透き通った淡いブルーの海、風に揺れるヤシの木、幻想的なフラダンス……のんびり海辺に座っていると、すっかり日本にいることを忘れてしまう。そんなアロハなムードあふれる"瀬戸内のハワイ"こと山口県・周防大島。ハワイブームの今、ひそかに注目が集まっている同島の魅力に迫るべく、現地に行ってきた。

周防大島で観られるサタデーフラ

ハワイへの開拓移民時代に起源あり

なぜ"瀬戸内のハワイ"? と、不思議に思っている人も多いことだろう。その歴史は古く、明治18(1885)年に日本初の海外移民が始まった年に遡る。国からハワイへ開拓移民を送ることが決まった際、明治政府は多くの長州出身者で構成されていたことから、職不足に悩まされていた同島を支援するためにも、大勢の島民がハワイへと送られることとなった。

移民の歴史が学べる「日本ハワイ移民資料館」

10年間における日本全国のハワイ移民の人数が2万9,084人で、うち山口県が1万424人と約1/3と大多数であり、その中でも周防大島が3,913人を占める。瀬戸内の小さな島から約4,000人もの島民が移民になったことから、周防大島とハワイで深い絆が結ばれることとなったのである。

現地で使われていた日本語の教科書

移民たちが使っていたキッチン用品

ハワイへ渡った島民たちは、プランテーション(さとうきび畑)の仕事に就いた。はるばる出稼ぎでハワイにやってきた人々だったが、仕事は朝から晩まで長時間に及ぶうえ賃金は安く、相当に過酷な労働であったと言われている。早々に帰国した者もいれば、重労働に耐えて出世する者、はたまた別の事業を起こして成功を掴む者もいた。現在もハワイには大勢の島民の子孫たちが暮らしている。

日本人移民のデータベースを閲覧可能

ハワイの守り神ティキ

これら周防大島とハワイのつながりについては、島内にある「日本ハワイ移民資料館」で貴重な展示資料を通じて学ぶことができる。

月日が流れた昭和38(1963)年6月22日、これら移民の歴史が功を奏し、周防大島とハワイ州カウアイ島の姉妹島縁組が締結。現代へとつながる文化や産業などの交流活動が展開されるようになったのである。

ハワイムードたっぷりの"景観"

これらの歴史的背景があり、現在の周防大島では本場さながらのハワイムードが再現されている。まずは景観。島内の随所にヤシの木が立ち並ぶ海岸通りでは、ふらりと散歩すれば「ここは……ハワイ?」と思わず錯覚するほど、南国ムードに身も心も浸ることができる。

ヤシの木が立ち並ぶ海岸通り

海は透明度が高く、魚が泳ぐ姿を見られる

また、島内に"1日3時間しか行けない"というレアスポットがあるというので行ってみた。それが、「サザンセトとうわ」という道の駅のすぐ裏手にある「真宮島」。干潮時だけ島へと続く砂の道が現れることから、島きってのパワースポットとして島民たちから親しまれているのだ。

道の駅サザンセト

立ち寄ったタイミングがちょうど干潮時で、幸運にも島に渡ることができた。美しい海に囲まれた白い道が島へと続く景観は、なんとも神秘的。

海面に浮かび上がる白砂の道

島内では石が積み上げられ神秘的なムード

島民の愛が詰まった"フラダンス"

ハワイといえば"フラダンス"。夏休み期間の毎週土曜日には島内の随所(H&Rサンシャインサザンセト・道の駅サザンセトとうわ・片添ヶ浜海浜公園など)で、"サタフラ"ことサタデーフラが実施されている。

夏休み期間の毎週土曜日に行われるサタデーフラ

本場ハワイのフラダンサー直伝とあって、踊りはかなり本格派。有名なフラソングはもちろん、「涙そうそう」といった日本の曲をアレンジしたものもあり、フラを初めて観る人でも親しみやすい踊りとなっている。

ダンサーの方にお話を伺ったところ、「海をバックに芝生のうえで踊れるなんて、日本ではなかなかないロケーションです。本場のハワイのような雰囲気で、気持ちよくフラを踊れるのは嬉しい限りです」と、とても嬉しそうに話していた。

夕暮れの海をバックに、幻想的なフラを楽しめる

フラはもともと神様に捧げる儀式であり、その踊りは"心の言葉"を表現するもの。周防大島のフラダンスを見ていると、ダンサーの皆さんの"喜び"の気持ちがひしひしと伝わってきて、なんだか元気をもらえる。

近海の鮮魚を使った"島グルメ"

続いては旅の醍醐味である"島グルメ"。瀬戸内海に浮かぶ島とあって、鮮度抜群の魚介がとにかくうまい。中でも特筆すべきは"アロハオイスター"と名付けられた超ビックサイズのカキだ。

大ぶりのカキを使用したアロハオイスター

カキの大きさは15cmを超える

今回は、島のリゾートホテル「H&Rサンシャインサザンセト」で、オリーブオイル仕立てやイタリアン風など多彩な料理でカキを堪能した。長年、養分豊富な近海で育まれたカキとあって、サイズが大きいうえに味も濃厚。ひとつ食べただけでも、かなり満足感がある。もちろんシンプルな生食や焼きでもうまいのだが、南国風に味付けされているのがポイントだ。

南国風の見た目も鮮やかなアロハオイスター

他にも、「太刀魚の鏡盛り」というフグ刺しのように盛られた太刀魚をバーナーで炙って食す料理や、島のブランド牛「周防高森和牛」の石焼きなど、オリジナリティあるメニューを賞味。食材に恵まれた島とあって名物料理も数多く、ハワイにも引けを取らないグルメアイランドと言えるだろう。

太刀魚の鏡盛り

刀の打粉に見立てた柑橘で塩を付ける

バーナーで豪快に焼き色を付ける

ブランド牛「周防高森和牛」の石焼き

今回、宿泊したホテル「H&Rサンシャインセト」

日本とハワイの良さが集まった島

今回、駆け足で島内を巡ったのだが、少しの滞在時間でもすっかり島の魅力に癒された。ハワイのような美しい景観、日本ならではの食文化、そしてのどかな島ならではの温かい島民たち。"瀬戸内のハワイ"と称されるようように、まさに"日本とハワイの良さが集まった島"であった。今度はもっとゆっくりと島を巡りたい。また戻ってきたいと思わせてくれるいい島だ。

周防大島と本土を結ぶ全長1,020mの大島大橋