パナソニックがIFA2017の開催に合わせて、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (以下、ベルリン・フィル) と協業開発した4K/HDR対応映像配信サービスの発表会を日本の記者に向けて開催した。

パナソニックは昨年のIFA2016でベルリン・フィルと一緒に、ホーム・車載エンターテインメントの分野で高品位なコンサート体験を再現するための技術開発で協業していくことを発表した。今回の記者発表会にはパナソニック 執行役員の小川理子氏が出席し、あらためてパナソニックとベルリン・フィルによる技術開発協業が4K/HDRでの高画質な映像配信というひとつの形に結実したことを明らかにした。

ベルリン・フィルハーモニーで「デジタル・コンサートホール」の4K/HDR配信に関する記者会見が開催された

ベルリン・フィルのコンサート映像を収録した「デジタル・コンサートホール (DCH)」は2008年に始まったサービスだ。4K/HDRでの映像収録はベルリン・フィルの2017/2018年コンサートシーズンの幕が開けた8月25日のコンサートを皮切りに、9月から本格的に始動する。その後10月から4K/HDRコンテンツのアーカイブ映像をオンデマンド配信する。

今後はパナソニックとベルリン・フィルのパートナーシップ契約が有効な4年間に渡り、毎年40~50本のコンサートが収録され、累計150~200本前後の4K/HDRアーカイブが揃うという。なおHDRの技術方式はHLG (Hybrid Log Gamma) が採用された。

コンテンツの視聴はインターネット接続の機能を備える「ビエラ」シリーズのスマートテレビ、並びに「ディーガ」のBDレコーダー・プレーヤーで可能になる。4K/HDR配信のスタートから120日間はパナソニック製品のみで視聴できる独占契約となり、以後は各社のスマートテレビなどでも視聴可能となる。フルHDやSDR画質の映像配信も従来通り提供される。

記者発表会にはベルリン・フィルからManaging DirectorのRobert Zimmermann氏が出席した。今回のサービスが実現した背景について、Zimmermann氏は「ベルリン・フィルは100年以上前にさかのぼる設立時からテクノロジーに高い興味を持ち続けてきたオーケストラ。演奏を高いクオリティの音と映像で収録した資産を残すことに努めてきた。かねてからテクノロジーに関心はあったが、そのものを持たないという課題を抱えながら、ついにパナソニックという最良のパートナーを得て、共同でプロジェクトを進められることをとても心強く感じている」とコメントした。

壇上でスピーチするパナソニックの小川理子氏

ベルリン・フィルのRobert Zimmermann氏

ベルリン・フィルでは今回の4K/HDR配信を実現するため、パナソニックから機材協力を受けてコンサートホールに従来から構えていた映像システムを完全改修。「世界で唯一、4K/HDRでストリーミングができるオーケストラ」であるとZimmerman氏が胸を張る。その設備が発表会に集まった記者へ特別に公開された。

コンサートホールにはすべて無人でリモート操作できる計9台の4K/HDR対応の放送用ビデオカメラを配備。4K/HDRと2K/SDRの映像を同時出力できるシステムもパナソニックが提供して、それぞれのコンテンツを効率よく制作できる環境を整えた。

コンサートホールに4K/HDR対応のカメラを9台配置。音声収録用のマイクも演奏に合わせて数や位置を調整できるように設備をレイアウトしている

パナソニックの放送用4K/HDRカメラ。演奏者とオーディエンスに配慮して、すべての操作は無人化されている

ビデオスタジオにはフルHD版コンテンツのライブ配信に対応する設備と、4K/HDRコンテンツの編集用設備を合わせて構える。映像コンテンツには5.1chのマルチチャンネル音声、または2chのステレオ音声をつなぎ合わせて配信を行う。スタジオにはさらに4K/HDRの映像は家庭で視聴するユーザー宅の環境に近い状態で画質がチェックできるように、65インチの4K有機ELビエラ・EZ1000シリーズもリファレンスモニターとして用意した。

映像制作のスタジオにはパナソニックのモニターを7台配置。最新の有機ELテレビも備える

Zimmermann氏は、DCHのコンテンツが4K/HDR化したことの効果は、より自然な色彩感や金管楽器の輝き感、暗部の階調感に現れると説明している。オーケストラの全景を捉えた映像については、フルHD画質で目立っていたノイズが取れて全体の明瞭度が高まるため、コンサートホールの空気感も再現できるのではと期待を寄せる。

ベルリン・フィルではひとつの演目を1日に複数回公演しているが、そのうち1回の演奏を4K/HDRで収録していく計画を立てている。「オーケストラが演奏する年間すべての演目を4K/HDRコンテンツ化していく」とZimmermann氏は意気込む。さらに来年の2018/2019年コンサートシーズンから4K/HDRのライブ配信を実現することも視野に入れて、協業を加速させていくこともこの日に発表されたトピックだ。

Zimmermann氏はパナソニックとの協業をさらに深めていくため、ベルリン・フィルからパナソニックに貢献できることも模索してきたと語る。具体的にはパナソニック製品のオーディオ技術の開発に欠かせない「音づくり」の過程で、ベルリン・フィルのアーティストによる知見を反映させるプロジェクトが動き始めている。記者発表会では両者のパートナーシップによって開発された第1弾の商品として、テクニクスのブランドから発売される一体型オーディオシステム「SC-C70」が紹介された。ヨーロッパでは9月に900ユーロ前後で発売が予定されているが、日本を含めたグローバル展開も期待できる新製品だ。

SC-C70はベルリン・フィルのDCHをタブレットを中心に視聴するユーザーのために、よりいい音が楽しめるようAirPlay機能を内蔵した点にも注目したい。スマートテレビには光デジタル接続でつなぐことができる。

ベルリン・フィルのスタッフが音づくりにも関わった、テクニクスの一体型オーディオシステム「SC-C70」

iPadでDCHのコンテンツを再生しながら、音声はSC-C70にAirPlayで転送。迫力あるサウンドが楽しめる

本機の開発に携わったパナソニック アプライアンス社 技術本部の池田純一氏は、同社のオーディオエンジニア12名とともに今年の5月・6月にベルリン・フィルを訪れ、音楽の作り手であるアーティストの感性を学ぶための研修プログラムに参加したという。

池田氏は「とかくエンジニアは音質というものをスペックや解析データなど目に見える形で評価しがちだが、ベルリン・フィルの演奏者とコミュニケーションを持てたことで、生きた音楽は作曲者が総譜に込めた思いと、それを再現しようとするアーティストの強い情熱を理解することで初めて再現できるものであるとわかった」と語る。

また、オーケストラが演奏する独特の休符や、ホールの静寂感など「時間軸(=間合い)」を捉えることで蘇るリアリティもあるという。ベルリン・フィルとの協業から得た知見を最新モデルのSC-C70に活かすことができた、と池田氏はその成果を満足気に振り返った。これから積み重ねていくノウハウは、今後のテクニクス、パナソニックブランドのオーディオ製品に活きてくることだろう。

ベルリン・フィルとの音づくりの面での協業は、先日日本国内でも発売がアナウンスされた4K液晶ビエラの新製品「EX850シリーズ」にも及んでいる。ヨーロッパでは発売未定の製品だが、この日の記者発表会では60インチの「TH-60EX850」によるDCHのデモンストレーションも紹介され、迫力あるコンサートの臨場感をテレビ単体で再現してみせた。本シリーズに搭載される「ミュージックモード」は、音づくりにベルリン・フィルが参加した新機能になる。

音のチューニングにベルリン・フィルの演奏者による声を反映させた4K液晶ビエラ「EX850シリーズ」

パナソニックの小川氏は、今回のベルリン・フィルとの技術開発協業は住空間だけでなく、車載エンターテインメントの分野にも広く展開していくことをあらためて強調しながら、「これから様々な音楽の楽しみ方を生活に溶け込ませていくことに全力を傾けていきたい。ベルリン・フィルとパナソニックは、これまでに伝統と精神性を重んじながら様々なことに挑戦してきた点で多くのことを共有している。今回の成果ははじめの一歩。これから先に広がる色々な取り組みをぜひ楽しみにして欲しい」と呼びかけた。