現行iPhoneで採用されているTouch ID

さて、本題はここからだ。"iPhone 8"でのTouch ID廃止はほぼ規定路線となっている。Touch ID廃止につながる直接の理由は前述のように「OLED採用による全面スクリーン端末」を実現するための措置だが、一方で「指紋タッチセンサーをディスプレイに埋め込む技術の開発が間に合わなかった」という事情がある。Appleはディスプレイに指紋を検知する技術の搭載をギリギリで断念したような報告が見られたが、実際には実装コストや精度などの問題で直近での実用化が難しいことは判明しており、2016年にプロトタイピングが開始された時点ですでに搭載を断念していたようだ。そのため、3D映像を使った認証技術の搭載へとAppleを動かしたという流れだ。

以前の筆者のレポートにもあるように、当初は高精細のイメージセンサーで「虹彩認証」を指向していたようだが、現在では3Dカメラの搭載により「顔認証」を可能にする方向で進んでいる。これは筆者の推測だが、OLED版iPhoneにはこの2つの生体認証技術が同時に搭載され、いずれかを適時選択できるのではないかと考えている。顔認証(もしくは虹彩認証)が利用できるという点は、リークしたiOSのファームウェアで「Pearl ID」という顔認証を示唆するキーワードが発見されたことで確実視されている。2つの生体認証技術は同じカメラ装置で実装可能だが、「精度の問題はあるが反応が早く手軽な顔認証」「精度は高いが特定のポイントを凝視する必要があって認証に時間がかかる虹彩認証」という違いがあり、その特性を使い分ける必要がある。また3Dカメラ技術でもし「赤外線方式」を採用した場合の問題として、周囲が明るい屋外での認証では誤検知が多発するという課題がある。Galaxy S8で問題視された「写真で認証をパスできる」という精度の問題もあり、iPhoneが新モデルでいかに問題をクリアしていくかが気になるところだ。

またAppleとしては、何もTouch IDですでに実績のある「指紋認証」を軽視しているわけでなく、今回はたまたま技術とコストの問題で実装を諦めなければならなかっただけだ。実際、Qualcommなどが今年2017年6月に開催したMWC Shanghaiでディスプレイ上で超音波を使った指紋認証技術のデモストレーションを行ったように、比較的安価で正確に実装できる技術が登場してきている。筆者が聞き及ぶ範囲では、Appleは現在ディスプレイ全面での複数本の指の指紋を同時に検出する技術の開発を進めており、このセンサーを組み込んだディスプレイの2019年モデルでの投入を見込んでいるという。来年2018年はiPhoneでのOLED搭載が一般向けのモデルにもある程度波及するタイミングであり、全モデルへのOLED展開の目処が立った2世代先の段階で「Touch ID」を復活させる計画となる。もちろん、Touch IDといっても物理的なものではなく、画面そのものが仮想的なTouch IDの認証機構になるわけだが……。