創業以来45年間、ERPを中心に業務アプリケーションを手掛けてきたSAPだが、現在はAIを使って業務アプリケーションを次の世代に押し上げようとしている。今年5月に開催された年次イベント「SAPPHIRE Now」ではデジタルイノベーションプラットフォーム「SAP Leonardo」を正式発表、Leonardoの下でAI戦略を本格始動した。

SAP Leonardoは機械学習、ビックデータ、IoT、アナリティクス、データインテリジェンス、ブロックチェーンなどのためのツールを集めたもので、土台にはSAPのPaaS「SAP Cloud Platform」がある。パブリッククラウド(Amazon Web Services、Windows Azure、Google Cloud Platform)、SAPのデータセンター、マルチクラウド環境をサポートする。

「AIは今後、業務アプリケーションを大きく変える。組み込まれた形で提供する必要があり、われわれはAIの取り込みを進める」――SAPの共同設立者であるHasso Plattner氏は2016年の「SAPPHIRE Now」で約束した。その言葉通り、2017年はAIが大きなテーマとなった。

2本の柱から構成されるSAPの機械学習戦略

SAPの機械学習戦略は、機械学習機能を組み込んだ「SAP Leonardo Machine Learning」ブランドのアプリケーション、そして顧客やパートナー向けの「SAP Leonardo Machine Learning Foundation」という2本の柱を持つ。

前者については、財務分野で「SAP Cash Application」、顧客サービス分野で「SAP Service Ticketing」と「SAP Customer Retention」、マーケティングで「SAP Brand Impact」、人事分野で「SAP Resume Matching」と「SAP Job Standardization」を第1弾として発表している。

例えば、SAP Cash Applicationは、受け取った請求書と支払い情報のマッチングにより手作業を省略することができる。Brand Impactは自社がスポンサーをしているスポーツイベントなどの動画や画像からロゴを検出し、ブランドの露出を見るアプリケーションだ。契約通りにブランド露出が行われているかどうかのチェックはこれまで手作業で行われており、時間も要するものだった。そこで、Brand Impactでは深層学習を利用することで、動画や画像のロゴやブランドをリアルタイムで検出し、結果を出す。

「SAP Brand Impact」の画面。スポーツイベントのスポンサー企業はロゴの露出をリアルタイムで検出し、インパクトを測定できる

これらに加え、音声ベースのユーザーインタフェース「SAP CoPilot」を利用することで、会話するようにシステムとやりとりができる。CoPilotはSAPアプリケーションに実装されるほか、同社が戦略的提携を結ぶGoogleの「Google G Suite」やSlackとの統合も可能だという。

後者のSAP Leonardo Machine Learning Foundationは、パートナーや顧客を対象としたエコシステム戦略となる。SAP Leonardo Machine Learning Foundationのトップとして、機械学習の"部品"提供のインフラ開発を率いるSebastian Wieczorek氏は、Leonardo Machine Learning Foundationについて次のように語る。

「一言で言うなら、われわれの機械学習分野の資産を顧客に提供する土台。顧客やパートナーは同じ部品を使って、自社のニーズに合わせたインテリジェントなアプリケーションを構築できる」

SAP Leonardo Machine Learning Foundation Sebastian Wieczorek氏

Leonardo Machine Learning Foundationは、自然言語処理、音声と話し言葉、画像と動画、時系列などの「ファンクショナル(機能)サービス」、ルールを定義してハイレベルで複雑なタスクを担う「ビジネスサービス」、「ライフサイクル管理」から構成され、SAP Cloud PlatformとSAP HANAが土台となる。開発者はREST APIを経由してアクセスし、画像や動画において特定のオブジェクトの検出、認識、分類、予測などが可能になる。