一方、和心亭 豊月は総客室数15室のこじんまりとしたお宿だ。立地もアクセスがよい箱根湯本駅のそばではなく、芦ノ湖のそばにある箱根神社の東隣に位置する。

支配人の杉山慎吾氏は、Oracle Service Cloudの導入の経緯について、「オラクルから電話がかかってきたのが始まりです。ITはあくまでもツールの1つですが、われわれの戦略にオラクルのサービスがはまったらおもしろいのではないかと考えました」と話す。

和心亭 豊月 支配人 杉山慎吾氏

杉山氏は、和心亭 豊月の戦略について、次のように語る。

「和心亭 豊月は山の上にあるため、交通の便が悪くなります。そこで、リピーターを増やすことで、顧客を創出しようと考えました。リピーターを増やすために、全方位でお客さまを集めるのではなく、ターゲットを"赤ちゃん"、"マタニティ"、"記念日"に絞りました。この3つをターゲットに据えたのは、自分と同年代の方たちなので事情がわかるということが理由の1つでもあります」

和心亭 豊月の「よくあるご質問」を見てもらえばわかるが、トップに表示されている質問は、赤ちゃんがいる家庭や妊娠している女性が抱きそうな疑問ばかりだ。

和心亭 豊月の「よくあるご質問」。赤ちゃんを育てている母親が気になりがちな「夜泣き」に関する質問にも事前に回答が用意されている

杉山氏は当初、「予約をした段階から、旅が始まる。予約をもらってから、コンタクトを増やすことで、顧客にできることが増える」と考えていたそうだが、オラクルから「それじゃ甘い。旅がしたいと思ったところから、顧客へのサービスが始まる」と指摘され、考えを改めたそうだ。

「ニッチな市場でNo.1を目指します。われわれはお客さまの時間を預かって流出するプロです」と、杉山氏は話す。

和心亭 豊月の予約は基本的にオンラインで受けるが、約35%は電話で受けるという。FAQサービスの改善を行う際、コールセンターの手間を削減することを狙うケースが多いが、和心亭 豊月では「お客さまからの電話を減らすつもりはない」という。なぜなら、お客さまにおもてなしをするために、コンタクトを増やすことを目指しているからだ。

ホテルおかだと同様に、和心亭 豊月も5月から、Oracle Service Cloudの導入を開始したが、効果を実感しているという。

例えば、WebサイトのPVが10%~15%上がっており、これが予約につながっているかどうかはこれから検証していく。また、Oracle Service Cloudを活用して人工知能が関連した質問を表示する仕組みをとっているのだが、質問を入力する際、文章を入れる人が増えてきたという。

和心亭 豊月

同じ温泉旅館ながら、異なるアプローチでOracle Service Cloudを活用しているホテルおかだと和心亭 豊月。オリンピックが開催される2020年に向けて、旅館業が果たす役割は大きい。今後の展開に期待したい。