『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)の"恋ダンス"がヒットして以降、『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)、『カルテット』(TBS系)、『ボク、運命の人です。』(日テレ系)、そして今夏の『セシルのもくろみ』(フジテレビ系)、『警視庁いきもの係』(フジ系)、『悦ちゃん』(NHK)で、出演者が歌って踊るエンディングが採用されている。

ところが、この夏ドラマはそれだけではなかった。『ウチの夫は仕事ができない』(日テレ系)と『あいの結婚相談所』(テレ朝系、きょう28日スタート)では、いよいよ劇中にまで"歌って踊るシーン"が採り入れられているのだ。

なぜ、物語の流れを分断しかねない「歌って踊る」ミュージカルのようなシーンが組み込まれているのか――。

『あいの結婚相談所』(きょう28日スタート、テレビ朝日系 毎週金曜23:15~ ※一部地域除く)
主演の山崎育三郎演じる結婚相談所所長の藍野真伍と、アシスタントのシスターエリザベス・猪田花子(高梨臨)が、毎回ワケありの依頼者をゲストに迎え、入会金200万円で願いを成就させていく。
(写真左から)山賀琴子、鹿賀丈史、高梨臨、山崎育三郎、前田美波里、中尾暢樹

"ながら見"を引きつける歌と踊りの力

今年は、映画『ラ・ラ・ランド』がアカデミー賞最多6部門を受賞し、『美女と野獣』の実写版が大ヒットするなど、ミュージカルに注目が集まっているのは間違いない。しかし、何度も歌って踊る"ミュージカル・ドラマ"が作られるほどのブームではなく、「あるシーンのみ歌って踊る」という限定的な演出に留まっている。

やはり影響が大きいのは『逃げ恥』の"恋ダンス"だろう。ドラマ関係者が、歌と踊りの持つ力を再認識したのは間違いなく、「エンディングからもう一歩進んで、シーンの1つとして採り入れられないか」と考えているのだ。

恋ダンスは、ドラマ本編を"ながら見"していた人の目も引きつける力があった。近年、ドラマはスマホやパソコンなどに視聴者の集中力を削がれてきたが、リズムと動きのある、歌って踊るシーンは「つい見入ってしまう」という人が多い。

もともとミュージカルは、舞台から最後列の観客にも届くような声量と大きな動きが必須。それをテレビで採用すると過剰演出に見えてしまうため、これまでは敬遠されがちだったが、ながら見の多い現代では意外にフィットするのかもしれない。

ネット拡散が期待できる短尺動画に

また、歌って踊るシーンは、「ネット拡散に適した短尺動画にしやすい」というメリットもある。恋ダンスも、短尺動画がアップされてからアッという間に拡散され、新たな視聴者の開拓に貢献した。短時間歌って踊るだけで、視聴者の目を引き、「面白い」と思わせられるのは、俳優たちのルックスと表現力によるものだろう。

短尺という意味で、CMではさらにミュージカル風の演出が増えている。高畑充希が「それは人生、私の人生」と歌って踊る「かんぽ生命」、武井咲が老若男女のダンサーたちと歌って踊る「イオン・ザ・バーゲン」、橋本環奈・くりぃむしちゅー・lolがポップに歌って踊る「住宅情報館」、八木莉可子が150人の学生と修学旅行をしながら歌って踊る「ポカリスエット」など、インパクトのあるものが多い。

CMで歌って踊る演出の意図は、短時間で視聴者に「強く、鋭く、深く」印象づけること。その手法がドラマにも導入されているという見方もできるだろう。