いい意味での小物感を醸し出す

日ごろ村上のMCを見ていて気づかされるのは、ポジションの低さだ。常にMCのパートナーや出演者たちよりも「少し下」のポジションにいて、いい意味での小物感があるため、周囲を引き立てられる。

たとえば、「現在最も勢いのあるMC」と言われるマツコ・デラックス。その存在感や異人ぶりが最も発揮されているのは、村上とコンビを組む『月曜から夜ふかし』(日テレ系)ではないか。村上のポジションが低い分、マツコの強さが際立っているし、もっと言えば街頭インタビューの一般人をも引き立てている。

一方、明石家さんま、浜田雅功、内村光良、今田耕司、東野幸治、加藤浩次、太田光、上田晋也……彼ら40代以上の芸人MCは、話を掘り下げ、同じ笑いを繰り返すタイプのMC。そのため、爆笑を生み出す反面、MCが前に出すぎて「クドい」という印象を与えることも多い。話術に長けるがゆえの「オレがオレが」なのだが、村上は「ひと言でサラッと落とす」だけに留めるシンプルな進行が目立つ。

ちなみに、何かと比較されがちなジャニーズ事務所の先輩・中居正広は、40代以上の芸人MCとほぼ同じ進行スタイル。中居と村上のMCは似ているようで全然違うのだ。これは見方を変えれば、「MCスタイルの異なる村上は、明石家さんまや浜田雅功ら芸人MCのパートナーになりやすい」ということ。実際、ブラックマヨネーズとタッグを組んだ『村上マヨネーズのツッコませて頂きます』(カンテレ)で見せるMCは見事で、40代芸人の小杉竜一と吉田敬は終始、楽しそうな姿を見せている。

村上を悪く言うテレビマンはいない

今秋スタート『今夜、誕生!音楽チャンプ』(テレビ朝日系)でタッグを組む黒木瞳

フィナーレ直前の恒例企画「フジテレビ新人アナウンサー提供読み」でも、村上のツッコミがさく裂。「さあ、はじまるぞ」という瞬間、たけしが「(女子アナは)どうせ野球選手に抱かれ……」とボケはじめ、間髪入れず村上が「入らないの!」とツッコんだ。その呼吸は、まさにパーフェクトであり、番組冒頭からの進化は明白。わずか数日間の収録で、ここまで完璧に呼吸を合わせられる村上に驚いたテレビマンは多いだろう。

過去を振り返れば、村上は関西での活動が多かった時代から、共演者のスキルを着々と吸収していくタイプだった。各局のテレビマンや芸能記者に話を聞いても、村上のことを悪く言う人に会ったことがない。

それは視聴者も同じではないか。真面目さや謙虚さを感じさせる庶民感覚。庶民感覚があるゆえのいやらしさ。いやらしさを中和させるダサさ。これほど視聴者に心理的なハードルを感じさせない芸能人は珍しい。かつてはMCに威厳や格が求められていたが、村上は真逆のタイプなのだ。

『27時間テレビ』総合演出の竹内誠氏は「今回の放送が終わったら、各局で彼をメインにした企画を出すと思う」「村上信五の時代が来ますね」(連載「テレビ屋の声」より)と話していた。事実、今秋から『今夜、誕生!音楽チャンプ』(テレビ朝日系、毎週日曜21:58~)、グループとしても『ペコジャニ∞!』(TBS系、毎週月曜22:00~)がスタートするなど、35歳にしてこの経験値、このスキル。本当にけなすところがなく、死角は見当たらない。

のちに「2017年の『27時間テレビ』が村上信五のターニングポイントになった」と言われる日が来るだろう。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。