラは深度情報を使って被写体だけを浮き上がらせる「ポートレートライティング」機能が利用可能。ちなみにiPhone 8 Plusのメインカメラも2カメラによる深度情報を利用できるため、同様のポートレートライティング機能が利用可能だ

その他の機能はバックカメラやQi規格の無線通信など、基本性能はiPhone 8に準じている。ただしバッテリー駆動時間はiPhone 7より2時間増えており、7と同程度の8も上回る形だ。フラッグシップにふさわしい性能だと言えるだろう。

iPhone Xがなぜ顔認証システムを採用してまでホームボタンを排除したかについては、Appleから説明があったわけではないが、筆者としてはやがてApple WatchなどにもTrueDepthシステムが搭載されるのではないかと考えている。Apple Watchに顔を見せるだけで認証できるなら、指紋を読み取らせるよりずっと手軽だ。同様に、将来メガネ型などさまざまなデバイスが登場したとき、デバイスに搭載するサイズや形状なども縛られることになるTouch IDより、顔認証のほうが将来性があると考えたのではないだろうか。

とはいえ、Apple Payなどで認証機能は広く使われるようになっており、実績のあるTouch IDではなくFace IDをいきなり使うのは不安だ、という人も多いだろう(同様のことはTouch ID導入時にも叫ばれたのだが)。従って最新テクノロジーに敏感で、自ら進んで「人柱」になりたがるアーリーアダプターが集中するであろう最上位モデルに搭載したことは理にかなっている。OLEDディスプレイの生産効率なども考えるとまた品薄モデルになることが予想されるが、操作性なども含めて今年最大の注目機種になることは間違いないだろう。

安心感を求めるユーザーには8シリーズを、未来を感じたいユーザーにはXを、と見事に棲み分けができている。考えてみれば、過去にiPhone 5cと5sを同時に発表したときも、Touch IDという新しい認証システムのデビューに重なっていた。今後もiPhoneが新しい認証システムなどを採用するときは、別系統の機種を販売して様子を見るのかもしれない。