【レポート】

小山市がシェアサイクル事業を運営する目的とは?

栃木県小山市は2017年4月より「らくーる」というシェアサイクル事業を開始した。地方創生の一環として同市南西部に位置する渡良瀬遊水地の観光の活性化を目的とし、同市内の小山駅・間々田駅のステーション(自転車の貸し出しや返却をする場所)に計20台の電動自転車を設置。駅から渡良瀬遊水地までのラストワンマイルを補完する交通手段として運用している。

渡良瀬遊水地までの交通手段がなかった

地方自治体にとって観光による活性化は重要な取り組みの一つである。小山市でも栃木、群馬、茨城、埼玉の4県にまたがり日本最大の遊水地である渡良瀬遊水地を観光地として活性化させることを検討していたが、その中で交通手段に問題にあったと小山市建設政策課の赤荻氏は語る。

小山市 建設水道部 建設政策課 赤荻雄介氏

「渡良瀬遊水地は小山市内の小山駅・間々田駅などJR宇都宮線の駅から距離があり、駅からの交通手段がありませんでした」

そこで同市はシェアサイクルが駅から渡良瀬遊水地までの交通手段として有効だと考え、シェアサイクルサービスを提供する企業からヒアリングを実施した。

「全国ほぼ全ての企業にヒアリングを行いました。その中から4社に絞り込み、各社のシェアサイクルサービスを実際に利用したりコストなどを比較した結果、OpenStreetの『HELLO CYCLING』を採用することに決めました。シェアサイクル事業を立ち上げるにあたり導入したい車種が決まっていたのですが、『HELLO CYCLING』は好きな車種を選べたということ、導入時のコスト・ランニングコストが安価で済むこと、またイベントなどで好きな場所に臨時のステーションを設置できシェアサイクル事業をPRできることも魅力的でした」(赤荻氏)

さらに観光における移動手段としてサービスを提供する以上、誰でも気軽に利用できなければならない。そのため利用方法の容易さも重要な検討項目だったという。

水鳥の生息地として世界的に重要な湿地帯となるラムサール条約湿地帯に登録されている渡良瀬遊水地。年間約100万人の観光客が訪れる。

交通系ICカードも利用可能

「らくーる」はクレジットカードとスマートフォンを持っている人なら誰でも利用でき、専用アプリから会員登録を行うとすぐに利用可能となる。利用時はアプリ上の地図に表示されるステーションから貸出可能な自転車を予約し、予約完了後にメールで通知される暗証番号を自転車のハンドル部分に取り付けられた操作パネルに入力することで後輪のスマートロックが自動で開錠され利用開始となる。返却時はスマートロックを施錠後、操作パネルで利用開始時と同じ暗証番号を入力し返却完了となり、利用時間に応じた料金が会員登録時に登録したクレジットカードで自動決済される。また、利用開始時にSuicaやPASMOなどの交通系ICカードを登録すると次回以降は操作パネルにそのICカードをかざすだけで利用可能となる(ただし交通系ICカードでの決済は不可)。

登録された交通系ICカードを操作パネルにかざすと予約不要ですぐに利用開始できる。

後輪に設置されたスマートロック。ハンドルに設置された操作パネルとBluetooth通信により開錠・施錠を行う。

また小山駅と間々田駅の他に、近隣の野木町と連携し野木町内の3カ所でも返却可能となっている。小山駅前で自転車を借りて野木駅前ステーションで返却し野木駅から電車で移動する、という利用も可能だ。

運用体制については「近隣の自転車店にコールセンター機能を委託し、パンクや故障時などに対応してもらっています。またステーションの掃除や設備のメンテナンスはシルバー人材センターに委託し、さらに小山駅のステーションでは駅前にある小山市観光協会のスタッフに、ステーションで操作を迷っている利用者へのサポートをしてもらっています」(赤荻氏)と適材適所で委託や協力体制を整えており、地域に根差した運営を行っている。

地方創生加速化交付金の活用

「らくーる」起ち上げには内閣府 地方創生推進事務局の地方創生加速化交付金が活用された。

「『シェアサイクルを活用した渡良瀬遊水地広域誘客推進事業』ということで約3,000万円の交付金を活用することができました。その交付金で施設の整備、車両の購入、ステーションから渡良瀬遊水地までの名所や名店を案内するマップの作成、渡良瀬遊水地でのイベント開催を行いました。私が所属する建設政策課がステーション設置や自転車購入などのハード面を、渡良瀬遊水地の観光地化を専門で担当する渡良瀬遊水地ラムサール推進課がマップ作成やイベント開催を担当しました」(赤荻氏)

運用開始となった平成29年度からはシェアサイクル運営事業費用を小山市の単独予算に新たに計上。委託費やシェアサイクルサービス利用料といったランニングコストはその予算を執行しているという。また「らくーる」の利用料は今のところ無料にし、まずは会員数を増やしてシェアサイクルの認知度を上げることに重点を置いている。

小山駅西口ロータリーにあるステーション。このステーションの脇に小山市観光協会がある。

「らくーる」の車種は3種類。自分に合った自転車を選べるようになっている。

新たな交通インフラとしての可能性

今年4月から運用を開始した「らくーる」は、1日10数台の利用がある。操作パネルに設置されたGPSで取得されるデータを管理画面のヒートマップで見てみると、小山駅・間々田駅から途中いろいろな場所に立ち寄りながら渡良瀬遊水地へ向かっていることが分かり同市の狙い通りの利用が進んでいることが確認できる。

「ヒートマップは主に観光客であると思われる利用者の行動を見える化できるので非常に役立っています。今後はヒートマップ上で滞在時間の長い地点をステーションの設置候補として検討したり、ルート上の店舗などに呼び掛けて新たな商機を生み出してもらい活性化に繋げられればと考えています」(赤荻氏)

管理画面で見られるヒートマップ。赤い箇所が自転車の滞在時間が長い地点、青いラインが移動ルートとなる

さらに赤荻氏はシェアサイクルサービスを交通インフラとして捉えている。

「シェアサイクルは、観光だけでなく日常での移動手段としても利用できます。また交通機関の発達していない地域では交通インフラとして整備してくことも可能だと思います」(赤荻氏)

今年5月に自転車活用促進法が施行され、BCP対策、環境保全、健康促進といった観点でも注目されるシェアサイクル事業。同市の「らくーる」は観光目的だけではなく、そういった意味でも今後効果を上げていくだろう。



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