【レポート】

インドの主力ロケット「PSLV」が打ち上げに失敗 - 日本の宇宙開発にも影響か

1 フェアリング分離せず - 高い信頼性を誇るロケットに一体何が起きたのか

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インド宇宙研究機関(ISRO)は2017年8月31日、航法衛星「IRNSS-1H」を搭載した「PSLV」ロケットの打ち上げに失敗した。

PSLVは1993年の初打ち上げ以来、今回までに40機が打ち上げられ、そのうち38機が成功。また5号機以降は、36機が連続で成功し続けていた。この高い信頼性と実績を武器に、インドの宇宙開発を支える主力ロケットとして通信衛星や地球観測衛星の打ち上げで活躍。さらに日本を含む、世界各国の人工衛星の商業打ち上げにも使われるなど、その信頼性は世界からも高い評価を得ていた。

はたしてインドの誇るワークホースにいったい何ががおきたのか。そして日本など他国へはどのような影響があるのだろうか。

航法衛星「IRNSS-1H」を搭載したPSLVロケットの打ち上げ。このあと失敗に終わった (C) ISRO

打ち上げを待つPSLVロケットの打ち上げ(写真は前号機のもの) (C) ISRO

フェアリングの分離に失敗

IRNSS-1Hを積んだPSLVロケットは、日本時間8月31日22時30分(インド標準時同日19時ちょうど)、インド南部のシュリーハリコータにあるサティシュ・ダワン宇宙センターの第2発射台から離昇した。

ロケットはブースターや第1段を分離するなどして順調に飛行を続けていたが、離昇から約3分23秒後に行われるはずだった衛星フェアリング(ISROではヒート・シールド(heat shield)と呼ぶ)の分離に失敗。その後もロケットは飛行を続けたが、余計な重りを抱えたまま飛行することになったために、速度や高度を十分に稼ぐことができなかった。

最終的に、ロケットは地球周回軌道には到達したものの、計画よりはるかに低く、さらに衛星はフェアリングに閉じ込められたままだったため、分離することができなかった。その後、ISROはWebサイトやメディアなどを通じ、「打ち上げは失敗した」と発表した。

なお、ロケットから送られてきた映像によって、IRNSS-1Hの分離そのものは行われ、閉じたフェアリングの内部で漂っていたことが明らかになっている。おそらくタイマーなどで自動的に分離が行われたか、あるいは衝撃でフェアリングが開くことを期待し、運用チームが分離の中止コマンドを打たなかったものと考えられる。

ロケットの高度と速度を示すグラフ。徐々に計画値から落ちていることがわかる (C) ISRO

ロケットの搭載カメラの映像。衛星が閉じたフェアリングの中で漂っている (C) ISRO

米軍は、この打ち上げによって生じたと考えられる、3つの物体を探知し、追跡を行っている。すべて高度約163km×6600kmの軌道に乗っており、これは計画値の高度284km×2万0659kmに比べてはるかに低い。

この3つのうち1つは、フェアリングとIRNSS-1Hを抱えたままのロケットの第4段機体と考えられるが、その他2つが何なのかなど、詳しいことはわかっていない。なお計算では、この3つの物体はすべて、この1年ほどのうちに大気圏に再突入するものと考えられる。ロケットも衛星も比較的小型なため、大部分は再突入時の熱で燃え尽きるはずだが、フェアリングに覆われていることもあり、一部の部品が地表まで到達する可能性は否定できない。

ISROでは調査チームを編成し、事故の原因究明と対策にあたるとしている。

一般的にフェアリングが分離できなかったということは、フェアリングを固定しているボルトを切断するための火工品(火薬が仕込まれた部品)が機能しなかったということになる。したがって、たとえば火工品そのものの製造不良や取り扱い不良、もしくは火工品に点火するための電気や、点火の指示を伝える信号のケーブルに問題があったことなどが考えられる。

ちなみにフェアリングの分離失敗というのは、PSLVでは初めてであり、他国のロケットを含めて比較的珍しいトラブルではあるものの、過去に何度か起こってはいる。

IRNSS-1Hとロケットの上段部分。この衛星の周囲に、フェアリングが装着される (C) ISRO

PSLVのフェアリング。左の写真にある衛星を覆うように、この部品が取り付けられて、宇宙空間で開く (C) ISRO

インドの主力ロケット、34機連続打ち上げ成功後の失敗

PSLVは、ISROが開発した中型ロケットである。PSLVはPolar Satellite Launch Vehicleの頭文字から来ており、直訳で「極軌道衛星打ち上げロケット」という意味をもつ。その名前のとおり、地球を南北に回る極軌道へ、地球観測衛星などを打ち上げることを目的に開発された。

もっとも、実際には極軌道以外への衛星打ち上げも可能で、極軌道以外の低軌道衛星はもちろん、静止衛星や月・火星探査機を打ち上げたこともある。打ち上げ能力は地球低軌道に3800kg、極軌道へは1750kg、通常よりやや低い静止トランスファー軌道(サブGTO)へは1425kgで、またブースターの装着数を変えることで、打ち上げる衛星に応じて柔軟に能力を変えることもできる。

ISROはまた、PSLVとエンジンなどの一部を共有する「GSLV」(Geosynchronous Satellite Launch Vehicle)というロケットも運用しており、打ち上げる衛星の規模や目的によって使い分けている。さらに、まったく新しい大型の「GSLV Mk-III」ロケットも開発中で、すでに2回の試験飛行に成功している。

PSLVの開発は1980年代に始まった。当時インドは、地球観測衛星などの実用衛星が打ち上げられる規模のロケットを求めていたが、低軌道に100kg級ほどの打ち上げ能力をもつ小型の固体ロケットしかもっていなかった。そこでフランスからロケットエンジン、ドイツからは電子機器や試験設備の提供を受けるなど、他国から技術協力を得つつ、PSLVの開発がスタートした。

1993年には1号機が打ち上げられ、新開発のブースターや第1段は正常に動いたものの、第2段の燃焼中にソフトウェアのエラーにより飛行コースを外れ、打ち上げそのものは失敗に終わった。しかし1994年の2号機、96年の3号機の打ち上げは成功し、新開発の、それもインドにとっては初の実用的なロケットとしては、まずまずの滑り出しとなった。

1997年に打ち上げられた4号機では、第4段にトラブルが起き、衛星を予定より低い軌道に投入してしまう事故が起きた。衛星はその後、自身のスラスターを使って、当初計画されていた軌道に乗っている。ISROでは、衛星が最終的に軌道には乗ったことから打ち上げ成功と数えているが、一般的には失敗、あるいは部分的成功や部分的失敗などと数えられる。

ISROはこの4回の打ち上げをもって、PSLVを試験段階から運用段階へ移行させることを決定。そして1999年に、運用1号機にあたる5号機の打ち上げが行われ、無事に成功を収めた。以来、順調に打ち上げ成功を続け、当初の目的であった地球観測衛星をはじめ、小型の通信衛星や、月・火星探査機の打ち上げにも使われるなど、インドの宇宙開発を支える主力ロケットとして活躍。そして2017年6月の40号機の打ち上げまで、34機が連続で成功し続けるという記録も達成した。

年平均にすると2~3機ほどと、他のロケットよりも打ち上げ頻度が低いこと(つまりそれだけ失敗する回数、確率も低くなること)は考慮する必要はあるもの、世界でも有数の信頼性と実績をもつロケットに数えられている。

それだけに、今回の打ち上げ失敗は、とくにインド国内で大きな衝撃をもって受け止められており、インドの各メディアは軒並み大々的に報じている。

打ち上げを待つPSLVロケットの打ち上げ(写真は前号機のもの) (C) ISRO

PSLVロケットの打ち上げ(写真は前号機のもの) (C) ISRO

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目次
(1) フェアリング分離せず - 高い信頼性を誇るロケットに一体何が起きたのか
(2) 小型衛星の商業打ち上げにも影響か - 日本が参戦する月探査レースにも暗雲
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