今やビジネスシーンで聞かない日がないと言うほどメジャーになった感がある「IoT」だが、その多くは、カメラやセンサがデータを収集して、それをビッグデータで解析するといったようなものか、スマート家電のような家電の進化系といったイメージが強い。そんな中、カーテンというアナログの存在を、IoTを活用してデジタルな存在へと変化させることに挑むベンチャー企業がシリコンバレーに存在する。

その企業の名を「Kinestral Technologies」という。2010年にシリコンバレーで設立されたベンチャーだが、2017年初頭にAGC旭硝子が同社に出資を決定。総額6500万ドルの新規発行株式の一部を引き受け、取締役1名を派遣するなど、新たなガラスビジネスに向けて注目を集めつつある。

そんなKinestralのビジネスは、何かというと、スマート調光ガラスの開発・製造・販売である。調光ガラス自体はすでに複数社から提供されているので、存在自体はそれほど珍しいものではない。しかし、同社のスマート調光ガラス「Halio(ヘイリオ)」が既存の調光ガラスと異なるのは、独自のイオン導体の導入により調光ガラスにありがちな黄色がかった色味をより透明に近づけ、透過率70%という通常のガラスに近い性能を実現したという点と、その調光にかかる変化の速さ。既存の調光ガラスの多くは、ガラスの外側から徐々に色を変化させていき、場合によっては20分ほどかけて暗くするといった動きを見せるが、Halioでは、数秒で変化を開始、約3分で最も暗いダークグレーの状態まで変化させることが可能だ。

また、ほかのガラスとの組み合わせも可能であり、防弾ガラスや防音ガラスに調光機能を付与するといったことも可能だと言う。

さらに、同社では、Halioを調光ガラスと呼んではおらず、KINESTRALクラウドと調光ガラスがセットになったシステムという位置づけとされているとのことで、クラウド経由のインテリジェンス性を活用することで、スマートフォンでの操作のほか、たとえば太陽が12時になると、当該のガラス面に当たるといったことを覚えさせておき、自動的に暗くするといったことも可能となるほか、ガラスの表面温度がどれくらいになったら、どの程度の濃さのグレーにするといったことも設定が可能だ。

Halio(写真の右のガラス)のほか、99%のUVカットとグレーよりもよりブラックへと変化を可能としたHalio Black(写真の左)も存在。いずれも20秒程度で変化を開始、3分もかからずに反対側が見えなくなるまで暗くなる

ちなみに、ドライバ側である程度、そういった情報を記憶しているため、停電などがあっても、設定情報が消えるといったことがないほか、色を変化させるとき以外は電力を消費しないため、電気代を気にする必要もそれほどないという。

そんなHalioだが、現在はカリフォルニア州ヘイワードのパイロットラインにて製造を行っているが、台湾のFoxconn子会社「GTOC(G-Tech Optoelectronics Corporation)」の既存用地に最大1.5m×3m対応の量産ラインの建設を進めているとのことで(建設費は旭硝子とGTOCが共同出資)、2017年第4四半期からの生産開始を予定。最終的には、年間400万ft2まで生産能力を引き上げることを計画しているとする。

現在のビジネスとしては、商用ビルなどからの引き合いが多いとのことだが、日本では住宅への販売にも注力したいとする。また、価格についても、現状はガラスと電動式シャッターを合わせた程度であるものの、量産が始まれば、価格を引き下げられるとしており、5年後にはカーテンとブラインドをあわせたレベルに到達できれば、としている。

なお、国内での販売については、現在、Kinestralが直接担当しているが、2017年の秋以降は旭硝子からも提供が開始される見通しであり、それを機に売り上げの拡大を目指したいとする。同社の担当者によれば、日本の場合、一般家屋の寝室で、アラームと連動させることで、Halioを起床時間にグレーからクリアにし朝日を入れる、といったことなどにも使ってもらえれば、としており、そうした未来型住宅の実現に向けた提案などもしていきたいとする。数千年前の昔から布や皮を用いて実現されてきたカーテンが、近い将来、不要になるかもしれない。「一日の変化に対し、静的で動かなかったガラスを流動的なものへ変え、人間にとって、もう少し快適な存在にしたい。調光も暗くすることが目的ではなく、光を楽しくための手法を提供したい」という想いからスタートした同社の挑戦は、まだ始まったばかりと言える。IoTの進歩は今後も続いていくことを考えれば、少し先の未来には、今よりも凄い機能を持った調光ガラスが生まれるかもしれない。