続いて教室をのぞいてみよう。見学させていただいた教室は、これまで拝見させていただいたほかの学校に比べ、面積的には若干小ぶり。だが、正面と左前にプロジェクターによる投影可能なボードが設置され、多くの情報を伝えるシステムだというのはひとめでわかった。

残念ながら、すでに昼休みとなっていたので実際の授業風景はのぞけなかったが、印象に残る光景を目にした。それは、生徒たちはお弁当を食べながら談笑し、そして手元のiPadで何かしらの情報収集、あるいはコミュニケーションを行っている姿だ。廊下にiPadを手にしていた生徒もみられた。だが、友人との“おしゃべり”、つまり、リアルなコミュニケーションはまったく失われていない様子だった。

「iPadをみせてください」の声に応える生徒。皆、ノリがいい! 廊下でも友達と立ち話しながらiPadを操る生徒の姿がみられた(右)

横濱先生は「社会に出たときに触れるデバイスを“使う心”を育てることに主眼を置いています」と話す。どういうことかというと、社会人でもデバイスに振り回され、トイレに長時間こもりスマホをのぞいたり、運転中にスマホをいじったりということがある。最近では「Pokémon GO」を自転車乗車中、あるいはクルマの運転中にプレイすることが社会問題になった。どんなに新しいデバイスやアプリが出てきても、正しく使える心構えを育てるということだ。デバイスを使っていいときは使い、NGなときには使わない。または、デバイスに夢中になりすぎて、本来やるべきことをおろそかにしないという姿勢を育てているということだろう。

バーチャルなコミュニケーション手段も用意

一方、“バーチャル・コミュニケーション”にも力を入れている。聖徳学園には教職員・生徒をあわせて900人ほどが在籍しているが、それぞれが「Talknote」というSNSアプリを導入し、バーチャルにコミュニケーションを図っている。

たとえば、日曜日の夜に何か問題が起こった際に、生徒が先生にSNSを使って連絡。先生は、月曜の朝にいきなり問題を告げられるのではなく、日曜の夜のあいだになんらかの対策を考える余裕が生まれるという。

また、こんな効果もある。多くの子どもが集まる学校では、やはりリアルなコミュニケーションが不得意な生徒がいる。そうした生徒は孤立しがちだが、それはまわりの生徒がその子のことを理解していないからという場合もある。だが、リアルなコミュニケーションが不得意な生徒がSNSで自分のことを発信し、それをほかの生徒が理解すれば、リアルなコミュニケーションに発展する。

ただ「しばしばSNS上で仲違いも生まれます(笑)。そんなときでもSNS上で仲裁する生徒が現れて、かえってグループとしてのコミュニケーションが深まります。教師としては、ログとして会話が残るので、何が仲違いの原因なのか、判断しやすくなるのがメリットでしょう」と横濱先生は話す。