三叉神経痛の痛みは大人でも耐えられない

物を食べていたり、歯を磨いていたりするときにふと耐え難いほどの激しい痛みに襲われる――。このような状況下に陥ったとき、多くの人は虫歯を疑うのではないだろうか。ところが、実はその痛みの裏側には、虫歯とは全く関係ない神経の病気が潜んでいるのかもしれない。

今回は高島平中央総合病院脳神経外科部長の福島崇夫医師に、顔に激しい痛みが出る病気・三叉(さんさ)神経痛の原因などについてうかがった。

三叉神経痛の痛みを引き起こす動作とは

三叉神経痛とは、顔面の感覚を司る三叉神経に痛みが出る病気を指す。三叉とはこの神経が「眼神経」「上顎神経」「下顎神経」の3つに枝分かれしていることに由来しており、広く顔面を神経が走行しているため、三叉神経痛になると激しい顔の痛みにさいなまれることになる。9割ほどは一側性だが、まれに両側性の症例もある。

「三叉神経痛の痛みは『電撃痛』とも表現されています。耐え難い痛みが突発的に襲ってきて、短くて数十秒、長いと数分間もその痛みが続きます」と福島医師は話す。痛みは三叉神経領域に何らかの刺激が加わることで引き起こされる。そのトリガー(引き金)となる状況や動作は複数あり、一例を以下にまとめた。

■洗顔
■咀嚼
■歯磨き
■顔に冷風が当たる
■化粧
■冷水を飲む

咀嚼で痛みが引き起こされる場合は片側でしか物が食べられなくなり、両側性の症例だとまったく咀嚼ができなくなってしまう。洗顔や髭剃りがトリガーならば、顔は洗えず髭は伸び放題。場合によっては歯磨きもできなくなる。日常生活にかなりの支障が出ることは想像に難くない。

40~50代から発病が増える理由

福島医師は蛇行した血管が神経を圧迫し、痛みを誘発してしまうことが大半の三叉神経痛の原因だと解説する。このタイプの三叉神経痛は「特発性三叉神経痛」と呼ばれる。

「動脈硬化が進むと血管が変形してきます。そのため、三叉神経痛は40~50代くらいが好発年齢でそれ以降になると患者がだんだん増えてきます。20~30代は一般的に血管が軟らかいので、あまり発症しないですね」

実際のところ、血管が神経に接触・圧迫したからといってすぐに発病するわけではないという。詳細なメカニズムは明らかになっていないが、ある程度の期間にわたり血管の拍動によって神経が圧迫されると、神経自体も傷つけられることで異常な神経伝導が形成され、本来ならば何の痛みも感じないこと(歯磨きや咀嚼など)が不快な痛みになってしまうのではないかと考えられている。

その一方で、血管ではなく腫瘍や炎症、血管の奇形などが神経を圧迫する「症候性三叉神経痛」と呼ばれるタイプもある。特発性か症候性かを見極めることは、治療内容を決定するために必要となってくる。症候性の場合、原因となる病気の根本治療と並行して痛みを抑える対症療法が行われるのが一般的となる。

一日に何十回も痛みが出るケースも

「三叉神経痛は命を落とす病気ではないですが、QOLが著しく落ちます」と福島医師は話す。痛みの頻度が多い人になると、一日に数十回も痛みが発生。歯科受診し、不必要な抜歯などの治療を受けたり、あまりの痛みでご飯が食べられなくなり、体重が落ちてしまったりする人も中にはいるという。

顔付近で不定期にズキズキした痛みが出るため歯科医院へ行ったものの、何の異常も見つからなかった場合は、三叉神経痛を疑ってみる必要があることを覚えておいてほしい。

※写真と本文は関係ありません


記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。