日本マイクロソフトは以前から、難読症などの障がいを持つ方々の進学や就学をIT技術で支援する「DO-IT Japan」を開催している。今回、2017年8月8日に夏期プログラムを開催し、同時にWindows 10 Fall Creators Updateに含まれる「UDデジタル教科書体」フォントの採用理由や、Wordの読み上げアドオンツール「WordTalker」などを紹介した。

学習障がいの一種であるディスレクシア(難読症)は日本国内では広く認知されておらず、日本政府の「障害者白書」でも明示していない。知的能力に問題はなくとも、文字の読み書きなどに不自由を訴える人々は世界各地にいる。日本マイクロソフトは2007年から、困難に遭遇している方々の進学や就学をIT技術で支援する「DO-IT Japan」の活動を共催してきた。

日本マイクロソフト 技術統括室 プリシンバルアドバイザー 大島友子氏は、DO-IT Japanは自社の企業ミッションと相通ずるとしながら、「肢体不自由の子供たちでも、IT技術を使ってテストを受ければ結果を出せる」と活動結果をアピールする。詳しくは後述するWindows 10 Fall Creators Updateに含むフォント「UDデジタル教科書体」と、イーストの「WordTalker」、東京大学先端科学技術研究センターの「AccessReading」を指して、「三位一体の支援環境がそろった。さらにWindows 10のアクセシビリティ機能で(ディスレクシアな方々を)支援する」(大島氏)と述べた。

日本マイクロソフト 技術統括室 プリシンバルアドバイザー 大島友子氏

東京大学先端科学技術研究センターが主催するDO-IT Japanの活動はWebページを参照いただくとして、今回はAccessReadingに注目したい。東京大学先端科学技術研究センター 准教授 近藤武夫氏は「学校の現場では紙の教科書しかなく、現場でデジタル化するにも著作権などの問題が障壁となる。そこで東大先端研がAccessReadingを開発し、小中高の検定教科書をデジタル化。Microsoft Azureから年間450冊ほど配信している」と紹介した。AccessReadingは、ePubファイルとWord文章(拡張子docx)ファイルで配布し、ディスレクシアを理由に印刷物を読むのが難しい方々を支援する「オンライン図書館」を提供する。

東京大学先端科学技術研究センター 准教授 近藤武夫氏

AccessReadingの概要。データ流出に対処するため利用IDを電子透かしとして付与し、障がいを持つ方なら誰でも登録して利用できる

AccessReadingではePub形式にも対応しているため、Microsoft Edgeを使えばそのまま閲覧できる

2017年6月にイーストがリリースしたWordTalkerは、2015年度総務省情報通信利用促進支援事業費補助事業に採択され、前述した近藤氏の協力を得て開発したWord文書を読み上げるアドオンである。

イースト 事業推進部 営業企画室 室長 柳明生氏は「ディスレクシアの方々だけではなく、障がい者差別解消法の施行により、社会の各所で合理的配慮を求められる教育機関や公共団体、法人の需要も高い。23区内のとある自治体が運営する、特別支援学校を含むすべての学校で採用予定」という。

WordTalkerはMicrosoft Speech API(SAPI)に対応し、WindowsのTTS(合成音声)をそのまま利用するため、Wordがインストールされていれば、そのまま利用可能だ(Windows 7はTTSエンジンの入手が必要。Windows 8.x/10は標準搭載)。WordTalkerは前述したAccessReadingと連携し、利用者は「WordTalker AR Edition」を無償で利用できる。詳しくはイーストに問い合わせてほしい。

イースト 事業推進部 営業企画室 室長 柳明生氏

WordTalkerのデモンストレーションでは、読み上げる部分を2色で強調し、可読部分を示している。また、リボンの<読み上げ>タブから一連の操作を実行できるのも特徴の1つ

漢字読み書きテストなどの場合は、生徒に解答させる部分を「ぺけぺけ」など教師が事前にルビを設定することで対応。辞書登録機能を使えば以降の設定は引き継がれる

WordTalkerのライセンス形態。30日間の試用版も用意している