米国の宇宙企業スペースXは2017年8月15日(日本時間)、国際宇宙ステーションに物資を補給する「ドラゴン」補給船運用12号機を搭載した、「ファルコン9」ロケットの打ち上げと着陸に成功した。ドラゴンは今回打ち上げられた機体を最後に新規の製造を終え、今後は過去に使った機体を再使用し、2019年まで残り8回の補給ミッションを続ける。ファルコン9にも将来に向けた改良が加えられたほか、さらに新型補給船や宇宙船の製造も始まる。

ドラゴン補給船運用12号機を載せたファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

打ち上げ後、着陸場のど真ん中に着陸したファルコン9の第1段機体 (C) SpaceX

ファルコン9(Falcon 9)ロケットは、日本時間8月15日1時31分37秒(米東部夏時間14日12時31分37秒)、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射台を離昇した。ロケットは順調に飛行し、約10分後にドラゴン(Dragon)CRS-12を分離。予定どおりの軌道に投入した。

ドラゴンCRS-12はその後、太陽電池パドルの展開や地上との通信の確立にも成功し、16日夜の国際宇宙ステーション(ISS)へと到着した。

ファルコン9の第1段機体は、発射台に程近いケープ・カナベラル空軍ステーションの第1着陸場(Landing Zone-1)への着陸、回収にも成功した。打ち上げ後の記者会見でスペースXのHans Koenigsmann副社長は「報告によると、第1段機体は着陸上のど真ん中に、それもきわめてゆるやかに着陸した」と語った。

最後の新造ドラゴン補給船の打ち上げ、今後はすべて再使用に

ドラゴン補給船運用12号機(CRS-12)は、単独で飛行し、16日20時ごろにISSの「ハーモニー」モジュールに到着。32~35日間にわたって係留され、物資の搬出や搬入作業などが行われる予定となっている。

ドラゴンには、水や食料品、ISSの部品、実験用品など、約2900kgの補給物資が搭載されている。

その中には、宇宙線のエネルギーや質量を観測する装置「CREAM」(Cosmic Ray Energetics and Mass)や、米陸軍が開発を主導した、50kg級ながら高い分解能をもつ光学地球観測衛星「ケストレル・アイ2M」(Kestrel Eye 2M)などが含まれ、CREAMは日本の「きぼう」実験棟の外にある船外実験プラットフォームに設置、ケストレル・アイ2Mなどの小型衛星はナノラックス(NanoRacks)の衛星放出機構から放出される。

また、ヒューレット・パッカードが開発したスーパー・コンピュータも持ち込まれ、放射線が飛び交う宇宙環境の中での耐久性の試験が行われる他、パーキンソン病の治療法の確立に役立てるための実験などで使う多数の実験用品や、長期の宇宙滞在による骨などへの影響を調べるための生きたマウス、また宇宙飛行士のためのアイスクリームなども搭載されている。

宇宙線の観測装置「CREAM」 (C) NASA

米陸軍が開発を主導した、50kg級ながら高い分解能をもつ光学地球観測衛星「ケストレル・アイ2M」 (C) U.S. Army SMDC

ドラゴンのISSへの打ち上げは今回で13回目となり、また米国航空宇宙局(NASA)との契約に基づく商業補給ミッションとしては12回目となった。運用7号機(CRS-7)が打ち上げに失敗した以外はすべて成功しており、今後も2019年までに、あと8回のミッションが予定されている。

ドラゴンはまた、ただ物資を打ち上げるだけでなく、宇宙から地球へ帰還できる能力をもち、ISSで生み出された実戦成果を持ち帰り、地球の分析装置でより詳しく調べるといったことができる。ISSに物資を送り届けられる補給船はドラゴン以外にもあるものの、地球に帰還する能力はなかったり、持ち帰られる物資の大きさや重さに限りがあったりするため、ドラゴンはこの点において、ほぼ唯一無二の能力をもっている。

また、地球に帰還したドラゴンは、点検・整備を経てふたたび飛行できる、再使用性ももっている。すでに今年6月に打ち上げられたドラゴンCRS-11では、2014年にCRS-4で一度宇宙を飛行した機体が再使用され、無事にミッションを完了している。

ドラゴンの新規の製造は、今回のCRS-12の機体をもって終了となり、今後2019年までに予定されている残り8回のミッションでは、すべて過去に飛んだ機体が再使用される。さらにドラゴン補給船の製造終了に伴い、今後は新型のドラゴン補給船と、そして有人のドラゴン宇宙船の製造も始まることになっている。

スペースXとNASAでは、補給船の再使用により、1回あたりの補給ミッションのコストを低減させるとともに、新しい補給船と宇宙船の製造を促進させるという2つの効果を狙っている。

ドラゴン補給船 (C) SpaceX

ドラゴン補給船の新規の製造が終わったことに伴い、スペースXでは有人のドラゴン宇宙船の製造が本格化する (C) SpaceX

ロケットはマイナー・チェンジ、「ファルコン9 ブロック4」に

今回打ち上げられたファルコン9は、「ブロック4」(Blogk 4)と呼ばれる、改良型の1号機でもあった。

詳細は明らかになっていないものの、エンジンの装着部分の構造が変わった他、秋に初打ち上げが予定されている超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」のブースターとして機体を再使用するため、機体構造などにも改良が加えられているとされる。

また、Koenigsmann氏によると、今回打ち上げた機体は新たに製造したものだったが、着陸脚のみ、以前の打ち上げで使ったものを再使用したという。

スペースXでは現在、ファルコン9の最終型となる「ファルコン9 ブロック5」の開発も進めており、ブロック4はその先行量産型のような位置づけとなる。ブロック5ではエンジンの推力を上げるなどして打ち上げ能力が増すほか、耐熱シールドやフィンの素材の見直しなどによって、機体の回収や再使用が今より柔軟かつ迅速にできるようになるという。ブロック5の初打ち上げは今年末に予定されている。

今回の打ち上げで、ファルコン9の通算打ち上げ機数は40機となり、そのうち38機が成功し、成功率は95%になった。また着陸・回収成功は14回目となる。

また8月25日には、西海岸のカリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地から、次のファルコン9の打ち上げが、さらに9月7日ごろには、米空軍の無人スペースシャトル「X-39A」を載せたファルコン9の打ち上げも予定されている。

ドラゴン補給船運用12号機を載せたファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

約1か月ぶりのファルコン9の打ち上げ、発射台の修理と改修も進む

ファルコン9は今年6月24日から7月7日にかけて、12日間で3機もの打ち上げをこなしたが、今回はそれから約1か月ぶりの打ち上げとなった。

これは「イースタン・レンジ」(Eastern Range)と呼ばれる、米空軍が管理するフロリダ州のケープ・カナベラル空軍ステーションとケネディ宇宙センターを中心とした打ち上げ施設の改修工事が行われたためで、この間はファルコン9を含む、フロリダからのすべてのロケット打ち上げが停止された。

この間、第39A発射台は、今後予定されているファルコン・ヘヴィや、ファルコン9による有人のドラゴン宇宙船の打ち上げに向けた改修工事が進められ、かつてスペースシャトルの打ち上げ準備で使われていた整備施設の解体などが行われた。

また、2016年のファルコン9の爆発事故で損傷した、ケープ・カナベラル空軍ステーションの第40発射台の修理も進んでいる。本来、無人のファルコン9の打ち上げでは第40発射台を使い、第39A発射台は有人宇宙船やファルコン・ヘヴィの打ち上げを使うことになっていたが、この事故により、無人の打ち上げでも第39A発射台が使われることになった。

打ち上げ前記者会見に登壇したKoenigsmann氏は、「第40発射台の修理は今後数か月で完了するだろう」とし、早ければ10月に予定されている打ち上げから使用が再開できる見通しを明らかにした。またこれ以前には、同社のイーロン・マスクCEOが「(第39発射台からの)ファルコン・ヘヴィの初打ち上げは11月ごろを目指している」と明らかにしている。

すべてが順調に進めば、スペースXは今年の秋から、東海岸だけで2か所もの発射台を並行運用する本来の形になるとともに、ファルコン9と並行してファルコン・ヘヴィの打ち上げも始まるなど、大きな変化と忙しさが同時に訪れることになる。

第39A発射台は近い将来このような姿になる予定 (C) SpaceX

第39A発射台はは超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の打ち上げにも使われる予定 (C) SpaceX

参考

CRS-12 Dragon Resupply Mission
Dragon Resupply Mission (CRS-12) | SpaceX
Liftoff Sets Dragon on Course for Wednesday Rendezvous | SpaceX
SpaceX Falcon 9 launches CRS-12 Dragon mission to the ISS | NASASpaceFlight.com
Kestrel Eye hitches ride to International Space Station | Article | The United States Army

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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