【レポート】

京都「正寿院」に可憐すぎる客殿ができた理由--ハート窓と天井画がある空間

公共交通機関を使って行こうとすれば、京阪宇治線・JR奈良線「宇治駅」からバス30分+バス17分+徒歩10分。どんどん山の中に突き進んでいくバスの中では、携帯電話の電波マークも心細い表示に。思いがけず遠くに来たような気がしてしまったのが、それだけの価値があることはすぐに分かる。ここは「正寿院」、心が見たがる麗しき景色が広がっている。

時間が経つのも忘れて、ここでゆったりと

姿が見えない観音さまとつながる

本堂で受付をすると、散華と叶紐が手渡される。散華(さんげ)とは、仏に供養するために花びらをまくことで、正寿院では花びらの形にさまざまなデザインを施した紙を散華として授与している。飾りとして使うもよし。朱印帳に挟むもよし。

散華と叶紐。散華は表裏ともにデザインはさまざま。叶紐の表は漢字の「口」、裏は十字の「十」で結ばれている

もうひとつの叶紐はというと、表は漢字の「口」、裏は十字の「十」で結ばれていることから、「口」と「十」で「叶」という縁起のいい結びがされている。お守り代わりに持って帰ることもできるが、境内の地蔵堂に願いを込めて結んで帰ることもできる。

境内の地蔵堂に叶紐に結んで帰ってもいい

「秘仏 十一面観音」(町指定文化財)を本尊とした正寿院は、野山真言宗に属するお寺であり、800年ほど前に創建されたと伝えられている。この十一面観音さまがご開帳になるのは50年に1度だけ。ゆえに、お参りにもちょっとした"作法"が必要になる。

結いの紐を両手に挟んでお願いごとを(写真は2017ミス日本酒京都代表の白濱萌音さん)

まず、十一面観音さまの前に座り、鈴を2回鳴らす。この2回には、姿が見えない十一面観音さまに来訪を告げる意味がある。鳴らした後は、目の前に垂らされた結いの紐を両手に挟んでお願いごとをする。この結いの紐は十一面観音さまとのご縁を結ぶためのもので、紐はそのまま十一面観音さまの中指と薬指に結ばれている。本堂に響く鈴の音と結いの紐とで、一層神聖な気持ちになってくる。

お茶とお菓子をいただく

本堂で小休止。この景色は夏限定となる

フォトジェニックな風景は伝統の技

本堂に参ったら、話題の客殿(則天の間)へ。畳の間の奥には大きなハートがひとつ。一瞬、何かの絵がかけられているのかと思ってしまったが、ハートの奥の風景が周囲の風景とつながった時、「これは窓だったんだ」ということに気がついた。

客殿(則天の間)

何気なくある風景も、ハートからのぞいて見てみると、そこだけ特別な空間のように感じられる。春夏秋冬でハートの風景が変わるというわけだが、1日の中でも日の入り具合で味わいはまた変わる。ちょうど一瞬、窓の向こうを鳥が横切った。「このハートは生きているんだな」という気持ちにさせられた。

ハートだけを見ると絵のようにも見えなくはない

そして見上げれば、端から端までびっしりと絵がはまっている。その数なんと160枚。花や日本の風景をテーマに描かれており、角には守護する四神(青龍(東)、白虎(西)、朱雀(南)、玄武(北))が描かれており、その横には春夏秋冬の舞妓がひっそりと佇んでいる。

ただただ圧巻である

玄武の横に舞妓

青龍の横にも舞妓

このハート窓は、ただかわいい空間を作るために、というものではない。窓は「猪目窓(いのめまど)」と命名されており、日本に古くからある文様のひとつである猪目を用いたものだ。ちなみに、猪目はその字の通り、猪の目をモチーフにしたという説のほか、お釈迦さまに縁のある菩提樹の葉がモチーフという説もある。

この形は魔よけや福を招くと言われており、寺院等ではよく使われている建築装飾となっている。実際、窓の他にも境内のいたるところで猪目を見ることができるので、ちょっと探してみるといいだろう。

客殿には窓以外の場所にも猪目あり

もちろん、本堂にも

客殿は「自然豊かなこの宇治田原町を五感で感じてほしい」という想いを込めて構想され、あえて神仏を祀っていない。しかし、もし火事になどの災害が起きた時、「神仏を祀らなかったから」と後悔をしないだろうかと悩んでいた住職に、大工から「猪目を生かしてみては」という提案があったという。また、宇治田原町は町全体の地形がハート型をしていることにも縁を感じたという。この構想から5年を経て、2017年3月、天井画と猪目窓の空間が完成した。

一つひとつ画に個性を感じる

また、客殿の天井画は、本堂の内陣に描かれた88枚の天井画から着想を得ている。本堂の天井画は250年前に描かれたもので、今では明確に絵柄を視認できなくなっているが、現在に蘇った正寿院の新しい天井画は、花や日本の風景をテーマに色鮮やかに輝いている。50cm角の160枚の天井画は、100人弱の絵師・美大生によって描かれた。作者の年齢も20代から60代までと幅広く、一つひとつに個性を感じる。畳の上に横になって眺めてみると、一面に広がった鮮やかな世界に時が経つのも忘れて引き込まれてしまう。

本堂にある天井画は、写真に撮ってみてやっと柄が分かる程度

2,000個の風鈴が風に吹かれて夏を彩る

夏だけの風景として、境内では9月18日まで、風鈴まつりを開催している。風が吹けば、2,000個もの風鈴が一斉に音を鳴らす。これだけの数にもなれば、結構な音量になるのだが、風鈴の伸びやかな音は耳に心地いい。風鈴のデザインもいろいろで、中には造花が風鈴の中に収まっているものもある。

風が吹けば2,000個が一斉に鳴く

一つひとつの絵柄を眺めるのも楽しい

中には造花が収まった風鈴も

これだけ風鈴があると、「我が家にも欲しいな」という気持ちになってしまうが、その願いはすぐに叶う。境内では風鈴の絵付け体験(1,000円)も行っている。デザインに迷ったら境内を見て回ればいいだろう。お手本になる風鈴は2,000個もある。「水彩絵の具で手を汚してしまうなんて、何年ぶりだろう」とふと思ってしまうほど、想像以上に楽しくなってくるはずだ。

風鈴の絵付け体験は1,000円。その場で持ち帰られる

「どの色を使おうか」と考えるのも楽しい

イメージした通りに絵付けができなかったものの、少なくともオンリーワンである

境内では、8月19日、20日、26日、27日、9月2日、3日、9日、10日、16日、17日の各日18時~21時まで、風鈴のライトアップも実施する。緑豊かな境内の中で眺める風鈴もいいが、夜は夜でまた違った幻想的な風景も楽しめそうだ。

●information
正寿院
住所: 京都府綴喜郡宇治田原町奥山田川上149
アクセス: 京阪宇治線・JR奈良線「宇治駅」から京阪宇治バス(180、182、184系統)で「維中前」下車、コミュニティバスで「奥山田」下車、徒歩10分
拝観料: 400円(お茶・お菓子・散華・叶紐付き)
拝観時間: 8:30~16:30

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