AppleはWWDC 2017で発表したwatchOS 4で、音楽再生機能の強化したのは、Apple Watchが単体で、ストリーミング音楽に対応できていないことを知っているからだ。

WWDC 2017で発表したwatchOS 4

watchOS 4の音楽機能には、自動同期機能が用意された。再生回数の多い「ヘビーローテーション」「ニューミュージックミックス」「フェイバリットミックス」そして「チルミックス」など、自動的に生成され、毎週1度更新されるプレイリストを、Apple Watchに自動的に同期することで、Apple Watchにコピーするプレイリストやアルバムを選ばなくても、音楽が常に入っている状態を作り出したのである。

そのため、Apple WatchだけでジョギングやウォーキングのワークアウトをONにすると、AirPodsをペアリングしている場合、自動的にApple Watch内の音楽が再生されるようになった。もしLTE通信をサポートすれば、Siriでアーティスト名やジャンル名を言えば、すぐにその音楽をApple Watchだけで聞き始められるようになる、ということだ。ただし、ハードルはたくさんある。

まず、Apple WatchにLTE通信に対応するモデムを入れる際、その契約はどうなるのか、という点だ。Apple Watchを利用するために、iPhoneとは別にデータプランを用意しなければならない、というのはハードルが高すぎる上、単体での通信によって実現するアプリが、非常に限定的な人のためのものになってしまうことになる。もちろんキャリアによってはApple Watchのために別回線を契約してくれるユーザーに、優遇したデータプランを提供するかもしれないが、追加料金がかかること自体が、購入意向をしぼめてしまうことになるのではないだろうか。

また、別回線ということは、iPhoneを家においてワークアウトをしているとき、iPhoneに電話がかかってきてもApple WatchとAirPodsの組み合わせではその通話に出られない、ということだ。Apple Watchに別の番号が与えられているのだから、当たり前のことだ。理想は、iPhoneの電話番号とデータ通信の契約に、Apple Watchが追加されること。実際、iPhoneとApple Watch、どちらかを優先して使うことになるため、その形態で十分機能すると考えて良いだろう。

もう1つの問題点は、バッテリーだ。

現在Apple Watchは、18時間というバッテリー持続時間を実現している。現在のバッテリーサイズやプロセッサーにLTE通信を追加しても、おそらくこの持続時間を保つことはできないだろう。そのため、より省電力のチップを搭載したり、より大きなバッテリーを備えるモデルを準備する必要がある。

Apple Watch Series 2では、デュアルコアのプロセッサにGPSを内蔵し、厚みを増してバッテリー容量を増加させることで、18時間という持続時間を死守した。LTE搭載モデルでも、やはりバッテリーと厚みの増加を必要とする可能性はあるだろう。

例年通りであれば、Appleは9月に新型iPhoneを発表するイベントを開催する。昨年はApple Watch Series 2を、同じイベントで発表しており、今年も新型Apple Watchを発表するかもしれない。前述の通り、音楽機能だけがApple Watchの本質ではないが、通信をサポートするのか、その際、契約やバッテリーの問題をどうクリアするのか、注目したい。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura