(OLED搭載の)次期iPhoneについては早期から「1,000ドル超え」が噂されており、Apple関係で著名なJohn Gruber氏に至っては1,500ドルの可能性にさえ言及している。1,500は大業にしても、1,200ドルという意見は比較的多く見られ、日本での販売価格が10-12万円以上であることを覚悟している人も少なくないはずだ。では、実際に価格決定がどうなるかについて分析してみる。

iPhone 7シリーズは日本円で72,800から

AppleはiPhoneに関して比較的堅実な価格設定手法を採用しており、これは2008年にiPhone 3Gが登場して以降、ほぼすべてのモデルで踏襲されている。具体的にはBOM (Bill of Materials)という製造原価をiPhone価格の3割とし、これで販売価格を設定している。例えばiPhoneの最もエントリーにあたるモデル(iPhone 7 32GB)のSIMフリー版は649.99 (650)ドルで販売されているが、このBOMは195ドルとなる。AppleはこのクラスのiPhoneのBOMを「200ドル」に設定するという内部目標を立てているようで、次期モデルに搭載される部品や機能はこの200ドルに収まることを目標に取捨選択が行われていると筆者は考えている。「iPhone 5」のように想定していたBOMから溢れたことで決算に影響が及んだケースもあり、1セント単位でのBOMの違いがAppleの決算に億円単位での損失を出すわけで、それだけ神経質にならざるを得ない。BOMが一定にもかかわらず年々機能が高度化して搭載可能な部品が増えているのは、それだけ技術の進化で部品コストが引き下がっていることにほかならない。

だが今回、OLEDモデルは従来のiPhone開発における約束事を大きく破ろうとしている。まずOLEDのパネル単価で、従来の液晶(LCD)では4.7インチ版で30-40ドル程度だった単価が100ドルを上回ると聞いている。しかも3Dセンサーなど新規センサーを複数搭載し、全体にコストがかさ上げされている関係で、BOMが300ドルを超えることになると計算している。iPhone 7 Plus 32GBのSIMフリー版価格が769.99 (770)ドルで、この場合のBOMのターゲットは230ドル。少なくともこれに70-100ドル程度を上乗せて、300-330ドル程度がOLEDモデルのBOMとなるだろう。この場合、SIMフリー版の価格は1,000-1,100ドルということになる。これが1,000ドルを超える根拠だ。

問題は、この1,000ドル超えのiPhoneをどの程度のユーザーが購入するかという点だ。Apple Insiderの記事にもあるように、現在iPhoneの平均販売価格(ASP)は695ドルだ。レンジとしてはiPhoneのストレージ容量が最も少ないモデルと中間にあたる容量のモデルの間に位置し、やや下位モデルの数が多い状態になっている。5.5インチ版のiPhone Plusシリーズについては販売比率が明かされていないが、おおよそ販売数全体の1割程度とされており、これはiPhoneユーザーでもプレミア層といえる。1,000ドル超えモデルがリーチするのは間違いなくこのプレミア層であり、iPhoneのASPを押し上げる要因となる。Appleの戦略として「希少なプレミアモデルであれば中途半端な値付けにするよりは、ストレージ容量を最大に固定して最上位モデルを演出する」と考えてもおかしくないと筆者は考える。つまり、さらに100-200ドルほど販売価格を積み上げ、例えば「1,200ドル」という形でストレージ容量を最大に設定したモデルのみを用意するのだ。

ただし、仮に"1,200ドル"のプレミアiPhoneが登場したとして、売れる数は非常に限られている。Plusユーザーが1割とするなら、プレミアモデルを購入可能な層はさらに限られる。前述Kuo氏は2017年ホリデーシーズン商戦をターゲットとしたiPhone 3モデルの総出荷台数を8,000-8,500万程度と見積もっているが、これは昨年2016年の水準にほぼ沿っている。一方で2017年時点では唯一のOLEDパネル供給業者であるSamsungに7,000万枚のパネルをオーダーしたという威勢のいい話も出ているなど、どうも聞こえてくる話と実際の動きとのミスマッチが見えてくる。iPhoneの年間販売台数は2億台強の水準であり、AppleはOLED採用初年度でのOLEDモデル比率を3割程度で見込んでいたという話が以前にあり、それを考えれば7,000万枚というのはちょうど3割程度の水準であり妥当だ。だが現時点でOLEDモデルがプレミア側に極端に偏っていることもあり、7,000万枚のOLEDパネルを順当に消化できるとも思えない。筆者予測で多くて1,500-2,000万枚程度が妥当だ。2018年以降はLG Displayなどのサプライヤとしての参加も見込まれるため、さらに供給数は増える。この頃には当初目標の「2年目で5-6割」という数字が供給数からは見えてくるが、同時に「パネルコストの大幅な引き下げ」と「下位モデルへのOLED展開」を実現しなければならず、今年2017年から来年2018年にかけては試行錯誤が続くことになる。

ではなぜ、AppleはここまでOLED採用にこだわるのだろうか。理由の1つは「技術革新の停滞」にある。ディスプレイ技術に関してはiPhone 4世代の「Retina」、iPhone 5世代の「インセル方式」の採用などでリードを続けてきたAppleだが、ここ4世代ほどは特にブレイクスルーもない状態が続いている。内部的にディスプレイ技術を開発すべくさまざまな試行錯誤が続いてきたが、ほとんど目立った成果がないのが現実だ。そこで2015年ごろから内部方針を大きく転換し、OLEDの全面採用に向けたロードマップを敷いたというわけだ。当初は2018年から3ヶ年計画で2020年まで段階的にOLED搭載モデルの比率を上げていくものだったが、これは結局1年前倒しされて2017-2019年までということになった。ただ、この時点でスマートフォン向けの小型OLEDを大量供給できるのはSamsungしかなく、前述の「BOMの大幅な押し上げ」「技術的優位性の放棄」という問題が出てきた。パネルが一緒である以上、先行するGalaxyシリーズにはインテグレーションや価格面での優位性は低く、サプライヤが1社のみという競争上の不利もある。そこでAppleはOLEDパネル大量生産が可能な業者を選別してサプライヤを増やしつつ、前述指紋センサー内蔵のような独自技術を組み合わせたパネルの開発に先行投資して、2019年のOLED移行完了を見越した動きを進めている段階にある。

その意味では、今年と来年に登場するのはハードウェア的には「先行プロトタイプ」に近い製品といえる。これを購入してくれる"プレミアム"なユーザーに対してどのような体験を提供できるのか、顔の表情を読み取る仕組み撮影シーンの自動認識、そしてそれらを補助するAIチップ開発の話題など噂はさまざまあるが、サービスやソフトウェア面での工夫にぜひ期待したいところだ。