しばらく、視聴率的に不調が続いたフジテレビの月9が、この7月期、『コード・ブルー ~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』になって、ようやく持ち直し、高視聴率が続いている。

前列左から比嘉愛未、新垣結衣、戸田恵梨香、浅利陽介、後列左から馬場ふみか、成田凌、椎名桔平、安藤政信、新木優子

圧倒的な超越者感がある山下

まさに緊急救命の名にふさわしい『コード・ブルー』は、2008年から続く人気シリーズ。事故や災害で、命の危機に陥った人たちを、迅速な判断と行動と、確かな技術で救う人々を描いたドラマは、何回観ても励まされる。もちろん、こういう命を救うドラマは他にもたくさんあるが、『コード・ブルー』は、医療機器を搭載して空を飛ぶドクターヘリを扱ったことによって、舞台が空にまで及び、スケール感や、ヒーロー性が増した。

08年から出演している初期メンバー、山下智久、新垣結衣、戸田恵梨香、比嘉愛未、浅利陽介などが、この9年、ぞんぶんに活躍し、いっそう貫禄を増してきたものだから、彼らが全員そろったことで、とても豪華な感じもある。このオールスター感。そういう意味では、フジテレビも、まだまだ“持って”いるのではないか。

さて、そんな中でも、圧倒的な超越者感がある人物は、主演の山下智久だ。

山下は、昔から超然としているところがあって、それが優れた医師役にピッタリなのだ。彼は感情の起伏を(いい意味で)あまり出さず、それが、前述した命の危機に陥った人たちを、迅速な判断と行動と確かな技術で救うという場面において、大いに力を発揮する。どんなに、厳しい状況を目の当たりにしても、顔色をまったく変えず、動じず、淡々と対処する。なんたるたのもしさ。ただちに命を救わないといけないという状況におかれることが多い医療ものは、どうしたって前進に力が入り、額に汗かきがち。だが、この猛暑に、それは、ちょっとトゥーマッチな気がしないでもない。そんな時、山下智久が、真夏の地下水のように存在する。

宿命を背負う

山下智久は医療ドラマも似合うが、夏のドラマも似合う。

山下智久と夏のドラマと言って思い出すのは、2003年にTBSで放送された『Stand Up!!』。『コード・ブルー』と同じフジテレビの『SUMMER NUDE』(13年)も夏ドラマだが、あえて昔のドラマを例にあげることには理由がちゃんとある。二宮和也、小栗旬、成宮寛貴、そして山下……と今思うとなかなか豪華な4人によるひと夏の青春コメディーに出ていた彼は、まだ10代の未成熟な少年であったが、自分を「拙者」と呼び、鉄道、古銭、勉強マニア(公式ホームページの堤幸彦監督のインタビューより)という設定の高校生だった。その設定に倣い、7話で彼は「御茶ノ水、神田、東京。京葉線。八丁堀、越中島、潮見、新木場、葛西臨海公園、舞浜、新浦安、市川塩浜、二俣新町、南船橋、新習志野、海浜幕張、検見川浜、稲毛海岸、千葉みなと、蘇我。内房線。浜野、八幡宿、五井、姉ヶ崎、長浦、袖ヶ浦、巌根、木更津。久留里線。祇園、上総清川、東清川、横田、東横田」と総武線の駅名を諳んじる(公式ホームページのレポートより。実は当時、私がライターをやっていました。このサイト、まだ残っているのがすごい)。

この時から彼は、超然感を発揮していたのだと思うと感慨深い。その武士(「拙者」だけに)のようなポテンシャルは、その後、映画化もされた『クロサギ』(06年)の詐欺師をターゲットにする詐欺師という特異な役や、『ボク、運命の人です。』(17年)の、「神様」を自称して亀梨和也演じる不器用な人物に発破をかける未来人(実は亀梨の未来の子供)などに昇華する。

『SUMMER NUDE』などのナイーブな役も似合うのだが、人を食った感じのクールな役が抜群に似合う。おそらく、顔立ちは甘めなので、どんなにクールに振る舞っても、観ている人をふるいにかけない。そこが、テレビドラマ的に良いのだろう。どれだけ、感情を後回しにして、淡々と専門用語を話し、せっせと作業を優先しても、そのうるっとした大きな瞳とややふっくらした唇が、抑えきれない人間性を表してしまうのだ。とりつくしまのない顔でないことは、ある意味、罪深い。でも、それが、アイドル事務所・ジャニーズの一員であることの宿命だ。宿命を背負って、月9を救い続けていただきたい。

■著者プロフィール
木俣冬
文筆業。『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、構成した書籍に『庵野秀明のフタリシバイ』『堤っ』『蜷川幸雄の稽古場から』などがある。最近のテーマは朝ドラと京都のエンタメ。