松本清張の長編小説を実写化したドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系・毎週木曜21:00~21:54)。銀座クラブのママに転身した武井咲演じる銀行員・元子が、さまざまな人物の思惑の中で翻弄されながらも、夜の世界を生き抜く姿を描いている。

5回目のドラマ化となる今回の特徴は、「銀座で一番若いママ」に重きを置いていること。その元子が野望を完遂している姿が視聴者の心をつかんでいるが、脇役に目を向けてみると不思議な巡り合わせでこのドラマに出演している人物がいる。

女優の内藤理沙 撮影:島本絵梨佳

料亭「梅村」の仲居で、その後ホステスに転身した島崎すみ江。演じる内藤理沙(28)は、2002年の第8回全日本国民的美少女コンテストをきっかけにこの世界に入り、アイドル、モデルを経て、現在は女優として活動している人物だ。

これまで出演したドラマは20本以上。本人いわく、野望とは無縁の芸能生活だったが、『ドクターX ~外科医・大門未知子~』で心を折られたことが転機になったという。脇役としてさまざまな役柄の仕事を転身してきた内藤の職業観とは。内面を掘り下げていくと、両親への思いがあふれ出た。

武井咲との共演「仲が良い役があまりない(笑)」

――島崎すみ江は、料亭「梅村」の仲居でしたが、ホステスに転身するという役どころです。

「梅村」が売りに出されることになり、ママに雇ってもらうようにお願いします。「梅村」では一度しか会ったことなかったのですが接客する姿などを見て、信頼されていたんでしょうね。ホステスでは当然新人になるのですが、仲居でいるうちに「梅村」の情報を流すように求められます。

その後もママからの指示と共にお金を渡されて動くすみ江をはじめ、お金が絡むと周りが見えなくなってしまう人間の怖さ、それからちょっとしたことでも人間関係が崩れてしまうことも今回のドラマから伝わりました。

自分がその状況になったら? ひょっとしたら同じようになってしまうかも……そんなことがついついよぎってしまうドラマです。

ホステスに転身したすみ江(左:内藤理沙)とクラブママ元子(右:武井咲) テレビ朝日提供

――武井咲さんとは、NHK時代劇『忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣~』(17年)、『エイジハラスメント』(15年・テレビ朝日系)、映画『クローバー』(14年)などで共演されてきましたね。

そうですね。『忠臣蔵の恋』では共演シーンが多かったのですが、互いに側室で私が演じた役柄は咲ちゃんをライバル視していて。実は、これまで咲ちゃんと仲が良い役があまりないんです(笑)。もちろん、撮影の合間には普通に話しますよ! 『エイジハラスメント』でも咲ちゃんをイジメていて、カットがかかると「ごめんね」とすぐに謝っていました。「私、武井咲ちゃんにこんなひどいことを言ってる……」とふと我に返ってしまうことも(笑)。『黒革の手帖』は、表ではいい顔をして、裏では彼女なりの思惑がり、今までとは違う"女の怖さ"があります(笑)。

撮影前にホステスを取材

――『黒革の手帖』だけでも仲居、ホステス、過去作では刑務官、ファーストレディ、看護師、OL、事務官、秘書、アナウンサーなど数々の職業を演じて来られました。毎回転職しているとも取れると思うのですが、撮影前には演じる職業について研究するそうですね。

十代からこの業界に入って、今の仕事以外を経験したことがないので、人に聞いたり調べたりしないと不安なんです。ホステスは特に未知の世界で、撮影前には銀座のクラブに、お客さんとしてですが行かせていただきました。

――そこではどのようなことを学んだんですか?

お客さんとの距離感はとても参考になりました。ベタベタくっついていいわけでもないし、でも離れすぎてもそっけなくなる。お客さんを「会いに行きたい」と思わせないといけないわけで、女性として惹きつけるものがないとホステスとしてはやっていけないんじゃないかと思いました。あとはお酒を作っている時とかちょっとした時の仕草や、目線の送り方だったり。そのあたりはずっと観察していました。

ホステスの方に日常をどのように過ごされているのかを聞いたら、起きるとまずは新聞やニュースをチェックし、本を読んだりして知識と教養を高めることも大事だとも。プライベートな時間もお客さんとやりとりをしたりして、自分の時間はほとんどないともおっしゃっていました。細かい話だと、例えば趣味がゴルフでもお客さんには伝えないそうです。それは、お客さんに誘われると一人の方に多くの時間を割いて、他のお客さんにとっては不公平になってしまうから。そこまでの気配りが求められるので、大変な仕事だと思います。

銀座の方々は奥ゆかしくてしっとりとした魅力があって、お酒も「たしなむ」イメージ。その雰囲気に酔いしれてしまうのではないかと、客の立場で感じました。今回、キラキラした世界に少しだけ触れることができて、仕事として憧れを抱くようになりました。