9月1日は防災の日。いつ起きるかわからない地震や台風などの自然災害に対する準備をするために、各地で自治体や企業の防災訓練が実施された。

丸の内エリアに約30棟の建物を保有する三菱地所は、首都直下型地震の発生を想定し、「公衆の通信回線が使用不可能になった」という条件の下で、「LPWA(Low Power Wide Area)」の通信を活用した実証実験とともに防災訓練を実施。本稿では、その様子をレポートする。

自前で構築したLPWAを活用し、GPSと電波強度で社員の位置を把握する

LPWAとは、低い消費電力で数kmの距離を対象にできる無線通信技術のこと。通信速度は低速だが、モノに取り付けたセンサーから時々情報を送受信するようなIoT機器などであれば、問題なく利用できるという。国内では免許不要な920MHz帯域が主に用いられるため、通信事業者でなくても自前で通信網を構築することができる。ヨーロッパやアメリカ、アジアにおいてLoRaWAN、SigFoxなどの代表的な規格が台頭し、国内でもIoT時代を見据えた電波法改正などが進んできたこともあって、開発に力を入れる企業が増え始めている。

三菱地所は、NTTドコモとハタプロが共同で運営するジョイントベンチャー「39Meister」の協力の下、大手町ビルにLPWA回線の基地局を設置し、独立電源によって公衆通信網に依存しないネットワークを構築。ビル内および周辺のエリアにGPS端末を持った社員を配置して、それぞれの位置情報を把握する実験を行うことによってLPWA回線の有用性を検証した。

今回の実験ではLoRaWAN対応の親機4台、子機10台を準備。親機を大手町ビルの屋上に2台、3階に1台、6階に1台の計4台設置し、子機を持って同ビル内を含む丸の内エリアを動き回る社員10名の動向を解析用パソコンでモニタリングした。

実験の概要イメージ。親機と子機は4カ所に配置された

解析用の画面には1から10までナンバリングされた子機の位置がマップ上に表示され、それぞれがどの親機から電波を受信しているかまでわかる。また、大手町ビルの3階と6階に親機を設置することで、建物内にいる社員は電波の強度から高層階にいるのか、低層階にいるのかといった位置情報を把握することができるようになる。

モニタリング画面。ここで社員の場所や子機が接続されている親機の番号などがわかる

実際に画面を見ていると、1分前後で地図上に表示されている番号の位置が少しずつ動いており、1kmほど離れた場所でも社員の動きを見て取ることができた。また、低層/高層階にいる社員の情報もしっかりと捕捉していた。今回は3階と6階に1つずつ親機を設置したため、ざっくりとした位置情報を把握するだけだが、各階に親機を設置すればより詳細な滞在階や建物内の滞在場所がわかるようになるという。

コンパクトなサイズと消費電力の低さが防災にも向いている

今回実験で使用されたLPWAの親機は、設置面積が30cm四方程度で高さ15cm程度のボックスに入るサイズ。バッテリーで駆動するため停電が起きた場合でも利用可能で、消費電力が非常に低いため1回の充電で数年間使うこともできるという。子機のサイズは一般的なスマートフォンと同じか少し小さい程度。こちらは乾電池で動くタイプだ。

屋上に設置された親機

社員の位置情報を把握する子機

親機も子機も非常にコンパクトなので、通常は倉庫などに保管しておき、有事の際に取り出すという使い方が想定される。親機の起動方法はバッテリーをつなげるだけ。子機も乾電池を入れて電源を入れればそれで準備が完了する。

親機のアンテナ。一般の社員でも容易につけられるように簡素な作り

実験の結果を踏まえて39Meister 共同代表の菊地大輔氏は「予想以上にも電波が飛ぶことがわかりました。車の移動にも対応できることがわかったので、その点はいい結果を得ることができたと思います。ただし、ビルの小道に入るとそもそもGPSを受信できなかったり、高層ビルに囲まれているエリアは電波強度が弱かったりしていますね」と振り返る。

39Meister 共同代表の菊地大輔氏

三菱地所 街ブランド推進部 統括の奥山博之氏は「今後、LPWAを活用して、ビルの外壁にセンサーを付けることで、地震が起きた時に損傷の有無を判定するといった使い方も考えられますし、トイレやレストラン、駐車場の満空表示など街の機能向上に役立てることができる可能性が高いと考えています」とLPWAの発展性に触れた。

三菱地所 街ブランド推進部 統括の奥山博之氏

大災害に見舞われた場合は、電話やインターネットがつながらないといった事態が起こり得る。地震や豪雨といった自然災害だけでなく、テロやミサイル発射といった脅威も無視できない現代において、有事の際にも冷静に対処するための準備は抜かりなく行っておきたいものだ。また、この先ますますテクノロジーが進化することで、LPWAを使って建物の損傷状況を知るなど、従来わからなかった危険を察知できるようになれば、災害時の被害をより少なく抑えることができるようになるかもしれない。