ドイツ・ベルリンで開催中のエレクトロニクスショー「IFA2017」に合わせて、ソニーは数多くの新製品を発表した。これからソニーが欧州市場での競争をどのように勝ち抜いていくのか。ソニー・ヨーロッパ社長の粂川滋氏が記者からの質問に答えた。

ソニー・ヨーロッパ社長 粂川滋氏

やって当たり前の "基本動作" を40カ国で徹底

ソニー・ヨーロッパは現在イギリスに本拠を構え、欧州40カ国を10のテリトリーに分けてマネージメントしている。総勢約2,500名の従業員でのぞむコンシューマー向けのAV機器、デバイスを含む半導体、プロフェッショナル系ソリューションが欧州ビジネスの柱であると粂川氏は説く。現在はソニーグループ全体の売上の約1/4をソニー・ヨーロッパが担っている。

同社のビジネスは2012年頃までは赤字が続いていたが、2012年7月にソニーマーケティングの現・会長である玉川勝氏が欧州法人の社長に就任後、順調に売上を伸ばしてきた。「2017年も対前年比で増収・増益が見込めるだろう」と粂川氏はポジティブな見通しを示している。

今年も賑わうIFAのソニーブース

不調が続いていたソニー・ヨーロッパは何をきっかけに好転したのか。粂川氏は、前社長の玉川氏が築いてきたコーポレートカルチャーが同社全体に浸透したことが大きいと語っている。

「販売会社として、当たり前にやるべき "基本動作" ができていなかった。そこを徹底することで、前任の玉川が骨太な企業体制を築き、私が引き継いでさらに深掘り、改善する活動を続けている」(粂川氏)

粂川氏が取り組むのは、販売会社として売上データの管理・分析を徹底して、顧客との接点を「ラスト・ワンインチ」の距離感で丁寧に改善していくことだ。粂川氏は「徹底した現場主義」をモットーに掲げているが、それはリアルの店舗だけでなく、いま特に売上の重要な比率を占めているオンラインの売り場強化をきっちりとやりきることも意味している。多様性の豊かな欧州では、流通と連携しながらオンラインの売り場を強化していくことが売上に直結しているのだという。

プレミアムシフト戦略で金額ベースの首位を獲る

ソニー・ヨーロッパでは有機ELテレビや、プレミアムコンパクトカメラ「RXシリーズ」、ミラーレス一眼カメラ「αシリーズ」の高級ラインや、ポータブルオーディオではBluetoothとノイズキャンセリング機能を一体にした上級機の販売が好調に推移しているという。このような「プレミアムセグメント」の製品に軸足をシフトさせながら、金額ベースでのシェアを欧州の各市場で高めてきたことも骨太の企業経営を支えている要因だ。

欧州でも安売り競争が顕在化している薄型テレビについては、オフラインとオンラインの店舗での価値訴求を丁寧に行ってきたことで、プレミアムクラスのBRAVIAは競合他社より25%も高いプライスタグを付けながら売上を伸ばし続けている。粂川氏は「50インチ/1,400ユーロ以上、60インチ/2,000ユーロ以上のセグメントがよく売れていることがテレビ事業の黒字化に効いている」と見解を語った。

4K対応の有機ELテレビ「BRAVIA A1」は欧州にも77インチモデルを投入する

オーディオ事業については、欧州では特にストリーミング再生のユーザーが多数派であり、スマホとの連携が大事であると粂川氏は言う。「ヘッドホン・イヤホンは、ソニー独自の高精度なデジタルノイズキャンセリング機能とBluetoothによるワイヤレス再生の両方に対応する250ユーロ以上の高価格帯製品が堅調だ。いい音を、いいヘッドホンで楽しむという価値訴求が確実に浸透している手応えがある。ブレイクのきっかけは昨年のIFAで発表した『MDR-1000X』だが、今年は『1000X シリーズ』として拡大する」と展望を述べた。

粂川氏は今後も欧州の販売最前線で、ソニー商品の置かれ方・見せ方をしっかりと管理しながら魅力を正しくアピールしていくことが大切だと強調する。そのために実機に触れながら体験できる展示、あるいは店頭説明員の教育から、効果的なデモソースの選択まで、売り場の "作り込み" を丁寧に行っていくことが肝要であるとする。

ワイヤレスヘッドホン・イヤホンの「1000X シリーズ」は機内の騒音環境を模した体験展示コーナーを設置

今年のIFAでは、「スマートスピーカー」が注目を集めている。ソニーもGoogleアシスタントを搭載する新製品「LF-S50G」を発表した。イギリス、ドイツ、フランスから販売を開始する予定だ。スマートスピーカーはソニーが直接取り扱っていない白物家電や、ほかにも様々なサービスと連携できることを正しくエンドユーザーに訴求していかねばならない。いわば、見せ方の難しい商材だ。粂川氏は「正直に言って、これから手を付けていく課題領域だが、流通と密接に連携しながら丁寧に売り場を作っていくことで、成長アイテムのひとつに育てていきたい」と抱負を語った。

Google アシスタントを搭載するソニー初のスマートワイヤレススピーカー「LF-S50G」

また、デジタル一眼カメラに代表されるような「循環型ビジネス」の土台を固めることも、粂川氏は重要視している。カメラ、デジタルイメージング商品は、特にドイツをはじめとするヨーロッパの先進国で人気の高いアイテムだ。販売経路については、プロフェッショナルやハイアマチュア顧客を多く握っているカメラ専門店と連携することが非常に大切であるという。その独自の現場で「ソニーファン」を獲得してきたからこそ、現在のプレミアムセグメントにおける成功を勝ち取ることができたと粂川氏は分析する。

特に35mmフルサイズセンサー搭載カメラのセグメントでは、「シェア2位で安定してきた。直近では、ドイツ、スペイン、スイス、オーストリアの4カ国で1位を獲るまで成長した」という。

プロフェッショナル、ハイアマチュア向けのフラッグシップカメラ「α9」。α7シリーズとともにフルサイズ市場で存在感を高めている

その実績を踏まえながら、「α9」の発売によってさらに拡大しつつあるプロフェッショナルユーザーへのサポートや、欧州でのフォトカルチャーに貢献するアワードイベントの開催などにもソニーとして力を注いでいくことを宣言した。

1インチセンサーを搭載した高級コンパクトカメラ「RX」シリーズの新モデル「RX0」も発表