生麦に研究機関があると先述したが、ここには「酒類技術研究所」や「飲料技術研究所」、「健康技術研究所」など、キリングループ6つの研究所が集約している。そのうちのひとつが「ワイン技術研究所」だ。

この研究所では、当然、名前のとおりワインに関する研究・開発が行われている。

たとえば赤ワインに含まれるポリフェノール。ポリフェノールはおもに「アントシアニン」「タンニン」などがあるが、前者は渋味・苦味が穏やかで、後者は渋味・苦味が強い。健康によいとされるポリフェノールだが、ブドウから2倍抽出すると、アントシアニンもタンニンも2倍になる。つまり苦味も増えることになる。

そこで、熱抽出技術を応用し、アントシアニンのみ抽出する技術を開発。この技術で作られた原料をもとにしたワインを商品化している。

また、「レスベラトール」というポリフェノールを研究。これが動脈硬化予防や抗メタボ効果、脳機能活性化などの効果が高いことを調べあげた。

白ワインの特性を感じたテイスティング

白ワインのテイスティング。その後、赤ワインのテイスティングもあった

研究の成果を体感できるテイスティングも体験させていただいた。

目の前には3種類の白ワイン。そしてカズノコが用意されていた。いわれるとおり、白ワインのひとつを試飲、「おいしい」と感じた。続いてカズノコを食べる。嫌いな食材ではないので、やはりおいしい。だが、カズノコが口に残っているあいだに再び先ほどの白ワインを口にすると、生臭い味が広がった。これは、同じテイスティングをしたほかの記者も同じだったようで、「ん!?」といった小さな声があちこちで上がった。

キリン R&D本部 ワイン技術研究所 神原浩子氏によると、ワインに含まれる“鉄”と魚介料理に含まれる“脂質”が合わさると、生臭みが生じるそうだ。鉄が多ければ多いほどその生臭みは強くなるらしく、それをメルシャンが世界で初めて発見した。この研究成果は、国内ワイン業界のみならず、海外からも注目されている。

続いて、用意してあったサワークリームでカズノコを包んで食し白ワインを飲むと、生臭みが緩和された。キャビア料理にサワークリームが添えてあることが多いのはこのためだそうだ。ただ、多くの魚介料理には、キャビアに対するサワークリームのようなコンビはなく、そこでメルシャンは生臭さを感じにくい商品を開発した。

さて、筆者は専門家でもなんでもないので詳しい手順はわからないが、ワイン造りといえばヴィンヤード(農園)でブドウを育てそれを収穫、発酵させたブドウをタルに入れて醸成させる。その年に収穫したブドウのデキや職人の腕によって、味が大きく異なってくるものと思っている。つまり、こんな表現をしてよいのかどうかわからないが、ワイン造りは、“すこぶる牧歌的”というイメージだ。

だが今回、メルシャン藤沢工場を訪れ、いろいろなハナシをうかがってみると、意外や意外、“ワインは科学”なのだなと感じた。