働き方改革が声高に叫ばれている昨今、多くの企業は長時間労働の抑制や生産性の向上に向けて、ITの恩恵を授かっているのは言うまでもない。しかし、働く人自身が業務スタイルを考えたときに集中できない場合や、生産性を落とすことも事実であり、業務から離れて自己の内面や外的なものに関して、洞察する時間を割けていないのが現状だ。今回、キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)のグループ会社で、人材育成を手がけるエディフィストラーニングが行っている「マインドフルネス入門 体験説明会」を取材したので、その模様をお届けする。

マインドフルネスで心と思考を整える

そもそもマインドフルネスとは何か。マインドフルネスは「サティ」というパーリ語(南伝上座部仏教の経典で使用される言語)で、「念」や「気づき」を意味する。2500年前にインドで発祥し、2000年前に中国、1000年前に日本、50年前に欧米にそれぞれ渡来した。1970年代後半に入り、医学的根拠をベースに活用され始め、人間の身体特性から生まれた心と思考を整えるための技術だ。一見して聞くと、幾ばくか宗教色を感じることも否めない。しかし、なんら宗教色がなく、科学的根拠に基づいており、Google、Intel、IBMなど米大手IT企業も取り入れているという。

マインドフルネスの変遷

「人間のストレスには浮き沈みがあり、危機が到来すると心拍数が高くなり、血管が収縮し、危機から逃れようとするため血液を多く送り出し、ストレスがなくなると穏やかになる。しかし、現代社会ではストレスを抱え、なくなりかけたときに別のストレスを抱えるという循環を繰り返している。アメリカの心理学会はストレス対策として、ストレスから遠ざかる、笑う、支援者(カウンセラー)に助けを求める、運動、マインドフルネスの5つを挙げている」と、説明するのはエディフィストラーニング ラーニングソリューション部 上級コンサルタントの清澤正氏だ。

エディフィストラーニング ラーニングソリューション部 上級コンサルタントの清澤正氏

体験説明会では、イスに座った状態でヨガを取り入れた準備運動からスタート。まずは眠気を覚ます呼吸法「クンバカ」からだ。これはリラックスして背筋を伸ばし、目を閉じ、鼻から空気をゆっくり吐き、腹部がへこむほど吐き終わったら、十数秒間呼吸を止め、口からゆっくり空気を吸う。これを複数回行う。

続いて、疲れた頭をスッキリさせるヨガのポーズ。最初に指先を合わせて背筋を伸ばす感覚で顔と腕を天井をめがけて上げ、次に指を組んで頭の後ろに置き手の重さで頭を下に持っていき、指はそのままの状態で顔と腕を上げる。これを5セット行う。

指先を合わせて顔と腕を上げる

指を組んで頭の後ろに置き手の重さで頭を下に

指を組んだまま顔と腕を上げる

最後に血行を良くするヨガで、まずは顔の前で両肘をつけ上に引っ張り上げるような状態とし、そのままの状態で下に降ろし、次は指を腕を組み頭の後ろに持っていき、最後に両腕を後ろにして肘をつける。ヨガのポーズは、いずれも呼吸に気を付けながらやると効果的とのことだ。

顔の前で両肘を上下に

指を組み腕を頭の後ろに持っていく

両腕を後ろにして肘をつける

「今ここ筋」を鍛えるとは

準備運動後に、マインドフルネスのトレーニングに移行。マインドフルネスはマインドレスな状態からマインドフルの状態に変えるための、心のトレーニングと位置づけている。清澤氏は「『今ここ筋』を鍛えるべきだ」と強調する。

マインドレスの状態は無意識、注意散漫、うわの空、思考がグルグルと回っている状態であり、他人の批判や未来への不安、自己嫌悪、過去を悔やむなど「今ここ」にいない状態。一方、マインドフルの状態は「今ここ」を受け入れている状態だ。周囲に振り回される自分から、価値実現に向けて行動する自分への変革を図るものとなる。

ゴール到達のためのステップ

今ここ筋を鍛えることにより、明晰な思考や集中力、意思決定力、状況判断力、創造性、自律心、粘り強さ、柔軟性、冷静沈着さなどの仕事能力のほか、ストレスからの解放、リラックス、穏やかさ、自信といった仕事以外のこと、そして深い睡眠、免疫力をはじめとした身体的な効果が得られるという。

なぜ、これらの効果が得られるのか、この点について同氏は「心の動きを対象化して理解する力=メタ意識が鍛えられる。つまり、俯瞰力が養われるからだ。また、マインドフルネスは呼吸法、洞察法、体調管理の3つがポイントとなる」と説明した。

呼吸法では、目を閉じながら鼻呼吸をゆっくりと行いながら湧いてくる雑念に気づくことに集中し、雑念が沸いた際は受け流すことを繰り返し、1日あたり30分程度が望ましいとしている。このとき、ポイントとなるのは「今ここ」に意識を集中し、ジャッジせずに受け入れ、観察し、感じることだという。

呼吸法では雑念に気付くことをポイントとする

洞察法は、呼吸法と併用しながら目を開けた状態でラベリング(名前付け)を行う。これは、湧き起こる思考や感情、映像、音、体感覚などに名前を付けるもので、例えば今日の予定や嬉しい、機械音など湧き起こるものを対象とする。続いて注意の集中として意図的に見る、聞く、感じる、考えるの作用を対象1つに順次向けていき、見るであれば対象物を見ることだけに意識を集中させる。

洞察法はラベリングと注意に集中する

そして、最終的には見る、聞く、感じる、考えるを同時に行う。さすがに、この領域までくると筆者は混乱をきたしてしまい、習慣化させるには時間を要するものだと強く感じた。

心には五感による情報・思考・感情などが映し込まれ、特に思考には無目的に暴走する性質があり、人間は1日あたり3万回の自動思考を繰り返しているため、多大なエネルギーロスが発生しているという。そのため、これらの基本動作を繰り返すことで「今ここ筋」を鍛え、エネルギーロスを防ぐとともに、セーブしたエネルギーを生産的・建設的な方向に使うことが望ましいとしている。

ここまで紹介したものは、あくまでもマインドフルネスの一部となるが、これを深めていくと乗り物の操縦を自分で行うように心の操縦を行うことが可能になるという。ポイントとして清澤氏は「心のノイズを落ち着かせながら自分の意思でやりたいことを固めていくことであり、基本のメンテナンスだ」と、説く。

これらの基本動作は有料コース「マインドフルネス入門研修」(1カ月に2日)のスタートにあたり、その後は2週間の期間で日常生活における思考習慣、行動習慣の癖に気付き、対処することを行い、最終日にマインドフルワーク&ライフの基本スタイルを掴むことにつなげていくという。

「マインドフルネス入門研修」の全体スケジュール

今回の体験会を通して筆者が感じたことは、マインドフルネスも生産性の向上に寄与する可能性があるということだ。業務に追われる頭の中を整理し、気分転換した上で仕事に取り組めるほか、人材育成といった観点からも有効な手立てになるかもしれない。従業員の業務効率に課題を抱える企業は、一度試してみるのもいいのではないだろうか。